3話
3話:イベント開始
「ヒカリ!今だ!!」
「おう!」
俺は目の前に飛びだしてきたボールのような体に短い羽と足を持った金色のニワトリめがけて刀を振りぬく。
「コケー!?」
パリンッ
そんなガラスの砕けるような音を立てながら金色のニワトリ、『スターターチキン』は消滅する。
「うっしやったな!」
「おう!」
俺はテツとハイタッチを交わす。
俺たちがいるのは西方フィールドの草原エリアで近くには何組か俺たちと同じように剣や斧で敵と戦っているプレーヤーがいる。
現在、7月25日15時49分。
あのセレモニーが終わってから約一時間が経過していた。
現在の俺とテツのステータスがこんな感じだ。
________________________
Name:ヒカリ
性別:男
Lv3
種族:人間族
HP:20/20
MP:20/20
STR:18(6)
VIT:10
INT:22(8)
DEX:14(3)
AGI:12
LUK:15
《スキル》
【鑑定Lv4】【剣技Lv3】
________________________
※( )の中の数字はその値に含まれるスキルによる加算分を表す。
________________________
Name:テツ
性別:男
Lv3
種族:狼人族
HP:27/30
MP:10/10
STR:23(5)
VIT:19(2)
INT:3
DEX:7(2)
AGI:12
LUK:6
《スキル》
【剣技Lv3】【拳技Lv2】
________________________
※( )の中の数字はその値に含まれるスキルによる加算分を表す。
【剣技】
刀剣系武器を使用時、相手に与えるダメージに補正がかかる。
レベルが1上がるごとにSTRが+2され、DEXが+1される。
【拳技】
体の一部を使った攻撃の時、相手に与えるダメージに補正がかかり、自損ダメージをなくす。
レベルが1上がるごとにSTRが+1され、VITが+2される。
約一時間の狩で俺は新しいスキル一つを、テツは二つを手に入れた。
ちなみに、スキルはLv50でマックスになり、新しい派生スキルが生まれる。
そして、派生スキルが生まれても元の下位スキルは残る。
スキルの所持数には制限はないが、スキルの取得自体が高難易度であるためそこまで多くのスキルを持てるとは思えない。
閑話休題
現在、俺たちが二人で狩りをしているのには理由があった。
実はセレモニーの後、三人で西門を出てすぐ右にある『スキル修練所』を訪れたのだが、ハルの獲得したかった『魔法系スキル』は修練所では習得できず街の中のどこかで習得できるようなフラグをたてられたので、ハルから別行動を取り無事スキルを習得するまで狩りをしてるよう頼まれたのである。
俺とテツは【剣技】を取得したかったのだが、修練所の教官が自信があるようなら外で剣を使ってモンスターを狩って習得した方が効率がいいと言われたので二人でイベントモンスターの『スターターチキン』を中心に西側フィールドで狩りをしてスキル習得に励んでいたのである。
まあ、俺はスタイル的に魔法剣士にしたかったのだが、今日はゲーム初日という事もありきっと習得するところが混雑しているだろうと後日に先延ばしにしたのだ。
「ふー、結構狩ったな・・・てか、ハル遅いな。」
「確かに、もうすぐ一時間くらいになるよな。」
「はあ、フレンド登録し忘れたのが悔やまれるな。」
俺たちは次の獲物を探しながら軽い後悔をする。
「あ、テツ、あの雑草が密集してるところが怪しい。」
「ん、ここか?」
「うん、っと、ほれ、薬草があった。っと、これはカミレ草だな。」
「お前のその鑑定便利だよな・・・、アイテムがあったらすぐ分かるし。」
テツは俺が採取したところを探りながらつぶやく。
《LAWO》では採取ポイントはランダムに設定されており、一度その場のアイテムを取り終わると再びランダムで別の場所に移動する。
ただ、中途半端で採取をやめるとそのままの場所に残り別のプレーヤーも同じ場所で残りのアイテムを採取することができるのだ。
「まあ、これ結構便利だけど、採取ポイントは昔じいちゃんに山で教えてもらったことを生かしているだけだぞっと、このカミレ草ただの食材アイテムじゃなさそう。ほれ。」
俺は鑑定で表示されたアイテムの情報を可視化するとスワイプでテツに見えるように動かした。
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カミレ草
《食材アイテム》
薬用粥の材料として人気がある。
街にもこれを欲している人がいるかも・・・・
