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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
2章 不器用でも空回ってでもキミのもとへ
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ストケシア

「トランプもそろそろ飽きてこないかしら?」


「そうっスねー。ババ抜きに大富豪に神経衰弱、あと7並べもしたっスからねー」


「それにちょっとお腹空いてきちゃったかなぁー」


 今更かもしれないが部屋はだいぶ薄暗くなっていた。壁に掛かっている木製の古風な時計を見ると針は5時過ぎを差していた。どうやらトランプに集中し過ぎていたみたいだ。


「そういえば夕飯って自分たちで作るんスよね?」


「えぇそうよ。さっき見たけれどバーベキューの材料があったわ。他にも色々あったけどどうする?」


「バーベキューってなんだかキャンプみたいでいいねっ! わたしすっごく嬉しい!」


 そういえば最近はバーベキューなんてしてなかったな。小学生くらいのときは茉依の家族と一緒によくキャンプしに行ったっけ。中学生のときも林間学校とか修学旅行でバーベキューはしてたかな。なんだかずいぶんと昔のことに思えた。機材の取り扱い方や火おこしは何度も経験しているから雨宮さんの役に立てるかもしれない。ここまで用意してくれたんだから出来ることはしないとな。


「俺もっス! 学校の行事でしかしたことないんでこういうのワクワクするっス!」


「そう、それは良かったわ――」


 ん? なんだろう。普段とほとんど変わらないのだけれど少しだけ雨宮さんが嬉しそうだった。


「さ、それじゃあ準備しましょ」


 そんなわけで調理開始。

 毎日家で料理をしている石田と調理器具や食材の置き場所などをよく知っている雨宮さんは調理チーム、機材の設置や火熾しの経験があるぼくと茉依は準備チームとして二手に分かれて作業することになった。


「茉依は皿とか箸とか用意して。機材の設置とか火おこしはぼくがするから」


「うんっ! ゆーちゃん昔から上手だもんね」


 なんだか茉依に言われると照れてしまう。そして同時に失敗できないという重圧がのしかかった。でも失敗するような不安はなかった。何度も経験していると手順やコツを把握しているから迷いも焦りもない。ぼくは淡々と機材を準備してから炭に火を点けて待機していた。


「茉依は待ってて。食材とか運んでくるから。火の具合とか適度に見ててくれたら助かるかな」


「わかったよぉー」


 ぼくは茉依に火の番を任せてログハウス内に戻った。

 だいたいこっちも準備は整ってるはずだ。

 キッチンの方へ向かうと雨宮さんと石田の話し声が聞こえてきた。


「――私ね、この別荘に友達を呼んだのは初めてなの。お父さんとお母さんからは昔から友達を連れてきてもいいのよって言われてたんだけど……」


「言われてたけどなんスか?」


「私はずっと習い事とかであまり友達と遊んだことがなかったのよ。だから誘うこともできなかったし、もしも誘えたとしても私は何をしていいのかわからないまま口を閉ざしてたと思うの。会話を切り出すのが苦手なのよ。何でもできるように見られているけど意外と不器用なのよ?」


「知ってるっスよ。雨宮さんが頑張って話しかけてる姿も不器用なところがあるところも知ってるっス。それに俺からしたら雨宮さんは初めて見た時からいままでずっと不器用な人だって思ってたっスよ」


「どういう意味よそれ」


「べつに悪い意味じゃないっスよ。なんて言うんスかね、器用不器用って言うんスかね。表面上は何でもできるっていう仮面を付けているけれど、実はすっごく不器用でそれを見られたくないから必死に努力して隠してるような感じっス」


「まるで私を知ってるかのような言い方ね」


「なんたって結構長い間一緒にいますからね。それに俺も似たようなところあるっスから」


「そういえばあなたも苦労してるのよね……。じゃあ1ついいかしら?」


「なんスか?」


「その……いまの私なんだけど……空回ってないかしら? しっかり須永君と茉依ちゃんを案内できてるかしら?」


「もちろんばっちりっスよ。何か困ったら手伝うんで遠慮せずに言ってくださいっス」


「……うん」


 割って入れる状況じゃなかった。立ち聞きしてしまったのは悪いかもしれないけれど、こればかりはどうしようもなかった。それにいい感じの雰囲気だった。いつもの雨宮さんと石田の会話とは全く違い、2人だけの間で交わされているかのようなやりとりだった。

 そろそろ戻らないと茉依も待ちくたびれてるだろうな。

 タイミングを見計らってぼくは2人の前に顔を出した。


「雨宮さんに石田。食材の準備はできたかな?」


「えぇもちろんよ。やっぱり普段から料理してる男子は頼りがいがあるわ」


「ちょっ! そんなこと言われたら照れるじゃないっスか! あんまりからかわないでくださいよ!」


「そんなことないわよ。私1人じゃまだまだ終わってないもの。その……手伝ってくれてありがと」


 あれ、これってもしかして?


「俺にお礼なんてもったいないっすよ。ささ、早く運んで焼きましょ! 俺もうお腹ペコペコっス!」


「それもそうだな。早く行かないと茉依が怒りそうだ」


「ほんとね。あとで茉依ちゃんに謝らなくっちゃね」


 下準備された食材をバットや大皿に盛って運ぶ。遠くで金網から火が高く上がり、火バサミを持たままあたふたしている茉依がいた。火の番を頼んだものの全然できてないし……。茉依は雨宮さんと違って不器用不器用だからな。紙ヒコーキを折る時だけは器用だけれど。って、早く行かないと火が大変なことになりそうだ。


「茉依離れてていいぞ! いまするから!」


「ゆーちゃん遅いよー! 早く助けてよー!」


 茉依は本当に手が掛かる。けれど、ぼくはそんなところも嫌いになれないんだ。だから不器用でもいいと思う。茉依と雨宮さんは違うけれど隠す必要はないと思った。でも雨宮さんが器用に振る舞うのはぼくたち周りの人が勝手に決めつけているからかもしれない。

『雨宮さんは何でもできる人だ』って。

 その決めつけを無くすことができたとき、ぼくにも本当の雨宮さんが見えるのかもしれない。


 








 ストケシア。花言葉は、『清らかな乙女』『清楚な娘』『追憶』です。

 次回話に続きます。

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