第一章5話・・・王都の重要散策
食事を済ませると私はセレスティアルさんに連れて来られた部屋にいた。
目の前には私の先生となる人が立っている。
名前はロテール=カルバリンド。
私と同じ黒髪に水色の瞳をした何かえらく魅力的と言うか、えろっぽいと言うか、そんな雰囲気を漂わせる男性だった。
「これから俺がサキちゃんにこの世界の常識や歴史なんかを教えていくんだけど、授業は休日以外の毎日。午前中の4時間くらい。大丈夫、1時間おきに休憩するからね?」
「あ・・・はい・・・」
サキちゃん・・・。
何か子供扱いっぽい。
まあどう見ても先生は年齢的に30代中ごろって感じだし、彼からすれば私は子供なのかもしれない。
「昼頃授業には終わるから、そうしたらセレスティアルが迎えに来てくれるよ」
「はい・・・」
セレスティアルさんのおかげでフランさんとガウディさんと仲良くなることが出来た。
昼にまたみんなで一緒にご飯を食べることが決まっている。
楽しみだ。
「さ、セレスティアルのことを思い出してうっとりとするのはやめて、授業を始めます」
「えっ!?」
いきなり変な事を言われて驚く私を見て先生があきらかにニヤニヤと笑う。
私、セレスティアルさんを思い出していたような顔してたんだろうか?
慌てて顔を抑える。
「セレスティアルほど美しい容姿を持つ者がいれば目を奪われるのはしょうがない。私もあの美しさには眼福を感じるものだよ。サキちゃん」
先生は苦笑しつつ授業を始めた。
数字の数え方から一般的な生活状況まで、定期的に休みを挟んで色々と先生が話してくれて、私は質問がある時に口を挟む感じで授業は進む。
私の世界で普通のことから、さすがファンタジーの世界・・・と思うようなことまで様々な話を聞いた。
この世界では妖精やエルフ、人魚までいるらしい。
人魚は人魚姫みたいな感じではなく、海のハンターとして最も残酷で恐ろしい生き物らしかった。
人魚を見たら逃げるのが普通らで、人間すらその捕獲対象に入っているらしい。
人間を食べる人魚・・・さすがにそれは怖い。
そんなふうにこの世界のことをぽつぽつ話を聞く。
他にもこの生活で生活していくのに必要最低限の知識も教えてもらう。
様々な話に夢中になっているうちに時間はあっと言う間に過ぎていく。
そして授業が終わる頃、セレスティアルさんが迎えに来てくれた。
「授業はどうでしたか?」
「面白かったですけど、人魚に食べられちゃうという事に衝撃を受けすぎて印象がそれだけになってしまいました」
「ああ」
私の言葉にセレスティアルさんがクスクスと笑い出す。
「貴方の世界で人魚はどんな生き物なんですか?」
「人魚は架空の生き物で、恋をして失恋して死んでしまう物語があるんです」
「おや、ずいぶんロマンチックなんですね」
「人喰い人魚より、ロマンチックな恋をした人魚がいいです」
「ふふ・・・確かにそうですね」
他にも色々と話しながら食堂へ向かった。
午後は自由時間になっていたのでフランとガウディさんとセレスティアルさんについて騎士団を訪ねる行く事になった。
騎士団本部は王宮の西側の裏にあり、そこから少し離れた場所に騎士団専用の訓練棟や寄宿舎がある。
私は本部を通り、騎士団の訓練棟にやって来た。
「うわー・・・すごい広い!」
柵に囲まれたそこは向こうまで見渡せるほど広かった。
そしてあちらこちらから人の掛け声が聞こえる。
「この訓練棟は戦闘訓練場、騎馬訓練場、魔導訓練場、トレーニング場、戦術訓練場に分かれてる」
フランが私の横で方向を指さしながら説明してくれる。
「朝はトレーニング場で練習してから朝食、その後はカリキュラムに応じて訓練に入るか、護衛、警護などの仕事が割り振りられる。それが騎士の俺達の1日だな。基本的に仕事は4日おきに休みが入る。休みは自由にして構わないが、王都から許可無く出ることは許されていない。いつ召集がかかってもいいように待機してなくちゃならないからな」
「なるほど・・・騎士として常に一定の緊張感を持つようにしなくちゃならないのね」
「・・・ああ」
4人でトレーニング場へと進んでいく。
その間、騎士の人達が真剣に訓練するのが見えた。
「あれ? セレス!」
「ジャン・・・」
トレーニング場にいた一人がセレスティアルさんに声をかける。
クルッとカールしている緑の短い髪に金の瞳。
背が高く、育ちがよさそうな男の人がこちらにやってくる。
「彼の名前はジャン=ボーラン。ボーラン公爵家の次男で将来は騎士としてとても有望視されてる人です」
セレスティアルさんが珍しくその人の背景まで説明してくれる。
ジャンさんは何というか、王子だって言われても信じてしまいそうな見た目をしていた。
顔もかなりのイケメンっぷりだ。
「おや、彼女は?」