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「うん、これは確かに納品系クエストとかありそうだな。まあ、後で探してみるか。」
「だなっと、この先に金色の何かが見えたから多分また『スターターチキン』じゃないかな?』
ピロリン♪
ピロリン♪
俺が先にいるモンスターを遠目に発見し移動しようとしていると、通知音がなった。
この音はクエストを達成したりスキルを習得したりするときになるのだ。
「とりあえず、あいつを倒してからにしよう。」
「いいのか?」
「ああ、せっかくのイベントモンスターを他の奴に取られるのは悔しいからな。」
「おう、それなら了解だ。じゃあ、さっきまで通りいくぞ。」
「おう。」
俺は頷くと敵の後方に全速力で回り込む。
その間にテツが少しゆっくり目で敵に向かって直進に突っ込む。
これがさっきから俺たちがやっている狩りのフォーメーションだ。
これは『スターターチキン』も『チキンチキン』めっぽう逃げ足が速いことからできたフォーメーションだ。
まず、テツが俺が敵の後ろに着いたことを確認し、敵に飛び込みながら一撃を与える。
敵は攻撃がクリンヒットする前に逃走を開始するため、大体は生き残る。
そして、敵は攻撃を受けた方向の百八十度反対方向に逃走するのでそこで待ち構えている俺が残りのHPを刈り取るという作戦である。
俺が位置に着くと、テツは早速切り込む。
「どりゃあ!ヒカリ!」
「コケ!?」
「おう!、オラッ!!」
「コケー!?」
パリンッ
「うっし、お疲れ、」
「おう、じゃあさっきの確認するぞ。」
「ああ、周りは俺が見とく」
「サンキュー」
俺たちはその場に座るとメニューウインドウを開いた。
すると、『スキル』のところが赤く点滅していた。
「お!、もう三つ目のスキル手に入れたみたいだ。クソー、一個は魔法のために取っとくつもりだったのに・・・」
「まあ、いいじゃんか。それより何のスキルだ?」
喜びながらも肩を落とす俺にテツが尋ねる。
「ん、えっと・・・・え!?」
「ん?どうした?」
スキルの欄を開いてびっくりして固まる俺にテツは訝しげな目線を送った。
「いや、スキルが四個になった・・・」
「は?・・・・じゃあ、さっきので一気に二つスキルをゲットしたってことか?」
「そうみたいだ・・・えっと、【識別】、【狩人の眼】っていうスキルだ。っと効果はこんな感じ。」
俺は効果画面を可視化してスワイプする。
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【識別】
採取ポイントや敵モンスターの弱点にマーカーが見えるようになる。
レベルが1上がるごとにINTが+1、DEXが+2される。
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【狩人の眼】
マップの敵検知範囲が広がる、ただし広さはスキルレベルに比例する。
暗いところでの視界が少し良くなる。
ターゲット機能を使用できる。
レベルが1上がるごとにDEXが+1、AGIが+2される。
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「うん、まあヒカリの役割的に取得してもおかしくないスキルだな。まあ、二つ同時に取得条件を満たしたかなんかだろう。その結果バグが起きて三個目までじゃなく四個目のスキルまで簡単にゲットできたのか、またはどっちかがすでに普通の条件下での取得条件を満たしたかのどっちかだな。まあ、気にしなくて大丈夫だと思うぞ。まあ、不安なら運営にメールをしとけばいいんじゃないか?」
「まあそうなるよな・・・まあいいか。うっし、狩りの続きやるか。」
「おう。」
俺は魔法に対する未練を一旦置いといて、新しく得たスキルを使いながら次の獲物を探すのだった。
ハルが帰って来たのはそれから三十分後だった。
「ごめん、ごめん、街のどこかにある魔女の家探したり、魔力操作を覚えてたりしたら遅くなっちゃった。二人はどんな感じ?」
お望みのスキルが手に入ったようで、喜色満面のハルがこちらの状況を尋ねてくる。
「ああ、こっちは俺とテツがさっき4レベになったところ。二人とも《剣技スキル》は無事ゲットしたぞ。」
「おう、それとなハル、聞いてくれよ。さっきヒカリが4つ目のスキルまで手に入れたんだぜ。」
「え!!、」
テツの言葉にハルが驚きの表情をした。
俺はテツを非難を込めて肘で小突いた。
「おい、テツ!」
「いいだろ別に、ズルしたわけじゃないし。それにハルに言っただけなんだから。」
