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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
1章 想いを乗せてキミのもとへ
3/30

ユーパトリウム 【2】 





 帰りのホームルームが行われている間、ぼくはずっと茉依と石田浩介の事を考えていた。

 自分の知らないところで茉依に仲のいい友達(男子)ができていた。

 ……喜ばしいことじゃないか。

 茉依にだってそりゃあ男子の友達が1人や2人いてもおかしくない。いや、いて当然……だと思う。

 茉依と幼馴染なのは変わらないし、仲がいいのも変わらない。茉依と一緒にいるそのことは変わらないじゃないか。それなのに――――




 この変な胸騒ぎはいったいなんだろう……。




 気が付けばホームルームは終わっていた。教室に掛けれた時計を確認したところ、普段ホームルームが終わる時刻をすでに十分は過ぎていた。教室には数人の女子生徒だけが残って談笑をしている。その中の一人がぼくの方を見て笑みを浮かべた。

 やばっ。もしかしてずっと見られてたかも。

 十分間も黙って椅子に座っているところを見られていたと思うと急に身体が熱くなった。

 急いで机の横に掛けてある鞄に教科書やペンケースをしまい込む。

 あ、そういえば明日って化学のプリントの提出日じゃないか。

 しまい込んだ教科書類の中からクリアファイルを取り出し、挿まれているプリントを一枚一枚確認していく。だいぶ前に配られた保健便り。数学の際に配られた問題プリントの余り。選択授業の希望用紙。

 あっ! 選択授業の用紙も明日までじゃん!

 化学のプリントが見つかるよりも先に大事なプリントが一枚見つかったが、正直いまはどうでもいい。それよりも化学のプリントだ。それから最後の一枚まですべて確認したがどこにもなかった。


 おっかしいなーたしかに挿んだのに……。


 背後で紙の擦れる音がした。それはすぅーっと床を這っているような音だった。

 間違いない。茉依の紙ヒコーキだ。



「掃除で遅れちゃったぁー。ゆーちゃんいっしょに帰ろ!」


 無類の紙ヒコーキ好きが来たわけだが、それもいまはどうでもいい。


「なぁ茉依、化学のプリント持ってないか?」


「もしかしてゆーちゃん失くしちゃったの?」


「まぁ失くしたというか消えたというか……」


「失くしたも消えたも同じだよ。わたしのクラスは昨日の授業で提出しちゃった」


「そっかぁ」



 ……本格的にまずい。

 化学のプリントをここまで探す理由わけ。それは、化学を担当している先生がとてつもなく恐いからだ。見た目は60歳以上で白髪のおじいちゃんが白衣を纏っているだけだが、時折授業に竹刀を持ち込むときがある。そのときに忘れ物をしようものなら竹刀で叩かれるという噂を耳にしたことがある。まだ誰も忘れ物をしていないからどのようなことが起きるかわからないが、命に係わるかもしれないので試したくもない。

 でもこのままだと体験者になってしまうかもしれない。

 選択授業の希望用紙もたしかに大事だが、いまは化学のプリントの方が数十倍大事なのだ。


「ちょっとまってて。いま探してあげる」


 茉依がそう言うと、鞄をぼくの机の上に置いて開いた。ぼくは目を疑った。予想していない光景だった。茉依の鞄の中にはたくさんの、隙間が無いくらいたくさんのプリントが入っていた。


「もしかするとあるかもしれないの。いっつも余ったプリントもらってるから」


 そうして茉依は化学のプリントの余りがないか探してくれたわけだが、大量なプリントの中にも化学のプリントはなかった。


「ごめんやっぱないや。ぁ、そうだ! こーくんならまだ持ってるかも。こーくんもゆーちゃんみたいに一番後ろの席で余ったプリントたまにもらってるから。いつもそれで紙ヒコーキ作ってるし」


 あいつかぁ……。あいつに頼むのは嫌だなぁ。


「こーくんに言いにくい?」


「まぁ、あいつに頼むくらいなら無くてもいいかなって思えてきて……」


「言いにくいなら紙ヒコーキに書いて飛ばせばいいんだよっ。ちょっと待ってて!」


「いやそれは遠慮する! それにただ紙ヒコーキを飛ばしたいだけだろ!」



 ぼくはすでにペンを握ってプリントに書きはじめていた茉依の肩を掴んで止めさせた。むすっとした茉依はぼくを睨んでいる。その睨んでいる茉依はまったく怖くない。子どもがちょっと拗ねている程度だ。

 そんなぼくらのやりとりをまたも談笑中の女子生徒の一人に見られていた。

 二年生になってから同じクラスになった雨宮梓あめみやあずささんだ。まだあまり関わったことはないが、クラスの誰からも頼られていて人望が厚いのは知っている。雨宮さんには二度も恥ずかしいところを見られてしまった。今度何か言われたら言い訳できるように考えておこう。

 それにしても、さっきからこっちを見ているようだけど、ぼくか茉依に用事でもあるのだろうか?



