1話
どうも、このお話を読んでいただく前に、この作品は別の作品の合間に執筆を行っている小説なので現在のストックが無くなると続きは超不定期になります。
感想から要望の声がおおくいただけたら更新が速くなるかもしれません。
今のところ二、三週間に1話程度更新し、現在執筆終了分を出したいと思います。
長々と申し訳ありません。
では、どうぞ。
1話:《Life of Another World Online》
西暦206X年、現在の科学技術は2050年に起きた大幅な技術革新により2000年代初頭の科学技術とは一線を画していた。
自動車の電気化はほぼすべて終了し、ネット環境が人々の生活に大きく関与するようになってき、また、お金などはほとんど電子上の数字と化した。
そんな発達した技術の中で最もその象徴と言われているのが《 Diving Virtual Reality System 》、通称『Dシステム』と呼ばれるものである。
これはその単語が表す通り、『バーチャルリアリティー』つまり『仮想現実』に潜り込む技術である。
この技術は様々な分野で活躍を見せた。
軍事方面では、仮想空間での実践演習。
医療法面では、患者の精神ケアや病棟で実際に行うことが難しいアニマルセラピーなど。
また、教育方面では、物理や地理、また大学の医学部で実際にその現象や形状などを見ることなどに使われていた。
しかし、この技術には大きな欠陥があった。
それは、その空間は『仮想現実』であって『現実』ではないことである。
見上げた空、燃え盛る炎、流れる水、そして、自分を構成している肉体においてわずかながらの差を生み出し、その差が小さな違和感となって『現実』と『仮想現実』の世界を大きく隔てていた。
その『現実』との差はこの10年の間3%を下回ることができていなかった。
そんな中、206X年3月に放送されたある一つのニュースが全世界に大きな驚きをもたらす。
その日、俺、青嶋光理は中学二年最後の長期休暇を過ごしていた。
休日の朝から優雅な朝食の時間を過ごしながらただ何となく朝の情報番組を眺めていた。
そんな時、とある衝撃的なニュースが放送された。
朝のほのぼのとしたニュースの途中で速報が入った。
キャスターがとある有名なゲーム会社の研究所からのビデオメールが届いた旨を伝えると映像が変わり、そのゲーム会社のマークが画面に映し出された。
そして、ビデオが再生されると30代半ばくらいの男が画面に映った。
『全国の紳士淑女諸君、朝のニュースを遮ってしまってすまない。私はゲーム会社『ネクスト』の開発研究部の『Dシステム』開発部長を務める、斎賀涼だ。この度このような形で時間をもらった理由を話そう。先日我々開発チームは『Dシステム』の『現実』との誤差を0.00009%まで縮めることに成功した。これは我々のチームが世界初となる快挙である。この技術はすぐにいろいろな現場で応用され全国民の助けとなるだろう・・・しかし、我々はゲーム開発のチームである。よって、我々はここに宣言する。我々『ネクスト『Dシステム』開発部』は来年の7月末までにこの新しい技術を用いた新たなゲームを作り出す。全国のゲーマー諸君、大いに期待を膨らませて待っていてくれ。』
このニュースが放送されてから数週間ネット上は新たなゲームに対する期待やその予想、はたまたそのデマ情報まで大いににぎわった。
しかし、その誤差ほぼ0%の『Dシステム』は身近なところで色々みられるようになったが、話題のゲームの話や情報はそのニュース以来、一度の放送されることなく一年がたった。
俺は近所の県立高校に入学し、いくつかの行事を終え、約束の7月へと入った。
期待に胸を膨らませながら約二週間毎日欠かさずテレビニュースやネットニュースを観ていたがめぼしい情報も入らず高校最初の夏休みを迎えようとしていた。
そんな日々の中、今、7月17日水曜日午後7時20分ついに待望のゲーム情報のビデオメールが夜の情報番組で放送されている。
