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野菜戦隊ベジレンジャー  作者: 高野環奈
お披露目。
2/14

紫の敵幹部

 希美と入れ違いに衣装合わせを終えて出てきた人影があった。

 ぱっと目に飛び込んだ「彼」をまじまじと眺め、ぽろりと本音がこぼれる。


「やだ。似合うじゃない……悪の幹部みたいで」


 言われた彼――譲は思い切り顔をしかめると、盛大なため息をついてこたえた。


「色だけならそうかもしれませんね、色だけなら」


 あらら、クールな顔が台無し。

 希美は軽く肩をすくめ、部屋に入った。

 後で他のメンバーにも聞いてみよう。たぶん、賛同を得られるはずだ。


「衣装のサイズはこちらです。袖ありと袖なしがあるので、合わせてみましょう」


 明るいオレンジの服を何着もあてがわれながら、譲の様子を思い出す。

 ピュアホワイトの白いパンツ姿はすらっと細く、ライラック色のトップスが明るい茶髪に映えて互いに引き立て合っていた。首をぐるりと囲む紐と腰のベルトの朱赤はアクセントを効かせるのに一役買っていたし、被り物とマントさえなければ良くも悪くも譲らしい格好だった。

 もっとも、譲が演じるナスのキャラクター、トゥース・ナスガはナスのヘタを意識したと思しき黒マントのせいで、どこからどう見ても悪役だったのだけれど。


 ――あれは狙ってやったのかしらね。


 とは希美の忌憚なき感想である。

 VECINOS(ヴェシノス)所属の(ジョウ)といえば数年前にデビューするなり脚光を浴びた有名モデルだ。冷たさを感じさせる風貌に細身ながら引き締まった体躯の彼。日本人では到底似合わなさそうなスタイルもさらっと着こなし昨年は海外ブランドのミューズにも選ばれていた。

 以前ちょっとした仕事の関係で希美は譲と知り合いになったのだが、その時はごくシンプルなコーディネートを憎らしくなるほどスマートに決めていたはずだ。

 その譲本人は俳優を志望しているそうで、今回、野菜戦隊ベジレンジャーの話が回って来た時も二つ返事で頷いたという。

 近年は戦隊物出身の俳優が人気になることも多いため、その逆も可能だということなのだろう。それにしたってモデルの譲が、ナスの被り物をして戦隊番組。

 ……もしかしたら制作側に変な遊び心が湧いてしまったのかもしれない。

 一度その考えが頭をよぎってしまうと、むしろそうとしか思えなくなって希美は唸った。


「あ、やっぱり袖なしの方がいいですか?」


 スタイリストがノースリーヴの衣装を差し出す。何も考えずに「そうね」と請け合ってから、しまった! と内心叫んだ。

 ああもう、ナスガのせいで!


 トゥース・ナスガ。以前流行ったどこかの芸人のような名前だが、れっきとしたキャラクター名である。野菜戦隊ベジレンジャーの中でやや変わった立ち位置のクールな男。ベジレンジャーのメンバーといつでもつるんでいるわけではなく、しかし野菜の守護を得たまぎれもない戦士。ビビッドカラーが多いベジレンジャーの中、重たい色合いのナスガはふつうの戦隊物なら満場一致でブルーにあたるタイプの男である。

 けれどその見た目とは裏腹に、ナスガは案外面倒見がいい。

 だって5人の中で最初に目覚め、同じ力を持つ者を探し回ったのはナスガだ。希美演じるキャロンもナスガに見つけられたことになっている。誰がリーダー、誰が参謀といった役割分担が特にないのがベジレンジャーの特色だが、仮にあるとしたら苦労人は間違いなくナスガなのだろうと思ってしまうだけの下地があった。


「いかかです?」


 声をかけられて意識が引き戻される。

 全身鏡に映った希美はノースリーヴのトップスに太めのギャザーが入ったスカート。青いベルトのバックルはニンジンがあしらわれていてかわいらしい。が、希美は少し考え込むと、斜め後ろのスタイリストを振り返った。


「ちょっとパンツも合わせてみたいな。でも待って、一度みんなに見せてくるから」


 さっと外へ出て、足は自然にスタジオへ。一足先にお披露目を終えた悪の幹部(仮)と他のメンバーが待っている。せっかくの機会だもの、やるなら徹底的にやってしまいたい。

 がやがやと賑やかなスタジオから歓声のようなものが聞こえる。

 どうせなら私が言うより先にナスガの見た目について盛り上がっててくれると有難いんだけど、とひそかに胸を躍らせて、希美はスカートのすそを翻した。


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