「まあ、そうだけど。後で運営に連絡するまであんまり言いふらしたくはないんだ。」
「ま、そっか。じゃあ、とりあえずは3人だけの秘密ってことで。」
「そうだね、私もそうするべきだと思う。」
3人の意見もまとまったことだし、次の行動に移す。
「ってことで、街に戻るか。」
「ええーーーー!!、今来たばっかりなのに。」
俺の提案に案の定ハルが難色を示す。
「いや、ハル、俺もテツも今、満腹ゲージが4分の3を少し切ってるくらいなんだ。まだ、どういった感じかもわかんないから一旦食料を買いに戻らないといけないんだ。ハルも一応満腹ゲージ減ってるだろ?」
「ん?確かに私はまだ5分の4くらい残ってるけど・・・・そうだ!修練所に料理スペースの貸し出しがあったからそこでヒカリが何か作ってよ!」
「へ?俺が?」
「おお!それは名案だ!」
ハルの突然の発案に俺は面喰う。
「いいじゃんか、リアルみたいに作ってくれよ!」
「んー、まあ、いいけど・・・今のアイテムだったら鶏肉の焼肉ぐらいだな。」
俺はメニューからアイテムストレージを覗き、料理内容を考える。
テツが言ったようにリアルでの俺の2番目の趣味が料理なので、俺たち3人の中で料理係は俺と決まっていたのである。
1番目の趣味は?って?、そりゃもちろんゲームでしょ。
次の行動も決まったので俺たちは早速移動を始めた。
元々すぐに街に戻る予定の上ハルを待っていたこともあり、修練所にはすぐに着いた。
中に入って受付に向かう。
「あの、すみません、料理場を借りたいんですけど。」
「はい、料理場ですね・・・ヒカリ様は本施設初めての利用という事で無料で提供いたします。また、追加料金100Gをお支払いになりますとオプションの調味料をご使用いただけますがどうしますか?」
「あ、はい、じゃあお願いします。」
「かしこまりました。では、こちらにタッチしてください・・・はい、確認できました。では右手に入られて手前から3番目の個室をお使いください。」
「はい、ありがとうございます。っと、後ろの二人も同伴できますか?」
「はい、可能ですが中の調理用器具などに触れてそれを使用した場合はご退出の際に料金を払っていただく必要があります。ですが、椅子や机、食器などは大丈夫ですのでご安心ください。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「いえ、スキル習得頑張ってください。」
受付のお姉さんににっこりと見送られ、指定された部屋に行く。
部屋の中にIHコンロと各種調理器具が綺麗に収納してあり、調理台の上にはバットがあり、その上に塩、砂糖、コショウ、七味などの調味料の他に焼き鳥用の竹串が置いてあった。
「うん、これなら焼き鳥もいけるな・・・っと、先にさっきのスキルの件運営にメールしとこう。これで料理スキルまで手に入れたら目も当てられないからな。」
「ふーん、まあいいけど、それって本当にバグなの?」
ハルの質問には俺も首を傾げざるをえない。
「ま、それは運営に任せて、ヒカリ、料理頼む。できたら次は三人で狩り行くぞ。」
「ああ、じゃあ、さっさと作るか。」
さっそく料理を始める。
最初に用意するのはさっき狩りで手に入れた食材アイテム、『鶏肉』だ。
このアイテムはこのゲームのマスコットモンスター『臆病鶏』のドロップアイテムだ。
まあ、今ならイベントモンスターの『スターターチキン』からもドロップする。
俺は『鶏肉|(胸肉)』を実体化させる。
ちなみに、肉系アイテムは実体化させる時に部位選択ができるので解体する必要はないのだが、丸焼き用に『全部』という部位も存在する。
コアなプレーヤーは自分で解体しそうだ・・・
まあ、俺はもちろん部位から調理するが。
俺はまず、胸肉を一口サイズに切っていく。
そして次に薄いフライパンに油を薄く引いて切り終った鶏肉を入れて塩コショウを軽く振る。
次にさっき採取したカミレ草ちぎって鶏肉と混ぜて炒める。
最後にレモン汁を軽くかけると完成だ。
「ほい、鶏肉のハーブ炒めレモン風味だ。とりあえずこれ食ってろ。」
俺は大皿に盛りつけて二人が座っているテーブルに置き、箸を二膳だす。
「おお!うまそう!!」
「うーん、やっぱりヒカリの料理はいいね!いっただっきま~す!」
二人はさっそく料理を食べ始める。
俺は料理を鑑定してみる。
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《鶏肉のハーブ炒めレモン風味》
鶏肉をハーブで炒め、最後にレモン汁をかけたもの。
・満腹度回復:20%
