サザンクロス
物語を楽しんでいただくため、花言葉は後書きに書いています。
ぼくは須永悠。高校2年生で平凡な毎日を〝きっと〟過ごしている。
どうして〝きっと〟かというのか、それはぼくの幼馴染が関係しているからだ。
ぼくの通う高校は各学年8クラスあって、その中の1組にぼくはいる。昇降口横の階段を上ったところに教室があってとても便利だ。廊下側の一番後ろに座るぼくは教室の出入りが楽な分、少しだけ(ほんのわずかだけ)悩み事もあった。悩み事とは一体なんなのか。
それもぼくの幼馴染が関係しているのだ。
ある日の3時間目が終わって中休みのときだった。
ぼくは背中にじっと見つめられているような視線を感じ、さらに何か鋭利なもの(殺傷能力はないに等しい)で狙われているような感覚がしていた。なぜ見ないで分かるのか。これは毎日というわけではないが、週に3~4回は背中に視線を感じるため、なんとなくの感覚で分かるのだ。
この視線がぼくのわずかばかしの悩みだ。
椅子に座ったまま上半身だけを後ろの扉に向ける。すると、そこには驚いた顔をしている女子が覗いていた。左手に紙ヒコーキを持ち、タイミングを窺っているみたいだった。
その子はぼくの机に向けて真っ直ぐ紙ヒコーキを飛ばし、見事に机の上に着陸させてみせた。当の本人は上手く飛ばせたのか、小さくガッツポーズをして上機嫌だった。
「それ、あげるね」
笑顔で言われた。
正直……いらない。
そう。これがぼくの幼馴染、浦木茉依だ。
紙ヒコーキをいつも持ち歩いているちょっと変わった奴だけど、それを除けば至って普通の女の子だ。
「ほんと懲りずに8組から来るよなぁー」
8組は長い廊下の一番奥にあるクラスで、よほどの用事がない限り行き来したくない距離だ。それなのに茉依はほぼ毎日こうして来ている。
「ね、読んで」
これもいつも通り。
机に着陸している綺麗に折られた紙ヒコーキを広げる。
『今日のお昼は一緒に食堂でたべよ』
毎度ツッコミたくなる気持ちを抑えてはいるが、毎回どうしても抑え切れず心の中でツッコんでいた。
それくらい直接言えよ! すぐそこじゃん!
「だめかなぁ?」
「いや、まぁいいけどさ……。いつもクラスの人といっしょに食べてるのにどうしたんだよ」
「仲のいい友達は今日風邪でお休みだったり委員会のお仕事で忙しかったりでみんないないの。だから今日は特別にね、いつもひとりでご飯を食べているゆーちゃんを誘おうと思ったの」
「あぁーわかったわかった。いっしょに食べてやるから早く教室に戻れ。そろそろチャイム鳴るぞ」
そう言ってやると茉依はもう一機の紙ヒコーキを飛ばして8組の方へ戻っていった。
足元に落ちたこれまた綺麗に折られた紙ヒコーキを広げる。
『それじゃあお昼に食堂でね』
ぼくが一緒に食べてやるのを知っていたかのように、はじめから用意されていたようだ。そう思うとなんだか負けた気分にもなったが、久しぶりに一緒にお昼食べられると思うと嬉しくなった。
昼休み。
1階にある食堂に向かい、茉依の姿を探す。お昼の食堂は相変わらず人で溢れていた。
……どこにいんだよ。
周りをきょろきょろと見回して茉依を探していると、一機の紙ヒコーキが突如現れてぼくの方に飛んできたのでそれを両手でキャッチして広げた。
『窓際の後ろから3番目の席だよ』
紙ヒコーキの着陸精度大会みたいのがあったら間違いなく茉依の優勝だろう。おまけに紙ヒコーキの飛距離を競う大会でも優勝できるんじゃないか?
入り口付近にいたぼくから茉依のいる席まで結構離れていた。とても紙ヒコーキが届く距離とは思えなかった。
「ゆーちゃんこっちこっち」
書かれていた通り、窓際の後ろから3番目の席に座っていた。
小さなお弁当箱を広げて待っていたようだ。
「わるい茉依、今日弁当を家に忘れたみたいだから先食べてて。何か買ってくるから」
「えーいやだ。待ってる」
「食べるの遅いんだから先に食っとけって」
「やだ。ゆーちゃんが来るまで食べない」
意外と頑固なところがある。
「あぁーもうわかった。じゃあすぐに買ってくるから待ってろ」
「ね、ゆーちゃんは何を食べるの?」
「んーカツサンドでいいかな。あれだったら早くできると思うし」
そういうと茉依はもそもそと紙に何か書きはじめた。そしてその紙を折って紙ヒコーキにして、食堂の調理場へ向かって飛ばしたのだ。
それは真っ直ぐ綺麗な飛行だった。
…………って。
「おぉい! 紙ヒコーキを飛ばしてどうすんだよ!? てか何を書いた!?」
「ゆーちゃんのカツサンドだよ」
満面の笑みにそれ以上何も言えなかった。
ぼくって弱いなぁ……。
調理場の方へ向かう。すると、すぐに調理場の方から掛け声がした。
「あなたがお腹を空かせたゆーちゃんね。紙ヒコーキでカツサンドを注文をされたのは初めてだったわ。急いで作ったからちょっと形悪いけど許してちょーだいね。あ、これ150円ね」
ぼくは笑うおばちゃんの顔から視線を背けてお金を払った。
茉依の待つ席に戻ってカツサンドを手にしたまま聞く。
「なぁ、一体何て書いたんだよ……」
「なにって『お腹を空かせています。ゆーちゃんのためにカツサンドを急いで作って下さい』ってだよ」
「お前なぁー……」
「でもよかったね。これで食べられるもん」
……まぁ、いいっか。
「あっ! ゆーちゃん先に食べちゃダメだよ! いっしょにいただきますしないと!」
「はいはい、いただきまーす」
「いただきまーす」
こんな日が毎日のように続いている。
茉依といるのは楽しいし、いつもペースを乱されるけどそれもまた良くて、クラスが違ってなかなか会えないと思っていたけれどちょくちょく顔を出すし、いつでも紙ヒコーキを持っていて気になる。
茉依は幼馴染だ。友達よりも大切だ。でも恋人じゃない。
恋人じゃないけれど、この大切な時間がずっと続けばいいと思った。
そしていつかこのビミョーな関係が変わればいいのにと願う。
茉依の飛ばす紙ヒコーキのように真っ直ぐ気持ちを伝えられるように。
想いを乗せて君のもとへ。
サザンクロス。花言葉は、『願いをかなえて』です。
挿絵はせりあさんに描いていただきました。