六話 剣と魔法の町
壊れたファンタジーって、最初に何を思い浮かべるのか聞きたいですね。何となく私は壊れたオルゴールみたいだな、と思ったり。
はっきりと言おう。朝になり起床した俺達四人は朝食を食べて直ぐに馬車を走らせた。目的地であるウェルテクスには昼前にはたどり着くことが出来た。ここまではいい、道中も何も問題はなかった。問題があったのは町の方だ。
「これは、酷いですね....町としての機能を殆んど失ってます」
「災害と同じくらいか。何で誰もこうなってることに気づいてないんだ?」
本当に酷い有り様だ。建物はボロボロに崩れてるし、どういうわけかクレーターなんかも出来てる。ソフィアは村の事を思い出したのか顔色が悪いし、俺と九九も地球の災害を思い出してちょっと気分が悪いな。
「魔物が大量発生したら、毎度こんなことになるのか?」
「ううん。町が無くなっちゃうほどの大量発生なんてまず起きないよ」
確かにこれが普通だったとしたら、王様もあんな何ともなさげな顔で言わないで、もっと焦った感じで言うだろう。それに俺達にいきなりこんな依頼はしないんじゃないか?
「琥珀さん。ギルドと学校に向かいたいんですが、大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫だよ」
白狼の後をついて行くとそれなりに大きな大建物を見つけた。学校とギルドなのはパッと見直ぐ分かるが、結構お互いの位置近いんだね....。
まぁギルドの方が近いのでまずはギルドによってみると、見張りっぽいのが数名いるな。見た感じだと、いつもだったら見張りはいないんだろうな。まぁ、声かけてみるか。
「あの!ちょっといいか?」
「誰だ?何処から来た!」
「名は琥珀!場所は神竜都市からだ!王様から言われてここに来た!」
「なんだと!?ちょ、ちょっと待っててくれ!」
ドタドタと大きな足音立てながらギルドに入っていった。取り敢えずそれを報告するのは一人でいいと思うんだ。全員で行く必要ないだろ。何だかかなり大きい声が聞こえてくる。流石にいきなり王様云々いうのは不味かったかな?何となく長引きそうなのでこの辺りを感知魔法的な何かで見てみる。
.........あー、結構バラバラに魔物いるけど、どれも近いところにいるな。本命は街の壁の向こう側みたいだけど?
「うわっ。なんだこれ」
「主様?」
黒っ!これ全部魔物かよ!うん?左側にあるの森なのか。ということは魔物の数って......これ本当に何とかなるのか?いやまて、森の方に一つ反応がある。これ何だろう?
「待たせて悪い!入って来てくれ!」
「分かった、直ぐ行く」
「主様大丈夫ですか?」
多分大丈夫じゃないと思います。にしても魔物の数にはやっぱりゲンナリする。どうしよう。何か怖くなってきたな。緊張してる的な意味で。
ギルド内は説明しなくても大丈夫そうだ。まんまイメージとほぼ同じだからな。と思ったらお店みたいなのがある。札を見てみると換金とかちょっとした回復アイテムを売ってくれる所っぽいな。
そんで今案内されて来たのはカウンターか。
「そちらの部屋に入ってください。今開けましたから」
「ありがとうございます。あの、町かなり崩れてましたけど、亡くなった人はいるんですか?」
「死人はいませんよ。正直、かなりギリギリな場面も多かったですけどね~。このギルドは、今は作戦会議や町の修復作業をしてます」
言われてみればギルドと学校の近くの建物は少しばかり治っていたな。とりあえず部屋に入って待つことにする。ちょっと時間かかるかもしれませんと言われたが、その方がちょっといいかな?