『全国のゲーマー諸君、長らくお待たせした。今日までゲームの情報を一切長さ無かったことには深く詫びを入れよう。しかし、本日ついに今回のゲーム内容を発表しようと思う。本ゲーム名は《 Life of Another World Online 》、ゲームの仕様は『MMORPG』だ。現実と見まごうほど進化した『仮想現実』でもう一つの世界を生きているようにプレイしてほしいと思いこのゲーム名にさせてもらった。詳しい内容などは、明日の正午ちょうどからネクスト社ホームページのリンクにある《 Life of Another World Online 》のホームページに掲載する。その他にはゲーム開始時のチュートリアルやゲームソフトのパッケージの操作説明書を参考にしてくれ。そしてここからが重要だ。本ゲームは7月20日(土)に発売となり、正式サービス開始は7月24日(水)を予定している。また、ソフト販売第一陣は限定10万枚、第二陣は半月から一月後を予定している。このゲームは『現実』とは違うもう一つの世界として新鮮な気持ちでプレイをしてほしかったためこのような発売日のぎりぎりまで情報を伏せさせてもらった。そのことを改めて深く詫びるとともに一クリエイターとしてこの新たな世界が美しく咲きほこれることを祈って、この放送を終了させてもらう。』
そこで映像は終了し、テレビの画面は元の番組に戻る。
画面ではコメンテーターが今の放送についてのコメントなどを述べているが、そんな物は俺の頭に入ってこない。
俺の頭は《 Life of Another World Online 》の事でいっぱいだった。
今までやって来たゲームの経験から色々な予想が俺の頭の中を巡る。
どんなクラスがあるか、どんな種族のキャラを選択できるか、どんなスキルがあるか、どんなクエストがあるか、自分はどんなふうにプレイしようなどなど、予想と期待は無限大の広がりを見せていた。
しかし、その思考もスマホの着信によって中断させられた。
スマホの画面には『テツ』と表示されていた。
『おいおい光理!!、テレビ見たかテレビ!!』
電話の相手は俺の二人いる幼馴染の一人、赤海鉄也である。
テツとは母親同士が仕事で組むことが多く、物心つく前からよく一緒にいたいわゆる腐れ縁だ。
『おい、光理、聞いてんのか?』
「ああ、悪い悪い、考え事してた。」
俺はテツの声に適当に謝罪する。
『はあ、お前はまったく・・・っと、それより、さっきのニュース見たか?』
「もちろん。」
『そうか、それなら「まて、テツ」・・ん?なんだ?』
「ハルを混ぜないとまたいじけるぞ。明日までに各自情報収集、明日の昼休みに携帯で公式サイトを見ながら話すってのでどうだ?」
俺はもう一人の幼馴染を思い浮かべながらテツを諭した。
『ん、まあ、そうだな。じゃあ俺はこれからネットの掲示板を周ってみるぜ。』
「おう、俺もそうするよ。じゃあな。」
『おう。』
通話を終えると、俺はすぐに自室に戻りハルにさっきの内容をメールする。
俺はテーブルの上に置いてあるフルフェイスヘルメット型の『VRダイバー』を一撫でするとパソコンを立ち上げ掲示板を巡るのだった。
♢
「行ってきまーす。」
「あ!ヒーちゃん!待って待って!」
翌朝、俺が学校に行こうと家を出ようとすると家の中から呼び止める声が聞こえた。
「ん?なに?灯姉。」
俺が振り返ると家の中から黒髪のロングの女性が出て来た。
「ヒーちゃん、ヒーちゃん、今日お母さん遅いって、夜ご飯は何が食べたい?」
今年大学生になったばかりの姉、青嶋灯、通称灯姉が聞いてくる。
「え!?あ、灯姉が作るの?」
「うん、お姉ちゃん久しぶりだから頑張っちゃうよ~!」
俺は灯姉のその返答に冷や汗を流す。
灯姉はスポーツ万能、成績優秀、容姿端麗だが一つだけ欠点がある。
それは、どんなに頑張っても料理だけは決定的に不出来なことである。
昔、まだ灯姉の料理の脅威を知らなかったころ、三日三晩寝込むことになったのは忘れられない思い出だ。
「い、いや、今日は灯姉の方が帰るの遅いだろ。俺が作るから、灯姉は心配せず。」
「む、そんな事言ってこの前もヒーちゃんが作ったじゃない。今日はお姉ちゃんに任せなさい。」
「いや、俺、料理するの好きだから任せてくれ。」
「むぅ・・・じゃあ今日はヒーちゃんに任せるわ。でも今度はお姉ちゃんがするからね?」
「あ、ああ。行ってきます。」
「はい、いってらっしゃい。」
俺は冷や汗を流しながら朝の通学路を歩き出した。
本当に次の機会が来ないことを祈るばかりだ・・・
一人陰鬱な雰囲気で通学路を歩き、学校に到着する。
「あ!ヒカリ!やっと来た!」
俺が教室に入ると薄茶色のショートカットの髪を可愛く揺らしながら活発そうな少女が俺の席に座ったまま声をかけて来た。