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初めての料理なのでうまくいったか判断ができないが、まあ二人ともおいしそうに食べてるから大丈夫だろう。
俺は次から次に箸を伸ばす二人を横目に見ながら次の料理の準備を始めた。
次は『鶏肉|(もも肉)』を実体化させる。
できたもも肉の皮を包丁で外し、皮も肉も小さく切り分ける。
次に七輪を取り出し、中に入っていた木炭に火をつける。
そして、七輪の火を気にしながら竹串の束を取り、皮は少し丸めながら、肉はそのまま串に刺していった。
できた串から七輪に乗せていき、軽く塩を振る。
完成した串は計50本。
作り過ぎた気はするがまあ気にしない。
串焼きの鑑定結果はこんな感じだ。
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焼き鳥(もも)
塩味の焼き鳥。
満腹度回復:5%
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焼き鳥|(皮)
塩味の皮の焼き鳥。
満腹度回復:5%
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まあ、悪くはない出来だと思う。
俺はとりあえずもも肉の串と皮の串を一本ずつ食べてみた。
「うん、美味い。まあ、いいんじゃないかな。」
ピロリン♪
俺が料理の味に頷いていると、またあの音が聞こえた。
俺がまさかな・・・っとメニューを開くと、スキルの欄が赤く点滅していた・・・・・・・・なんてことは無く、運営からのメールが届いていた。
「おい、まさかヒカリ、料理スキルゲットしたとか言わないよな?」
「え?ホントに?」
俺がメニューを見ているのを見てテツとハルが尋ねてきた。
「いや、今回は違ったよ。運営からのメール。えっと、内容は・・・『ご報告ありがとうございます。同件の不正作動の報告が数件あり、確認したところプログラムの不備を発見したため、即時修正いたしました。本件はこちらの不手際に原因があったため得られたスキルの消去などの措置は行いません。お手数をおかけしました。』だってさ。」
俺はせっかく得たスキルが無くならないこととバグが修正されたことに安堵のため息を漏らした。
「すげーな、もう修正終ったのか。それに、小さなバグだったとはいえサーバーを閉じての修復作業もその他の確認作業もしないんだな。」
「いや、確かゲームの説明書にもあったけど、斎賀涼が開発した新しいプログラムのおかげでサーバーを開いたままの作業ができるようになったって言ってたぞ。」
「ふーん、すげーな。」
「すごいどころか。そのうち自動でバグを発見してその修正を行うプログラムも実装する予定だって書いてあったよ。」
「ああ、確かあったな、って、珍しいな。ハルが説明書読んでるなんて。」
「なっ!、失礼な。私だって時には説明書ぐらい読みますよーだ。」
俺の驚きにハルがむくれるが俺は気にせず完成した焼き鳥の串をバットの上にあったバナナの葉っぱっぽいものでくるんでストレージに収納した。
「じゃあ、狩りに戻りますか。」
修練所を出た後、ハルともフレンド登録を済ませて次は西側フィールドの本来の狩場である《クインメリーの森》に入っていく。
森の中は草原と違いアクティブモンスターが出現する。
しかし、草原エリアよりも高い確率で『スターターチキン』に遭遇できるのでイベントを進めるのにはおいしい狩場だ。
「うぉら!!」
「プギィィィィ!」
そんな悲痛な叫びを残し、イノシシ型モンスターの『マッドボア』が倒れた。
「このイノシシ、名前に『マッド』なんてついてる割りには攻撃力そんなに高くなかったぞ。」
「確かに、『マッド』なんて着いたらなんか攻撃的なイメージあるよね。」
「ああ、それは『マッド』が『発狂した』っていう意味の『mad』じゃなくて、『泥』って意味の『mud』だからだな。」
「へ?カタカナなのになんで英語の綴りが分かるの?」
ハルは不思議そうに首を傾げる。
「ハル、ドロップ品を見てみろ。ほら、『泥猪の毛皮』とかが手に入ってるだろ?」
「あ!ホントだ!、体の模様は泥によるペイントだったんだね。」
「ふーん・・・・・・・・・・」
ハルが納得している横で、テツが分かっていなさそうに頷いている。
まあ、いいが。
そんなこんなで、数時間俺たちは森の入り口付近で狩りを続けるのだった。
「う~ん、結構狩ったね~。」
「ああ、レベルも全員5になったし、今日はこんな感じでいいんじゃないか?」
「そうだね。日もだいぶ傾いてきたし、今日はもう狩りを終わりにして街に戻ろっか。」
