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花言葉の物語 ~青春グラフィティ~  作者: 十六夜 あやめ
1章 想いを乗せてキミのもとへ
20/30

カトレア





 茉依が出てくるまでの間、ぼくはポケットから携帯電話を取り出して適当に操作していた。すると一通のメールが受信されていることに気付き、そのメールを開いてみた。そのメールは雨宮さんからのもので『遅れてごめんなさい。茉依ちゃんが休んでいるのは分かったのだけれどメールを打つ前に授業が始まっちゃって。と言ってもすでに茉依ちゃんのことは聞いているわよね。私のもとにあの馬鹿からメールが届いていたの。須永君には茉依ちゃんのことを伝えてあるからって。もう茉依ちゃんには会ったのかしら?』

 ぼくが雨宮さんからメールを待っていたことを知っていたのか?

 ときどき石田にはぼくらには見えないものが見えているのではないかと思ってしまう。それはたとえばぼくの気持ちだったり、雨宮さんのことだったり、天気のことだったり。何もいまに思ったことじゃない。石田の家を離れる時に「いってらっしゃい。きっとこの雨もそう長く続かないっスから――」と言われていた。そしてその言葉通り、あれほど降っていた雨は止んだ。さっきまでの仄暗い空がまるで嘘みたいに明るくなりつつあった。

 石田……お前は何者なんだよ。まぁ、いい奴であることは間違いないか。


 ぼくは傘を閉じて雨宮さんにメールを打つ。

 『迷惑かけてごめんね。茉依には会ったよ。これから茉依と一緒に登校するよ』

 送信ボタンを押して携帯電話をポケットにしまうと制服に着替えた茉依が家から出てきた。髪はあちこちに跳ね、ブラウスのボタンは掛け違えてあり、靴ひもは解けたままだった。茉依に一つ一つ指摘をすると慌てて直し始めた。たった一日会わなかっただけなのに、茉依の仕草や表情が懐かしく感じて思わず笑ってしまった。


「ゆーちゃんどうして笑ってるの?」


「いや、なんでもない。それよりさ、いままでごめんな。今日休んだのもぼくのせいだもんな」


「ううん。ゆーちゃんは何も悪くないよぉー。ゆーちゃんはいつもわたしのために頑張ってくれてるの知ってるもん。だからゆーちゃんは何一つ悪くないんだよぉー。それにね、わたしの方こそごめんなさい!」


「おぉ……いきなりどうしたんだよ……」


「わたしのせいでゆーちゃんにいままでたくさん迷惑掛けちゃったよね……」


「別に何一つ迷惑なんて掛かってないよ。それに迷惑だなんて一度も思ったこともない。それに、茉依の掛ける迷惑ならどんなことでも許せるっていうか……」


「えぇーなんで?」


「だってさ、それは茉依のことが好きだから……」


 そう言うと茉依は下を向いて黙ってしまった。ぼくはその反応に小さくガッツポーズをした。もしも茉依が下を向かなければぼくが下を向いていた。直接声に出して告白するのはいくら幼馴染でも恥ずかしかった。

 頬を軽く染めた茉依がおもむろに鞄の中から一機の紙ヒコーキを取り出してぼくに差出した。


「ぼくに?」


「……うん。読んで」


 いつもみたいに学校で配られるプリントではなかった。紙質といい、妙にオシャレな色の付いた花がプリントされているといい、まるで便箋みたいだ。それに加えていつも以上に丁寧に折られているような紙ヒコーキで思わず開くのを躊躇ってしまう。一度茉依の方に視線を向けてみた。茉依はどうして開けないのだろうとでも言いたげな顔でこちらを見上げていた。ぼくは軽い罪悪感を抱きながらきれいに折られた紙ヒコーキを開いた。


 『また紙ヒコーキをください!』


 紙ヒコーキくらいいくらでも飛ばしてやるって。

 もしかして茉依はぼくが紙ヒコーキをあまり飛ばさないから迷惑だと思っていたのだろうか。だとしたらそれは大間違いだ。ぼくはただ何て書いて飛ばせばいいのかわからなかっただけで、迷惑だなんて微塵も思っていない。むしろこういった迷惑ならば大歓迎だ。それにしても、いまはぼくしかいないのだからこれくらい口で言えばいいのにと思った。まぁ、ぼくも茉依のことを言えないのだけど。


「そうだな、気が向いたらまた飛ばすよ」


「うん! 待ってるね!」


「あぁ。それでさ、その……さっき飛ばした紙ヒコーキの返事を聞かせてくれないか?」


 ぼくが茉依に飛ばした紙ヒコーキ。ぼくはどうしても茉依の口から返事を聞きたかった。それはつまり告白の返事でもあるのだ。


「そんなの決まってるよ。いっしょにいこうね、ゆーちゃん」


 雲間から射し込む太陽の光が笑顔の茉依を照らした。ぼくのずっと見たかった茉依の笑顔を見ることができて心拍数は急上昇した。やっぱりぼくの隣には茉依がいてくれないと廻らないみたいだ。

 改めて茉依がどれほど大切な存在なのか再認識することができた瞬間だった。


「よしっ。早く学校いこう。そうだ、学校に着いたら真っ先に寄りたい場所あるんだけどさ、ついて来てくれないか?」


「うん。いいよぉー」


「さすがにあの場所へ一人で行くのは不安だからさ……」


「ゆーちゃんどこ行くの?」


「もうひとつ足りていないピースがあってさ。あいつが戻って来て初めていままでの日常に戻るんだ。行くのは学校のトップがいる場所だ――――」



 ぼくと茉依は学校へ向かって駆け出した。

 水溜りに乱反射した光はぼくらの進む道を指示し、はじける水しぶきは背中を押すように輝いていた。








 カトレア。花言葉は、『純粋な愛』『あなたは美しい』などです。

 次回話に続きます。


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