「おお、ハル、てか、なんで俺の席に座ってんだよ。」
「えー、いいじゃん。だって、ヒカリが来るのが遅かったんだし。」
「いや、お前が先に行ったんだろ。いつもは俺ん家の前で待ってるのに。」
「だって、今日は私日直だったし~、いいじゃん、いいじゃん、減るもんじゃないし。」
「いや、別に俺の席に座ってることを責めてるんじゃない、お前の席は俺の隣なのになんでわざわざ俺の席に座ってるのかってことを疑問に思ってるだけだ。」
「いいじゃん、幼馴染なんだし。」
「いや、関係ないだろ・・・はあ、まあいいや。」
俺は本日何度目かのため息をついた。
そう、俺の席に座っているこの姦しいのが俺のもう一人の幼馴染、黄山遥香だ。
彼女とは母親同士が高校からの親友で、父親同士が同じ会社の同僚、そして家も隣同士とまるでラノベの設定のような関係ではあるが、はっきり言って物語のような甘い関係のない家族同然、うるさい妹のような奴である。
「ほら、座るからどけ。」
「は!椅子を温めておりましたぞ殿!!」
「秀吉か!!、てか、今夏だから温めるのはダメだろ。」
「ふっふ~、ナイス突っ込み!」
グッとサムズアップするハルにイラッときた俺は、それを無視してバックをおろし教科書の整理をする。
「ねえねえ、ヒカリ、昨日のメールのヤツ結局何か見つかったの?」
「いや、全然。推測とかデマばっかりだった。」
「だよね~、私も少し見てみたんだけど全然分かんなかった。やっぱり今日のお昼の公式サイトの更新を待たないとダメだね~。」
「だな、テツはまた遅刻かな?」
「そうなんじゃない?どうせ昨日のニュースで寝れなくなって夜遅くまでネット周ってたからって、朝は寝坊よ。きっと。」
二人でまだ来ない幼馴染の事を話していると朝のショートホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り、担任の教師で英語の担当でもある木崎先生が入ってくるのであった。
俺とハルの予想(期待?)を裏切らずテツは四時間目が始まるギリギリに登校してきた。
四限目の地理の担当の岩井先生から『またか!』と怒られながら入ってくる。
俺はアイコンタクトを使いテツに昨晩の成果を聞いてみたが、寝坊してまで探した努力も空しく何もわからなかったようだ。
四限目の授業が終わり、俺がハルと机をくっつけているところにテツが昼ごはんのパンを持ってやって来た。
食堂に行く前の席の前田の椅子を借りて俺たち三人はくっつけた机を囲んだ。
これが俺たち三人のいつもの昼食の時のスタイルだ。
ちなみにテツの席は遅刻の常習犯という事から黒板に向かって一番前の一番左であり、教室のドアは右側にあることから遅刻して教室に入ると絶対に教師の目に触れるという担任からのありがたい配慮のもと決定した席である。
「はあ、昨日は日が昇り始めるくらいまで周ってたのに成果なしとは散々だぜ・・・」
「お疲れ、まあ、俺の方も同じ感じかな。っと、テツこの前スマホ、新型のに変えたって言ってたよな?」
「ん?そうだが、どうした?」
「すまん、俺のスマホじゃサーバー負荷がかかり過ぎて全くページのロードが進まん。」
こうやって三人で何かについて話すとき、資料を出したりするのは俺の役目なのだ。
しかし、今回はサーバーのアクセス数が膨大過ぎて負荷がかかり、俺のスマホでは表示にかなりの時間が必要なようなのでテツに頼む。
「まあ、これだけ注目を集めてるんだからそうなるわな。」
テツはポケットからスマホを取り出すと操作し始める。
やはり時間はかかったがテツのスマホでは無事ページを開くことができた。
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《 Life of Another World Online 》
・Main
・Information
・Game System
・Goods
・Staff
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《Main》
『仮想現実に
新たな現実を・・・・』
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『開発者挨拶』
開発チーム主任の斎賀涼だ。
