第一章4話・・・最初の生活
私の部屋は王宮に用意してくれるとのことで、セレスティアルさんが王宮へと送ってくれた。
王宮の敷地内に入れば目の前に広がる王宮の大きさに圧倒され、私は馬上でぽかんと口を開けて驚いていた。
気品が漂う美しい王宮。
王宮は昔本で見たマドリードの王宮に少し似ていた。
マドリードの王宮の方が少しカラフルな感じだけど。
馬を降りて王宮に入り、長い廊下を進む。
目につくものすべてが絢爛豪華。
繊細な細工。
壁沿いに続く絵画の芸術。
まさに王が住む場所にふさわしい美しさだった。
少し前を歩くセレスティアルさんの背中を見ながら何度も角を曲がり、階段を上がる。
そしてまた廊下を進むと、いくつもあるドアの1つが開いていて部屋の明かりが廊下に差し込んでいた。
「ああ。あそこですね」
セレスティアルさんがそう言って私に振り向く。
「私の部屋ですか?」
「ええ」
たまたまドアが開いて部屋の明かりが見えるからこの部屋だと言われてもわかるが、これがドアを閉じてしまえばどこが自分に与えられた部屋なのかわかる自信がない。
ここまで来る道すらすでに覚えられていないくらいだし、どの部屋もすべて同じドアに見える。
「・・・私、一回外に出たらもうここに戻って来られる自信がないです」
「ふふっ・・・。心配いりませんよ。王宮には常に警護してる騎士があちらこちらにいますし、あなたを世話する者が出来るだけ側にいますからいつでも案内してもらえばいいんです」
「はあ・・・」
迷子になる度にいちいち案内してもらうのか・・・。
それはそれで少し申し訳なくて気が重い。
「私もこの王宮の警護をしてますから出来るだけ様子を見に来るようにします」
「すみません・・・」
「仕事ですから、気になさらないで下さい」
仕事・・・。
私の様子を見に来ることがセレスティアルさんにとっては仕事なのだとわかって少し落ち込んでしまう。
まあ、急に友達っていうのは難しいのかもしれない。
まして私は異世界人だし。
「今日はもう遅いですからゆっくり休んでください。明日、お迎えに上がります」
「はい・・・」
さっさと引き上げるつもりらしいセレスティアルさんの態度にますます落ち込んでいく。
でも迷惑をかけているのは私なのだ。
落ち込むなんて失礼だろう。
何とか気持ちを切り替えようとしている私にセレスティアルさんがふわっと笑いかけた。
「明日の朝、一緒に朝食をたべましょう?」
「え? 朝食をですか?」
「ええ、ここには食堂がありますから」
セレスティアルさんはほころぶように微笑んでみせた。
この人は本当にきれいに笑う人だ。
仕事だと言っていたけれど、微笑みを見ていると事務的さはまったく感じられない。
私は笑うのが少し苦手だから、セレスティアルさんみたいに笑えるようになりたいと思ってしまう。
「騎士団の朝練の後、こちらに迎えに来ますね」
「 え? あ、・・・はい」
「では、また明日・・・。おやすみなさい」
「おやすみなさい・・・」
私が部屋にはいるのを確認してからお辞儀をすると、セレスティアルさんは背中を向けて廊下を戻って行った。
部屋の中はなかなか豪華で高級ホテルなみの豪華さだ。
すべての家具にすごく凝った模様が彫り込まれていてどれもみんな高そう。
部屋は2部屋あって、1つは寝室だった。
しかもベッドは天蓋付きのベッド。
布団がふかふかそうで今すぐにでも飛び込んでみたくなる。
私は開いていたドアから寝室に入り、ベッドの上に置いてあったワードローブに着替えた。
ふわふわのもこもこなのに通気性がいいのか、全然暑くない。
しかも軽くてところどころレースのリボンが結ばれていてすごく可愛いのだ。
私は興奮しつつもベッドに入ると疲れていたのか、すぐに眠りに落ちていった・・・。
何かの音に意識が浮上していく。
硬い物を叩くような音・・・。
それがノックだと気づいて飛び起きた。
慌てて返事をすると、ホワイトブリムはつけていないけれど、薄いグレーの生地に白いエプロンドレスのヴィクトリアンメイド型メイド服を着た茶色の髪をした女性が部屋に入って来る。
「失礼します。このお部屋を担当させていただくお世話係のシャーリー=パスティコでございます。何かご不便なことがありましたら何なりとお申し付けください」
そう言って私に向かってシャーリーさんが頭を下げる。
「あ・・・サキ=セナです・・・」
「セナ様でございますね。今日着るお洋服をお持ちしました」
「私の事はサキって呼んでくださいね、シャーリーさん。えっと・・・服ですか?」
シャーリーさんの腕には服らしいものがかかっている。
「急なことだったので服がこれしかご用意出来ず、あまりお気に召さないかもしれませんが、今日はこちらにお着替えください」
「あ、はい。ありがとうございます」
ベッドから出て服をもらおうと手をだすと、シャーリーさんのにこやかな表情が一瞬戸惑うようなものにと変わったのを見逃さなかった。
「わたくしがお着せいたしますよ」
「あ・・・あの・・・自分で着替えてみたいので見ててもらって、もし何か違っていたら助けていただけますか?」
そう言うとシャーリーさんは頷いて私に服を差し出した。
「今日はもう少ししましたらビュラス騎士がこちらに伺うというお話を聞いております」
「ビュラスさん?」
昨日色々な人に会って名前を聞いた。
