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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
1章 想いを乗せてキミのもとへ
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ラベンダー






 茉依とぼくだけの特別な紙ヒコーキの折り方を茉依から教えてもらって一週間が経った。

 ぼくは真っ白い紙に何を書けばいいのか唸っていた。


 いったい何を書けばいいんだ……?


 そもそも話そうと思えばいつでも話せるんだ。家は近いし、通学路でも一緒になるし、休み時間には毎回のように来るし、メールアドレスも電話番号も知っているわけで、別にわざわざ紙に書いて飛ばす必要はないんだ。

 直接話せば何ともないことなのに、文字に置き換えるのって恥ずかしい。

 そういえば、茉依に紙ヒコーキの折り方を教わってから一通ももらってないんだよなぁ……。

 『どうしてくれないんだろう』

 ぼくはいつの間にか紙に向って呟くように書いてしまっていた。それを急いでくしゃくしゃに丸める。

 はぁ……。茉依の方から紙ヒコーキを飛ばしてくれたら返事書きやすくて話が進むのになぁ。

 ぼくの中の臆病な弱虫が嫌になる。


 ぼくは丸めた紙を片手に目の前でかざし、ため息とともに机に突っ伏す。

 紙ヒコーキが飛んで来ないのも寂しいかもしれない。もしも今茉依から紙ヒコーキが飛んできてくれたらテンションも上がるのに……。



 …………!



 その時だった。ぼくの目の前を一機の紙ヒコーキが横切った。

 きたっ!!

「茉依――――!」


「え、あぁ……スイマセン。俺っスよゆーさん」


「………………はぁ」


「えぇ!? どうしてため息つくんスか!?」


「いや、石田かぁーって思ってな」


「それなんかひどくないっスか。もぉーせっかく来たんですからお話しましょうよー。それと紙ヒコーキ拾って読んで下さいよー」


 仕方がなく床に着地している紙ヒコーキを拾い上げる。こうして手に取って見てみればすぐに茉依の紙ヒコーキじゃないと分かる。折り方が違う。

 それにしても、石田からもらうのはこれで5回目だ。一日1通ペースで飛ばしてるじゃないか。

 今更だが、石田にしか紙ヒコーキを飛ばしてもらっていない(ちなみにぼくから飛ばしたことは未だに一度もない)。茉依と雨宮さんは石田のように毎日飛ばし合っているのだろうか。


「ゆーさんは誰かに紙ヒコーキ飛ばしましたかー? 俺はまだゆーさんからもらってないんスけどー」


「いや……まだ誰にも」


「え!? それじゃあ茉依さんにも飛ばしてないんスか?」


「だって茉依からもらってないし……」


「茉依さんからまだもらってないんスかー。俺今日で10通はもらいましたよ。同じクラスだから飛ばしやすいんスかねー。毎日楽しいっス!」


「石田、自慢しに来ただけなら帰ってくれ」


 ぼくがそういうと石田との間に少しの沈黙が流れた。少し強く言い過ぎただろうか。でも実際、石田に嫉妬はしていた。未だに茉依からもらっていないのに石田はすでに10通ももらっているという。いくら同じクラスでも、0通と10通の差は大きい。先週まではたくさん飛ばしてきていたのに。秘密の紙ヒコーキを教えてもらってから音沙汰もない。

 ぼくと石田の何が違うって言うんだ……?


「――――茉依さんはきっとゆーさんから来るのを楽しみに待ってるんスよ」


「それはぼくだって同じだ」


「待ってるだけじゃ何も始まらないっスよ。こういうのは男の方から向かっていかないと!」


「といわれてもなぁ……。いったい何を書いて飛ばせばいいのか分からないんだ」


「そんなのなんでもいいんスよ。元気かーとか、天気いいなーとか、寝不足だーとか。他愛もないことでも茉依さんは喜んでくれると思いますよ」


 石田にだけは言われたくない言葉だな。でも現に10通ももらってるわけで、いまのぼくよりも茉依と仲がいいのは明らかだ。

「こっちからは書きにくいんだ。茉依の方から飛ばしてくれたら書きやすいんだけどさ。けど一回ももらってないから…………もらうまで書かない」


 石田にしてみれば小さなプライドに見えるだろう。ぼくでもそう思うんだ。ほんの少しの勇気をもって飛ばせばいいだけなのに、見栄が邪魔をしている。

 ぼくは矮小な人間だとたまに思ってしまう。

 茉依のしあわせを願っているのに、その願いを叶えようとしないぼくが嫌いだ。


「石田はさ、茉依にどんなこと書いて飛ばしてるんだ?」


「おはよーございますとか、一限目は英語っスねとか、今日の体育は短距離走っスねとか、小テストの点数どうでしたーとか、ほんとその程度っスよ」


「それじゃあさ、どんな内容の紙ヒコーキをもらってるんだ?」


「それは飛ばし合ってる2人だけの秘密っスよ」


 そこは教えてはくれないのか。

 それでも、石田の書いている内容はだいたい分かった。ぼくが思っていたほど難しいものじゃなかった。簡単なあいさつ程度だった。固く考えず、もっと柔らかな感じで書けばいいんだ。


「そろそろ授業始まるんで戻りますね」


「あぁ、少し助かったよ」


「そう言ってもらえると来た甲斐があったっス。それにしても、ゆーさんは本当にうらやましいっスよ。あんなに想ってくれる人がいるんスから――――」


 捨て台詞のように言って石田は教室を出て行った。

 ぼくは先ほど拾った石田の紙ヒコーキを開く。話すことに気を取られていて開けていなかった。そこにはたった5文字の言葉が書かれていた。




 『がんばれ!』




 石田の奴、最初っからぼくが茉依に紙ヒコーキを飛ばしていないの知っていたのか。お節介というか、いい奴だな。

 未だに何を書けばいいのか分からない。

 真っ白な紙にはなんだって書けるけど、ぼくの伝えたい気持ちはいったいなんだ?


 『待ってるだけじゃ何も始まらないっスよ。こういうのは男の方から向かっていかないと!』


 初めて交わす秘密の紙ヒコーキは大切にしたい。


「がんばってみる、か」


 ほんの少しの勇気でいいんだ。

 あいさつをする感じでいいんだ。

 恥ずかしがったりしちゃいけない。

 向っていくのはそう難しいことじゃない。



 紙ヒコーキを飛ばすときの僅かな力でいいんだ。









 ラベンダー。花言葉は、『あなたを待っています』『期待』などです。



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