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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
2章 不器用でも空回ってでもキミのもとへ
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トレニア




 土曜日の朝6時過ぎ。夜は完全に明けて空は青々と晴れ、太陽の日差しもあたたかく風も穏やかで気持ちが良い。どこかへ行くには絶好の天気なのもよくわかる。けれど、せっかくの休日にぼくはこんな早く起きる必要があるのだろうか。まだ少し重たいまぶたを上げて、ぼくは着々とカバンに必要なものを詰め込んで準備していた。


 どうして早起きをすることになったのか。それは石田の一言がきっかけだった。

 さかのぼること一週間前のことだ。いつもの4人で帰宅する途中で石田は言った。


「いやぁー来週は3連休っスね! ゆーさん何か予定とかあるんスか?」


「いや、とくになにもないけど。まぁ、近くの本屋とかちょっと出掛けるくらいだけだと思う」


「茉依さんと雨宮さんはどうっスかね?」


「わたしもゆーちゃんといっしょでなにもないよぉー。でもせっかくの3連休なんだよねー」


「私も特別なにもないわよ。宿題とかはあるかもしれないけれど」


「休みの日まで勉強とかしなくてもいいんじゃないっスかねぇ。まぁそれは置いておいて、いまのでよーく分かったっス!」


「んっ、何がだ?」


「俺もっスけど、ゆーさんも茉依さんも雨宮さんも特別予定がないってことっス! それなら4人で何処かへ行かないっスか?」


 またコイツは突拍子もないことを……。


「何処っていったい何処へ行くのかしら?」


「うーん、そうっスねぇ……。ほどよく遠い場所で、でもお金はあまり使わなくって、そんでもって楽しく過ごせるようなトコっスかねぇ」


 石田の条件を満たそうとするととてつもなく大変だ。わがままの領域を越えている。そもそもお金をあまり使用せずに遠くへ行ける方法なんてあるのか?


「さすがにそんな都合のいいところないだろう」


「いや、必ずあるっス! 日本だってそれなりに広いんスからひとつやふたつすぐに見つかるっスよ! そうっスよね茉依さんに雨宮さん!」


「うーん、どうかなぁ……」


 茉依の反応は当然だ。それに石田のヤツ、日本全国の場所探す気じゃないだろうな。隣の県に行くとしたらとてもじゃないがお金なしでは行けないと思うぞ。


「……それほど近いとも言えないけれど、思い当たる場所なら知ってるわよ?」


「えぇっつ!? それマジっスか!?」


「ええ。でもそこが使えるかどうかはお父さんとお母さんに聞いてみないと分からないわよ?」


「その情報を聞けただけでも十分っス! ぜひご両親に聞いてもらいたいんスけど大丈夫っスかね……?」


「そうねぇ、ひとつお願いを聞いてくれるならいいわよ」


「オッケーっス! 俺にできることなら何でもいいっスよ!」


「それじゃあこれからお父さんとお母さんに説明してくれるかしら」


「えっ、俺から話すんスか……?」


 完全に予想外だったようだ。雨宮さんなしには見られない石田の真面目な顔があまりにも面白くて、笑いそうになってしまった。


「なにも私が話すとは一言も言ってないわよ。それに説明するのは主催者のあなたの方が適任でしょ?」


「そうっスけど、ほら……そう、あれ! 俺ってこの口調なんでやめておいた方がいいと思うんスけど……」


「大丈夫よ。いざとなったら仕方がないけれど私が手を貸してあげるから」


「それなら雨宮さん本人から説明してもらった方が早いし正確――」


「いいからいいから。それにお願い聞いてくれるって言ったのはあなたじゃないかしら?」


「ま、まぁ……。りょ……りょーかいっス……」


 いつ見ても石田と雨宮さんのやりとりは面白い。子どもと大人というか、姉と弟というか、なんだかそんな感じだ。なんだかんだ言い合っても最後は雨宮さんの方が一枚上手なんだよな。


「それじゃあ私たちはここで。また明日学校で」


「うん。石田、説得頑張れよ」


「ゆーさんも一緒にどうっスか……?」


「悪いけど遠慮しとく」


「こーくんに梓ちゃんまた明日ねー」



 あのあと石田から聞いた話では相当大変だったそうだ。雨宮さんのお父さんもお母さんも学校で教師をしているそうで、しっかりとした言葉で話さないと聞いてくれなかったそうだ。石田にとってあの口調を治すのは至難の業だっただろう。『~っス』なんて口調を雨宮さんのご両親が許すはずがない。それこそ雨宮さんとは真逆の話し方だ。それでも最後はしっかりと説明できたようで、雨宮さんが言っていた場所の使用許可をもらってきた。

 まぁ、ジュースの1本でも買ってやるか。

 それと、雨宮さんの成績や習い事についてようやく納得がいった。両親揃って学校の先生だとはぼくも思わなかった。雨宮さんもきっと大変だろう。ぼくはなんだかそう思ってしまった。




 ――そして、そんな石田のきっかけを経て今に至るわけだ。

 準備を終えたぼくは家を出て茉依の家の前に来ていた。待ち合わせ時間の5分前に着いたが、茉依が出てくるような気配は一切感じなかった。まさかと思って茉依の携帯電話に電話を掛けてみた。すると「ごめんいまさっき起きたの! もうちょっとまってて!」と慌てていた。

 早起きをするのはべつに悪いことではないからいいとして、それよりもぼくはいったい何分――いや、何十分待たされるのだろう。まぁ、大方予想していた通りなわけで期待していたつもりもないのが本音だ。


「ゆーちゃんごめんね! おまたせ!」


「あまりにも遅いから置いていこうと思ったよ」


「ゆーちゃんのいじわる……」


「はいはい、遅れてるんだからさっさといくぞ」



 今日、ぼくらは普段と違う一日を過ごすことになる――――








 トレニア。花言葉は、『ひらめき』『温和』『愛嬌』などです。

 次回話に続きます。

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