「そうか、俺はまだ少し狩り足りないからここに残るぞ。」
「分かった、じゃあ死に戻りしないように気を付けろよ。」
「おう。じゃあな。」
俺たちはパーティーを一度解散すると、再びハルと二人で組みなおして街に向かう。
「じゃあ、まずはドロップ品を売りさばいてから街を探索するか。」
「うん、結構倒したしね。でも、このゲーム最初からレベル上がりにくいんだね。」
「みたいだな。おそらく、5区切りなんだろう。まあ、俺はもうちょっとで6になるし、テツは多分今日中に6か7くらいになってるんじゃないか?」
「まあ、あのゲームバカならなると思う。」
俺たちが他愛もなく話していると、俺の視界に反応するものがあった。
「ハル、ストップ。あれは『スターターチキン』だな。行き道だから狩って行くか。」
「うん。」
俺たちは頷きあうと、テツとやっていたように俺が敵の背後に回り込む。
「『炎神の息吹、固まりて、敵を討て、』ファイヤーボール!!」
俺が合図を送ると、ハルは『スターターチキン』に向かって【火魔法】の初級技である、『ファイヤーボール』を放つ。
「コケぇー!?」
『ファイヤーボール』をまともにくらった『スターターチキン』は驚き声をあげながらこちらに転がってくる。
「スラッシュ!」
「コケェ、」
最後は物悲しげな悲鳴をあげながら『スターターチキン』を構成していたポリゴンが粉々に砕け散った。
俺が使ったのは【剣技】スキルの初級アーツ、『スラッシュ』だ。
このゲームでのアーツは体を自動に動かしてくれる機能などついていない。
まず、アーツを取得するとスキル画面にアーツの詳細が表示される。
そして、詳細画面にある動作確認ボタンを押すと新しいウインドウが開き、そのウインドウで黒子アバターがそのアーツの動きを映像で教えてくれる。
使用者はそれを真似してそのアーツを習得する。
ただ、あまりにも難しい動作は詳細画面に動作練習ボタンがあり、それを押すと体が自動で動き、アーツの動作を確認でき、その後使用時に目の前に剣や足などを置く位置にマーカーが出現して補佐してくれる。
しかし、かなり難しいので成功確率はやはりプレーヤースキルに依存してしまう。
また、この動作確認ボタンで発動したアーツは攻撃力0判定になるのでこれを使って攻撃するのはできない。
そして、実際にアーツを発動するには、まずボイスコマンドでアーツ名を言うとそれに合わせたライトエフェクトが武器にともる。
次にプレイヤーがアーツの動きを自力で再現し、アーツの動作に近いほど攻撃力に強化補正などがかかるのだ。
長々話してしまったな、
閑話休題
ピコン♪
俺が『スターターチキン』を倒し、顔をあげると目の前にウインドウが表示された。
ちなみに、設定によってお知らせのアラームは変更できるのでスキル習得など、それぞれアラームを変えたのだ、紛らわしいから。
___________________________________
移動アイテム|《始まりのダンジョンキー|(二人用)》を獲得しました。
使用してダンジョンに移動しますか?
YES/NO
___________________________________
「おお!」
「どうしたの?」
「ああ、いや、今日のセレモニーで言ってたダンジョンに行けるアイテムをゲットしたけど、今から行くか?」
「ん・・・・・・・」
俺がハルに尋ねるとハルは少し悩むような声をあげた。
「ちょっと待って、時間は大丈夫だけど・・・うん、行こう。観光はまた今度でいいし、少し経った方がプレーヤーのお店とかができて面白そうだからね。」
「そうか、じゃあ、行こうか。」
「ちょっとまって、そう言えばテツを呼ばないの?」
ハルはハッと今思いだしたように聞いてくる。
「ああ、今二人でパーティーを組んでるからかアイテムが二人用なんだよ。ほら、」
俺はそう言いながら、ウインドウを可視化して見せた。
「あ、ホントだ。それなら仕方ないね、」
ハルはいたずらっぽく笑うと納得の表情を見せた。
「うし、じゃあ行くか。」
俺はそう呟くと、YESのボタンにタッチする。
この後、俺たちはこの決断を後悔することとなる。
すくなからず、この待ちに待ったゲームの開始に興奮していたのだろう。
初日から始まったこのイベントに気持ちがはやっていたのだろう。
そして、初日にゲットしたレアなイベントアイテムとダンジョンの文字に心踊らされていたのだろう。
夕日傾き、初夏の匂いを感じさせる風の中、二人は長い夜を過ごすこととなる舞台へと足を踏み入れたのだった・・・・
どうも、このお話を読んでいただきありがとうございました。
次話も来週のこの時間に投稿したいと思っています。