全員が椅子に座ったところで、話し出す事にする。俺の妹の事だ。ここについてからって言ったからな。
「神城篠、俺の妹だ」
「妹がいたなんて知りませんでしたよ」
「悪い九九。実はあの時まで完全に忘れてたんだ」
「待ってください、琥珀さん。どういう事ですか?」
俺と九九が会う前の話だ。篠と俺は仲の良い兄妹って事で回りには知られててな。そういう意味ではちょっと有名だったのかもな。九九は知ってるが、幼馴染2人と俺と篠の4人でよく遊でた。
そんなある日の事、篠が事故にあった。急いで病院に行ったが医者にはもう駄目だって言われたんだよ。でも一度だけ篠は目を覚ましたんだ。俺に何か言うために。その一度が終わった時、本当にあいつは死んだ。自分の心に大っきな穴が空いた気がしたよ。
「そんな出来事があったんですね」
「でもなんでコハクは忘れてたんだろう?妹ちゃんがなにかしたっぽいですよね」
「さぁな。多分その通りで篠が何かしたんだろう」
「一度目を覚ましたときに何かしたという事ですか。でもそれなら何でさっき現れたんでしょうか。それも私の体を使って」
「それは分からない。とりあえず来たみたいだし、今はこれでおしまいで」
「すいません、お待たせしました」
「いや大丈夫です。それより何かあったんですか?」
「あぁいえ、魔物がそろそろここに攻めてくるんじゃないかって事を。それはそうと自己紹介を、初めましてギルド長のアジラスと言います」
「あぁどうも、俺は神城琥珀。琥珀でいいです。そんでこいつは九九と言います。後ろの2人はっと?....大丈夫そうですね」
「ええ、白狼とソフィアさんですね。それに琥珀さんと九九さんですか。今回はありがとうございます」
自己紹介が終わったらすぐに白狼とギルド長のアジラスが話し始めた。話が進む事に二人の顔が暗くなっているのを見ると、あまり余裕が無さそうに見える。これは...不安になるな。
不安。不安と言えばあの弓を持ったケンタウロスだ。あの時倒したけど、まだ何かある気がするんだよ。魔王の手下とか白狼が言ってたしな。......ん?何だか気になることを話始めたな。聞いてみるか。
「.........信じたくないですが、討伐部隊からの報告で『叡智の竜』を見たというのがあります」
「な!叡智の竜ですって!?なんであいつが......そんな、事が?」
「ちょっと待てちょっと待て!その叡智の竜がどうしたんだ?」
急に白狼が声を荒げた。叡智の竜ってなんだ?ここまで白狼が焦るとは思わなかったもんで驚いたな。これだと結構ヤバイ奴なんだろう。説明してくれたのはソフィアだった。
「叡智の竜とはこのギルドと同じくらいの大きさのドラゴンです。その強さは災害レベルの強さと言われ、昔現れたと言われる叡智の竜はいくつもの国を滅ぼしました。これの最後は、当時仲の悪かった3国の神竜都市、聖王国、帝国の力で倒したと言われます。そしてこれを期にして、この3カ国は今に至るまでずっと同盟してるんです。このお話は絵本にもなってたりするので、殆んどの方が知ってます」
「そうですね。あの頃は絵本の中の魔物でしたが、まさか本当に要るかもしれないとは思いませんでした」
「つまりだ。こいつはもういない、もう死んだ筈だって事だろ?となると、だ」
「何かが起き、復活してしまった。そしてその原因が『魔王の咆哮』という訳ですね」
九九のその言葉に部屋にいる全員が頷いた。
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その後、一度ここでは解散して学園に行くようにアジラスさんが言った。
学園はここギルドのすぐ近くにあるから、本当に一瞬で来れた。俺達が待っていた間に色々とやっていたようで、すんなりと学園の中に入ることができた。
そして部屋に入って直ぐに現れた彼女は、この魔法学園の校長先生らしい。名前はエリスという。正直、ギルド長のアジラスより言いやすい名前で助かった......。
「大体の事はギルド長から聞いています。何か聞きたい事はありますか?」
「聞きたい事ですか....あ。じゃあ魔物の大量発生って、事前に分かるんですか?」
「そうですね。魔物の大量発生が始まる場所には、始まる前に大量の魔力が集まってくるんです。集まって生まれた魔物達を全滅と言わなくても壊滅させることができれば大量発生は終わります」
「あの数の魔物を壊滅させるのはかなり厳しいですね....」
「そうですね.....しかも今回の大量発生は、魔力が今も集まり続けて減るどころか増え続けています。誰かが意図的に魔力を集めている。恐らくは、魔王」
魔王、か。
俺達の前に呼ばれた勇者は魔王を倒すために呼ばれたんだよな。
今は行方不明だけど、魔王は倒せたのか?それとも倒せなかったのか?