此度はこの《LAWO》に興味を持ってもらったことに感謝する。
本ゲームはゲームにかなりのリアリティーを求めた作品となっており、中には『クソゲー』だと感じる者も出るだろう。しかし、これが私の描きたかったもう一つの世界なのだ。どうかこれを手に取ったプレイヤーの諸君に最大限楽しんでもらえるように願っている。
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「いや、開発者がクソゲーとか言っちゃダメだろ!」
テツのスマホの画面を読み終わった俺は一人でつっこむ。
「確かにそうだが、ヒカリ、なんかそそられないかこの挨拶。」
「確かに、私もなんだか今までのRPGでは感じなかった感覚がするよ。」
二人の言われるまでもなく俺もそう感じていたが、何となく突っ込んでしまったのだ。
「まあ、今までやって来たRPGより手こずりそうだな。それより、他のところも見てみようぜ。」
「おう。」
それから、少し長めのローディング時間を経て俺たちは他のページを開く。
《 Goods 》はまだ『Coming Soon』の文字が浮かんでおり、
《 Information 》は『7月18日(木)Page Open』とだけしか書かれていない、
《 Staff 》にはネクスト社のお決まりのメンバーの名前が書かれていた。
「んー、やっぱまだ情報が少ないな。」
「まあ、昨日初めて発表されたぐらいだしね。ねえねえ、それよりテツ早く。」
「わあってるよ!じゃあ、最後にお待ちかねの《 Game System 》行くぞ。」
「ああ、」
「お願い!」
テツは俺たち二人の顔を一度見回してからリンクの文字をタッチした。
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《 Game System 》
・キャラメイク
・種族
・スキル
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『キャラメイク』
この世界でのステータスを決めるのは現実のあなたの持つ能力と想像力です。
最初のキャラメイク及びチュートリアルの時間にいろいろなテストを受けてもらいます。
キャラステータスはそのテストの結果を参考に作成されます。
ただし、その結果が百パーセント反映されるわけでは無いのでご注意ください。
また、キャラメイクによってプレイヤー決定できるのは、名前、目の色、髪の色、の三つのみです。
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『種族』
この世界に存在するのは『人間族』、『獣人族』、『妖精族』の三種族のみです。
『人間族』
魔法も物理攻撃も得意なバランスタイプ。
種族的特性が無い代わりにレベルアップ時にステータスに上がり補正がつく。
『獣人族』
物理攻撃の得意なパワータイプ。
種族種類として『犬』、『猫』、『狐』、『狼』、『兎』がある。
種族的特性としてその種類特有の感覚器官に補正がかかる。
『妖精族』
魔法攻撃の得意なテクニックタイプ。
種族種類として『森』、『闇』、『水』『土』、『妖精』がある。
種族的特性としてその種類の示すフィールドの戦闘や武器・道具の仕様の時に補正がかかる。
ただし、『ロア』においては取得スキルの内スキルレベルの高い順に三つのスキルに強化補正がかかる特化型特性を持つ。
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『スキル』
・取得方法
・スキル種類
『取得方法』
この世界では明確なスキルの取得方法は存在しない。
色々な活動を行って行くうちにスキルを取得し、その活動に対しての補正がかかり、スキルレベルが上がるごとに新しいアーツやより強い補正、ステータス強化がかかる。
また、救済措置として最初の街である『中央都市《アムンゼン・スコット》』にはスキル修練所が存在し最初の利用のみ無料で利用が可能であり、次からの利用にはゲーム内通貨Gがかかる。
『スキル種類』
《戦闘系スキル》
・《剣技》刀剣系武器の使用に補正、
・《盾技》盾の使用に補正、
・《斧技》斧の使用に補正、
・《槍技》槍の使用に補正、
・《鎚技》打撃系武器の使用に補正、