その中から必死にビュラスという名前を思い出す。
「セレスティアル=ビュラス様です。今朝は一緒に朝食を召し上がると伺っておりますが・・・?」
「あ! セレスティアルさんのことなんですね」
そう言えばそんな名前だったような気がする。
服を着替え終えるとドレッサーに座らされ、髪を優しく梳かされた。
人に髪を梳かしてもらうなんてすごく恥ずかしい。
一度断ったのだけど、これだけはさせて欲しいとお願いされてしまい、引き下がるしかなかったのだ。
「黒とは・・・本当に美しいものなのですね」
「え?」
「髪の色ですわ。瞳も黒なんてとても美しいです」
髪の色を褒められたのだとわかって苦笑してしまう。
真っ直ぐな髪はみごとなくらい真っ黒な黒髪なのだ。
黒髪に黒い瞳。
この世界では少ないのかと不安になる。
「えっと・・・あまりいないんですか?」
「ええ、あまり見かけませんね」
うわー・・・・やっぱりか。
ってことは目立ってしまうということだろう。
「この世界でももともと闇属性を持つ者は少ないんです。しかも瞳まで黒なんて初めて見ましたわ」
「闇?」
「はい。私たちは生まれた時から精霊の守護を持って生まれます。それは属性と呼ばれ、髪や瞳の色でわかるのですがその中で5属性と呼ばれる属性があり、赤は炎。青は水。茶色は土。黄色は雷。緑は風。となっております。他に特殊属性として金は光。そして黒の闇です。つまりサキ様は闇属性になるのです」
「私が闇属性・・・」
この説明からだと日本人は全員闇属性になってしまうようだ。
「大抵の者は5属性を持って生まれますけれど、たまに光属性を持つ者が生まれます。光は50人に1人くらいの割合でしょうか。そしてごくたまに闇属性の者が生まれます。その割合は1000人に1人ほどだと言われております」
1000人に1人。
けして珍しいと言うほどではないが、確かに少ない。
「メインの属性は髪の色で判断できます。瞳の色は補助的な属性となっているので、大抵の者は髪の色と瞳の色が異なっていることが多いのです」
「では、両方同じの場合は補助も同じ属性?」
「髪と瞳が一緒の属性の場合、それは膨大な魔導力を秘めている者だと言われています。一つの器の中に1つの属性では器がもたない。だから別の属性を混ぜて力を抑えていると言われています。つまり補助などいらないからこそ同じ色になるのだと聞いています」
一色しか持たないことが強大な力を持つ証でもあると言う。
その条件だと日本人はみんな強大な魔導力を持つことになる。
さすがにそんなはずないから、異世界人は適応外になるんだろう。
ただ自分の存在が目立つとわかって少し悩む。
目立つことでどんな影響があるかわからないからだ。
しかもいつ帰れるのかわからないのであれば、何かあれば対処しなければならなくなる。
できれば何もないまま還りたい。
セミロングの髪に服の色と同じリボンのついた髪飾りが付けられる。
「はやり黒髪はどのような色にも似合われますね」
嬉しそうにそう言われてなんだか恥ずかしい。
日本人としては当たり前の色だから褒められると戸惑ってしまう。
服は紺色でシンプルなワンピースだった。
薄黄色の糸で花の刺繍がしてありとてもキレイだ。
シャーリーさんに色々と説明を受けている途中、ノックの音がしてセレスティアルさんが部屋に入って来た。
私の姿に気づくと、優しくて柔らかい微笑みを浮かべる。
「そのワンピース、とても似合っていますね。かわいらしい」
「あ、ありがとう・・・ございます」
いきなり褒められて戸惑ってしまう。
騎士って女性に優しいってイメージなんだけど、この世界でも騎士は女性に優しいのだろうか。
ただでさえ褒められ慣れていないのに私なんかよりずっと綺麗なセレスティアルさんに褒められ、ますます恥ずかしくなってしまった。
セレスティアルさんに連れられ1階にある食堂に着いた。
「セレス!」
「ああ、フラン!」
食堂に入ったとたん、セレスティアルさんが声をかけられて返事をする。
フランと言われた女性は水色の髪に緑の瞳を持ったきりりとした美人さんだった。
「セナ殿、紹介します。彼女は女性騎士のフラン=クレベールです。フラン、こちらはサキ=セナ殿だ。しばらく私が世話役としてサポートさせていただくことになった」
「フランって呼んでね。よろしく!」
見た目はクール美人さんなのに話すと人懐っこい明るそうな人だ。
挨拶を返そうとしたとたん頭の上から声がする。
「おいこら、食堂の入り口でしゃべってんなよ」
「あら、ガウディ」
すごく魅力的な低い声がして振り向くと、背の高い赤い髪に金の瞳のやんちゃそうな男性が立っていた。
「セナ殿、彼は私と同期の騎士でガウディ=マレフィード。ガウディ、彼女はサキ=セナ殿。私がしばらくサポートさせていただくことになった人だよ」
「ガウディだ。よろしく!」
「サキ=セナです。こちらこそよろしくお願いいたします。みなさん、私のことはサキって呼んでくださいね」
「はいはい」
挨拶を済ませるとそのまま4人で食事することになった。
トレイに乗った食事はすごく美味しそうに見える。
けれどこれも超薄味なのだろうか?
ゆっくり口に運んでみると、やっぱり味が薄かった。
薄すぎて食欲がわかない・・・。
データーが飛んでしまい、泣く泣く書き直しました。
次の更新は明日となります。
もう少しうだうだが続きますのでご容赦ください。