今お前はどこにいるんだ?
勇者。
「実は明日、魔物の群れが攻めてくる可能性が高いんです」
「最悪私と白狼でやるしかないかもね」
「親玉を倒したら終わり、なんて単純な話ならいいんですけどね」
いや待て。親玉?そうだそれだ。今回の魔物の大量発生で親玉がいるとしたら、親玉になりそうな奴がいるとしたら、そいつは誰だ?
「叡智の竜だ」
「...はい?」
「白狼。いや、皆聞いてくれ。今回の魔物の大量発生はいつもと全く違うんだろ?」
「えっと...そうだね、コハク。でもそれがどうしたの?」
「さっき白狼が言ったが、親玉がいるかもしれないって事。ここまで言えば分かるんじゃないか?」
「主様。それが叡智の竜かもしれないと、そういうことですね」
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ついさっきギルドでも同じような事があったような。親玉についてギルド長のアジラスと会議するから、今日はここで終わりにしましょう?と言われた。宿については、一時的に改装した学園の部屋を使ってくれと言われたので、俺と九九、白狼とソフィアのペアで別れることになった。
なので今日はもう疲れたし休むかって事になったんだけど.........なんかね?ずっと見られてるんですよね、女の子に。
「............」
「...... えっと」
「!!」
「......行ってしまった。何だったんだ?」
「面白そうなことがおきそうですね、コハクさん」
「面白そうなこと事っていうか面倒くさそうな事じゃないですかね。ソフィアちゃん」
実際は何か期待してるような目で見てたんだけどね。でもなんでそんな嬉しそうな顔でこっち見るんだよ、ソフィア。
とにかく無視だ無視。何だかんだいってもう外も暗くなってるしな。
「今日はこれでお休みなさい。琥珀さん、九九さん」
「白狼もな。それじゃあお休み」
「それじゃまた明日ね、九九!」
「ええ、ソフィアさん。また明日」
「主様、お休みなさい」
「お休み、九九」
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ここは......夢か?意識はまだぼやけてるけど、夢なのは分かる。俺は今森の中にある塔の前にいるっぽいな。とりあえずどうしようか。
『勇者、様......』
『フィオナ!!』
突然、誰かの声が頭の中に響く。それに今勇者って言ったよな。まさかあれが第一の勇者か?にしてもこれ、本当に夢か?風が少し肌寒いとか、普通分からないだろ。追体験みたいな物なのか?
そんなことを考えていたら、あの2人の前に黒い人影が現れた。分からないけど、とにかくあいつはヤバい気がする....。
『ふん、石になるがいい』
『うぐ......逃げてください。勇者さ...ま!』
『フィオナ......!!貴様ああああ!!』
『お前はここで封印する。それもただの封印ではないぞ』
『クソ!お前は絶対!絶対、に...!』
成る程、あの黒いのが魔王か。でも今何が起きた?フィオナと言う娘が石化したのは分かったけど、勇者に何が起きたのかが分からない。急に目の前から消えたんだ。封印されたのか。それじゃあ勇者は魔王を......ってなんだ?なんでこっちに来る....まさか、見えてるのか?