・《弓技》弓の使用に補正、 etc・・・
《生産系スキル》
・《鍛冶》鉱石アイテムの加工に補正、
・《木工》木材アイテムの加工に補正、
・《調薬》薬系アイテムの生産を補正、
・《裁縫》革や布系アイテムの加工に補正、
・《調理》食材アイテムの加工に補正、 etc・・・
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「「「・・・・・・・」」」
スマホの中身をすべて読み終わった後、俺たちをしばしの静寂が支配した。
最初に声を出したのはテツだった。
「これはネクストもかなり冒険したな・・・」
「ああ、これおそらくは運営がうまくやらないと本当にクソゲー扱いされる可能性がある。」
テツの言葉にうなずきながら俺も自分の意見を言った。
しかし、この言葉とは裏腹に俺たち三人の表情は笑顔だった。
「よっしゃ、今回は内容的に三人でまとまってやらずに競争だな。」
「「ああ(うん)」」
俺の言葉に二人は勢いよく頷く。
俺たち三人は親の影響か、三人ともかなりのゲーマーである(廃ではない)。
今まで三人そろっていろんなゲームをやって来て、最初の方は三人でプレイしていたのだが最近では三人別々でソロや自分のパーティーを作り攻略競争をしていた。
閑話休題
「で、だ、ここからが最も重要な話だ。」
今まで希望に満ち溢れた表情をしていたテツが急に深刻な表情を作った。
「明日、終業式を迎え、明後日の発売日のために明日の夜から店に並ぶことになる。店はいつも通り俺ん家のでいい。ただ、今日の朝、親父に言われたんだ。『明日までに夏休みの宿題を半分以上終わらせない限りお前たちにゲームは売らん』ってな。」
言い終わったテツの表情は完全に燃え尽きた消し炭の様であった。
テツの父親はゲームショップを経営しており、俺たちはいつもそこでゲームを買っている。
『ゲーム屋の息子とその幼馴染なら新作のゲームとか絶対に手に入るじゃん。』
とか思った人も居るだろうが、それは甘い。
親父さんは『ゲーマーたるものそれを入手するという困難を乗り越えた先でそのゲームをプレイしてこそ本当のゲーマーになれるのだ。』というよくわからない持論のもと、俺たち三人には徹夜でゲームショップの列に並ぶことの他にさらにもう一つの課題を用意するのだ。
しかし、それでも発売日当日の朝0時からしか店に並ぶことを許さず、また本人監視のもとマナー違反が許されないといった俺たち未成年には優しいルールのある親父さんの店で買うのが一番いいという事で俺たちは親父さんから出される様々な課題に取り組んでいるのだ。
閑話休題
「お、今回の課題は俺とハルには楽勝じゃん。」
「だねだね、テツ、ご愁傷さま~」
俺もハルもすでに今日の終礼で配られる予定の英語プリント以外の宿題全てを終えている。
「頼む、手伝ってくれ!」
「見返りは?」
「帰りにアイスおごる。」
「う~ん、ハルはそれでいい?」
「ミックシェイク、それ以外は受け付けませ~ん。」
ハルはジャンクフードの定番、ミクドノルドバーガーにあるドリンクデザートを所望する。
「ぬ~、Sサイズ?」
「勿論、Lサイズ。」
「くっ、分かった。じゃあ放課後頼む。」
これで今日の放課後の予定が決まった。
「まあ、よかったじゃないか、スターマックスじゃないんだし、千円もしないだろ?」
「ん、いや、ミックに行ったら絶対におごる分が増えるだろ・・・」
「確かに・・・」
俺は隣に座る傍若無人のお姫様を見てため息をつくテツに少なからず同情し、俺もつられてため息をついた。
と、後ろから何か視線を感じたような気がして振り返る。
しかし、その方向にこっちを見ている人はおらず、居たのは文庫本に視線を落としている図書委員の桜井さんだけだった。
「ん~気のせいかな?」
俺の小さなつぶやきは誰にも届くことなく教室の喧騒に飲まれていくのだった。
♢
「ほい、ブラックコーヒーとハルはアイスココアでよかったよな?」
7月19日23時50分過ぎごろ俺たち三人はテツの親父さんのゲームショップに近いコンビニで時間をつぶしていた。
昨日のあれからミックであらかたの宿題を終わらせ、また今日の放課後も使いテツを含めて三人全員の宿題を終わらせてから店に直行し無事親父さんから許可をもらうことができた。