「彼女はサキ=セナ。私がサポートとしてお世話させていただいてる人です」
「そうか・・・。サキ=セナ殿、初めましてジャン=ボーランと申します。私でも何かお手伝い出来ることがあればいつでも頼ってきてください」
「あっ、はい・・・。ありがとうございます・・・」
紳士的にジャンさんが微笑む。
でもその微笑みが嘘っぽかった。
表面的に微笑んでいるだけで、心からではないような気がする。
私は小さく頭を下げると横にいたセレスティアルさんに少しだけ近づいてジャンさんから離れた。
「サキ殿?」
セレスティアルさんが私の様子に少し気づいて声をかけてくる。
当然ジャンさんも気づいたのか少し困ったように苦笑した。
「急に馴れ馴れしくしてしまったようで申し訳ない」
「いいえ、そんなことないです。・・・親切な申し出ありがとうございます」
私の言葉にまたジャンさんが微笑む。
今度は少し戸惑っているような笑みだった。
「ジャン。今トレーニング場にいるってことは今日公休か?」
「ええ、昨夜から家に戻っていまして、先ほどこちらに戻ってきたばかりでトレーニングしていなかったものですから」
フランが話を変えてくれたので少しほっとする。
気まずさがなくなり和やかな雰囲気が漂う。
「さて、俺とフランはこの後訓練が入ってるんだが、セレスとサキはこれからどうするんだ?」
「サキ殿はこれから魔導棟へ案内し、そこでクレデリア=ミンツ殿とサキ殿を引き合わせることになっています」
「そう言えば私、最近クレデリアとは会ってないな。よろしく伝えておいて?」
「ええ、伝えておきます」
話が終わり、フランが私を見る。
「サキがこれから会うクレデリアは私の従兄弟なんだ。ちょっと変わった子だけど、裏表のない真っ直ぐで素直な子だから仲良くしてやってほしい」
「そうなの? 私の方が仲良くしてもらえたら嬉しいよ」
「ちょっと・・・話し方に特徴があるけど驚かないでやって」
「え?」
事前にそんなことを言われて不安になってくる。
人が驚くような話し方っていったいどんななのだろう。
訓練の時間の2人とトレーニングを続けるジャンさんと別れ、私とセレスティアルさんは魔導棟がここから少し離れているということで馬で向かった。
王宮の裏手を通り、かなり行くと見覚えのある建物についた。
私が最初に来た時にいたところだ。
その入口で2人の人が私を待っていた。
「クレデリア=ミンツ殿。すみません、お待たせしましたか?」
「あらあらぁ~そんなことありませんわぁー。大丈夫でしてよぉー」
両手を握りしめて甲高い声で話している女性は水色の髪はふわふわで緑の瞳をして、ロリータ系の服を着た可愛らしい感じの人だった。
フランが話し方に特徴があると言ったことにすごく納得してしまう。
彼女は私を見てにっこりと微笑む。
「はじめましてー、わたしぃ~クレデリア=ミンツって申しますのぉー。これからぁサキさんのーお手伝いをさせていただきますのでぇーよろしくねぇ~」
「サキ=セナです。こちらこそよろしくお願いします」
私も釣られて笑って頭を下げる。
フランが裏表のない素直な人だと言っていたのだから、この話し方も素なのだろう。
笑顔も無邪気な感じで好感が持てた。
「ミンツ殿は魔道方面でサキ殿のお手伝いをして下さいます。彼女は王都のファッションにも詳しく色々知っていますので何かあったら相談するといいですよ」
「はい、色々教えてくださいね?」
「もちろんですぅー」
にこにこしているクレデリアさんの横で居心地悪そうな顔した中学生くらいの男の子がいるのだけど、私は彼を知っていた。
召喚された時にいた子で私に部屋を案内してくれた男の子だ。
「こんにちは、ドルイード殿。あなたも一緒なんですか?」
セレスティアルさんが男の子に挨拶をする。
「そうなのぉー。わたしぃ~一人でだじょぶぅーって言ったのにぃ、ギルバートも一緒に来るってぇ~一緒にいるのぉ~」
「俺のせいなんだから責任を持つのは当たり前だ」
「ギルバートはぁ、真面目ねぇ~」
彼は固く真剣な表情を私に向けていた。
「俺はギルバート=ドルイード。召喚実験の失敗でお前をこの世界に召喚したのは俺だ!
「え?」
彼の口から衝撃的な言葉を聞いて思考が止まる。
私をこの世界に召喚したのがこの男の子?
元の世界に還してほしいという気持ちと、彼のせいじゃないという気持ち。
もうこの世界で生きる決心をしてしまった諦め。
様々な感情が私の中で渦巻いて溢れだす。
私は息苦しくてそっと胸を抑えた・・・。
やっとほぼ主要メンバーが出揃いました。
これからは咲がこの世界に馴染んでいくお話になるので、恋の話にはまだ先になります。
引き続き読み続けていただけたら嬉しいです^^
更新頻度は一日置きを予定しておりますのでよろしくお願いします。