「これはなんだ!」
『お前の夢に入ったんだ。一度しか使えないがな』
「...勇者をどこにやった?」
『お前に言う理由がないな。まぁ良いだろう。お前の力、我が使ってやる』
「はぁ?お前何言って......!!?あ、がはっ…!何が…?」
痛い痛い痛い痛い痛い。こいつ、どこから出したのか、レイピアを取り出し心臓を突いてきた。誰の心臓かって?そりゃ勿論俺だろうな。でもこれはなんなんだ?痛覚はあるが一応夢だからか?心臓を突かれても死なないとはね。でも、それが今は苦しい。
「このレイピアはな、刺した相手から力を奪う能力がある」
知らねぇよ。
「残念ながらここでお前を殺すことは出来ない」
「そうかよ!クソッタレ......」
まずい、もう無理だ。意識が落ちる…。
『離れてても私にもダメージあるんだからやめてよね』
「ほう?これは...。やはり君はとても面白い物を持っているな」
『あんたと遊んでる暇は無いの。ほら琥珀?早く起きて。呼ばれてるよ?』
「あ...?無茶苦茶、言いやがって......」
『ご主人様!!』
「九九!!く、つぅ......痛てぇ」
「今治してる所です!大丈夫ですか?」
「あぁ、ギリギリだった気がするけど......」
なんだったんだろうか。何とか体を起こしてみれば、胸の辺りが血だらけだった。いつの間に刺したのか、右の太ももに穴空いてないか?今なんとかなってるのは、九九が頑張って治してくれたからか。でもまずは謝らないと。泣いた跡がある。
「心配かけて悪い。もう大丈夫だよ」
「ぅぅ。本当に心配したんですからね!?一瞬邪の気配を感じて起きたら、ご主人様の胸から血が出てきたんですから!」
「ああ!もう本当に大丈夫だから!」
「......本当ですか?」
「うん、本当だよ」
どうやら納得してくれたみたいだ。
一息ついたので、あの夢の場所を思い出してみる。確か森の中で、目の前に塔があったはずだ。そこに行けば彼女、フィオナがいるかもしれない。森の場所はすぐそこの森であってるだろう。
ふと今何時ぐらいなのか時間を確認しようとしたら、扉が勢いよく開いた。白狼とソフィアか。どうしたんだ?
「琥珀さん九九さん。魔物に動きあり、集合とのことです!」
「場所は魔物の方の門だよ。私達は先に行ってるからね〜」
「分かった。準備が終わったらすぐ行くって伝えておいてくれ」
準備といっても着替えぐらいしか無いんだけどね。九九のお陰で体力も回復してるし、さっさと門に向かった。そこにはアジラスさんとエリスさんがいた。エリスさんはソフィアと話してるみたいだね。
「どうも、アジラスさん」
「待ってましたよ。琥珀さん」
「あんたが琥珀か」
「えっと、誰ですか?」
なんかギルド長であるアジラスの落ち着いた感じとは逆の、熱血な人の印象を受ける。
副ギルド長のアルバーノと言うようだ。ついアルバートと言ってしまいそうだな....。
一度、ソフィアとエリスさん、白狼も呼んで夢の内容を伝えた。刺されたところは言わないでおいた。あまり心配させたくもないからな。
「ソフィア。お前回復魔法使えるよな?」
「え?あぁうん。勿論使えるよ」
「なら、俺とソフィアと白狼で森の塔に向かう。九九はここの人たちと一緒に町を守ってくれ。......いいか?」
「......ええ、私に任せてください。あの数を押さえるには、私しかいませんからね」
だから、
絶対に帰ってきてくださいね?
ご主人様。
⑥九尾と鬼の激突⑥
4人に小鬼退治を任せた白樺は、全力じゃ無かった殺音と2人で、さっさと鬼を倒して終わらせるかと思った。でもそれは駄目じゃないかと、私が終わらせるのは駄目だと思った白樺は、常に鬼の場所を確認しつつ、もしもの事があったら助けに入ることにした。鬼を倒すのは琥珀と九九じゃなきゃ駄目な気がしたのだ。