宿題が終わってすぐは『これでゲーム三昧の夏休みが遅れるぜ!』とテンション高めだったテツだったがミックの店を出るときには自分のスマホを見ながら残金の少なさに絶望の表情で『これで夏休みはゲーム以外何もできなくなったぜ・・・』と肩を落としていた。
しかし、今はそんな面影もなくハルと昨日のバラエティ番組について話していた。
「おう、サンキュウ。」
「ありがとー。」
「ん、じゃあまあ、ボチボチ行くぞ。もう日付が変わるまで十分きってるからな。」
「「うーい(はーい)」」
俺の号令で歩きはじめる。
店に近づくにつれて《LAWO》ねらいと思われる人たちが増えて来た。
「はーい、今から《 Life of Another World Online 》の販売の列を開放します。走らずに並んでくださーい。」
俺たちがちょうど店の前に来る頃店の中から宅の親父さんがシャッターをくぐりながらでて来た。
俺たちはこれ幸いに先頭に並んだ。
「ほっほう、やっぱり光理君はすごいね~計算通りかい?」
「いえ、今回もたまたまですよ。」
「はっはっは、それでも先頭をかっさらっているんだからすごいじゃないか。全く今回はちゃんと日付が変わるのを見て少しタイミングがずれるのを狙っていたんだがな。」
実際はある程度タイミングを計っていたので先頭では無く二、三番目くらいになる予定だったが、まあ早い分には問題ないだろう。
俺たちはハル、テツ、俺の順番で並びこれから始まる退屈との戦いに備えるのだった。
飽きたハルが立ったまま、俺がリュックに入れて持って来たタオルケットにくるまって眠りはじめ、テツはポータブルゲーム機を始めた。
マイペースな二人を横目に俺はまだ明けることの無い夜空を見上げていると、俺の親と同じ年ぐらいのおじさんがやって来て、テツの親父さんに話しかけた。
「すみません、仕事が終わらずに代役に並んでいてもらったのですがそこと交代してもいいでしょうか?」
「ん?ああ、かまいませんがちゃんと確認させてもらいますよ。」
「ありがとうございます。倉田君、助かったよ。」
おじさんは親父さんにお礼を言って頭を下げると、俺の後ろに立っている二十代後半くらいの男の人に声をかけた。
「いえいえ、部長にはいつもお世話になりっぱなしですからこれくらい安いものですよ。では失礼します。」
「ああ、明日は休みだろ?ゆっくり休んでくれ。」
男の人が列を抜けおじさんがそこに入る。
この店ではこんな風に代役と変わる場合もちゃんと親父さんに確認しないとゲームを売ってもらえなくなったりする。
また、親父さんが認めたことならだれも文句を言わないで受け入れてくれるので、やはり親父さんは利用者に信頼されているんだなっと改めてしみじみ思った。
「こんばんは、高校生のようだが夏休みかい?」
「はい、今日終業式でした。」
「ほう、そうかうちの娘も君たちと同じくらいで今日が終業式だったな。もしかしたら同じ学校かもしれんな。」
「そうなんですか、では娘さんのために今日はここに?」
「ああ、そうなんだ、珍しくお願いされてね。よくわかったね。」
「いえ、勘です。何となくそんな感じがしたので。」
「はっはっは、そうか、それはいい勘だな。しかし、開店まであと8時間以上もあるな君は、よくここに並ぶのかい?」
「はい、前の二人とは幼馴染なんですが三人でよく並んでるんですよ。」
「そうか、はは、前の二人のように立ったまま眠れる自信はないがいつもはどうやって時間をつぶすのかね?」
ちらっと前を見ると今までゲームをしていたはずのテツはその場で腕を組んだまま寝ていた。
「いえ、俺もその自信はないですね。いつもは携帯でテレビを見たり、星を眺めたりしてますよ。後は二人の世話ですかね。」
「そうか、じゃあ、暇つぶしに会話に付き合ってくれないか?こういうことは初めてでね、手持無沙汰なんだ。」
「はい、大丈夫ですよ。こういう一期一会な感じは結構好きなので。」
「そうかい、それは助かるよ。」
俺はテツにタオルケットを掛けた後、おじさんと話しながら店の開店を待つのだった。
どうも、外山です。
この作品を読んでいただきありがとうございました。
次の投稿は6月25日、その次が7月9日を予定しています。
本作品は感想を受け付けています。
どんなことでもどしどし送って来てください。
12/5、『学級委員の桜井さん』→『図書委員の桜井さん』に変更しました。
※注意:作者は豆腐メンタルです・・・