「茉依さんにゆーさんいまスかー?」


 軽くて弾んだ声が廊下から聞こえてきた。そして、ひょこっと石田が顔を出した。


「あ、こーくんだ! ナイスタイミングだよぉー」


「いや、バッドタイミングだろ……」


「ゆーちゃんまたそんなこと言ったりして。嫌われちゃうよ?」


 石田に好かれたいとも思わないけどな。

 でも〝ゆーちゃん〟から〝ゆーさん〟に呼び方変わってる。


「あのね、ゆーちゃんが頼みごとを聞いてほしいんだって」


「おい、ちょっと茉依――――」


 石田はぼくの手を掴んで廊下に誘い出した。茉依は不思議そうな顔をしている。それはそうだ。ぼくだって何故石田に手を引かれて廊下に出ないといけないのか、まったく理解できていなかった。


「ゆーさん俺嬉しいっスよっ! もーじらし過ぎっスよ、俺めっちゃ応援してるんスから! 相談役になってほしいんスよね? でもゆーさんが告白したらすぐに付き合ってくれると思いますよ?」


「……いや、何か勘違いしてないか?」


「もーなに二人で廊下で話してるの? ゆーちゃんのお願いちゃんと言ったの?」


「茉依さん大丈夫っスよ。ゆーさん見てたら分かるんで!」


 ぼくは石田を茉依から遠ざけて小さな声で怒鳴る。


「だから何勘違いしてんだよっ。ぼくが茉依のこと好きだと思ってるなら違うからなっ」

「もぉー隠したってダメっスよー。俺分かってるんスからー。ためらわずにどーんと言えば大丈夫っスよっ」 


 石田がぼくの背中を押す。茉依の方へと追いやっていく。またも不思議そうな顔をしている茉依。その顔を真正面から見つめると鼓動が早くなった。

 やばいっ。また身体が熱くなってきた!


「わるい茉依! 先に帰る――――」


「逃がさないっスよ」


 がっしりとぼくの身体が石田の細い腕でホールドされた。見かけによらず力まであった。石田の腕の中でもがく。鬱陶しいだけでなく、男子にホールドされているのがなんとも気持ち悪かった。

 そんなぼくと石田を見て茉依は笑った。


「ゆーちゃんもこーくんもいつの間にか仲良くなってたんだねっ。なんだか嬉しいなぁー。やっぱり二人よりも三人の方が賑やかで楽しいねっ!」


 満面の笑みを浮かべる茉依には敵わない。反則だ。理不尽な事でも受け入れてしまう。

 茉依が喜んでいるならそれでいい。二人よりも三人の方が楽しいなら石田が加わってもいい。それに、意外と石田も悪い奴じゃないようだ。すこしムカついたりするけれど、思っているよりもいい奴だ。お節介なところは苦手だが。


「茉依さんの言う通りっスね! あ、ちょっと用事思い出したんで先に帰るっスね! また明日遊びましょーねー!」


「仲良くなったから三人いっしょに帰りたかったんだけど残念。こーくんまた明日ねー」


 石田は手を振って階段を駆け下りて行った。

 まるで嵐が過ぎ去った後みたいだ。わずか数分でここまで疲れるなんて。


「ぼくたちも帰るか。石田のせいで疲れたわ。茉依、さっき紙ヒコーキにしようとしてたプリント落ちてるぞ…………って化学のプリント!」


「あっ! ほんとだぁ!」


「おい、しかもこのプリントぼくのじゃないか! 名前書いてあるし!」



 茉依のことだ。きっと無自覚だったのだろう。いつぼくのプリントを手にしたかは知らないが、今後は無闇矢鱈にプリントを持たせないようにしないと。今回はぼくのプリントだったけれど、いつか誰かのプリントまで紙ヒコーキにして飛ばしてしまうかもしれない。それも最悪の場合外へ……。


 ったく。これだから放っておけないんだ。

 

 茉依のことは気になって仕方がない。この気持ちはまだ心配とか不安とかの類だけれど、少しずつ〝恋〟へと変わっていけばいい。まだ早い。当たり前の日常や当たり前の風景、なんともない毎日でちょっと変化があればいまは十分だ。

 その変化をもたらすのはぼくの言葉でも、石田のお節介な力でも、偶然でもない。



 それはきっと紙ヒコーキだ。









 ユーパトリウム。花言葉は、『ためらい』『他人の恋の相談役』などです。

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