嘘だよね?
ポケーと、私はハンバーガーにかぶりついている、まーくんに見入っている。
好きと自覚してからというもの、私は、この気持ちをどうしたらいいのかわからず、ただ普段どおり…。
には、とうていできず。
見入っている私に、まーくんがニッコリ笑いかける。
私は無言で、目線をそらす。
―普通どおりに話せないよぉ。―
「今日元気ないけど、風邪とかなん?」
心配そうに、私の額に触れようとするまーくんの手。
暖かいまーくんの体温が私の頭をかけめぐる。
「ぜ、全然。絶好調」
―なにが!―
自分の言った言葉に、私はすかさずつっこむ。
テーブルにおいていた車のキーをとり、まーくんが立ち上がった。
「帰ろっか。家までおくるよ」
―えっ!?まだ一緒にいたい―
何て事は、私には言えない。
だって、彼女でもなんでもないのに、こんな“わがまま”言えるはずがない。
―嫌われたらやだもん―
素直にまーくんの指示に従う私。
車に乗り込んでも、音楽だけが耳に流れ込んでいる。
―どうやって、話してたっけ。好きって確信がないとき、どうやって、あんなに楽しく話してたんだっけ―
「ついたよ」
急なまーくんの声に、私の体がビクッと動く。
もう家の前についてしまった。
「ありがとう」
精一杯の私の言葉。
鞄をもち、私はドアを開けようとした。
瞬間、まーくんが私の手首を引っ張り自分の唇へともっていく。
私は驚いて目を開けたまま硬直。
「クリスマス。一緒に過ごしたいね」
唇を離し、私を優しく抱き締めるまーくん。
嬉しくて、私はまーくんの胸のなかで小さくうなずく。
―すごく…幸せ―
私は、クリスマスにむけて、手編みのマフラーを編んでいた。
―喜んでくれるといいな―
笑いながら、私が編み物をしていると、横から、誰かの顔がでてきた。
「今時マフラーかよ」
そう、私の兄貴だった。
「別にいいでしょ!」
マフラーをコタツに隠して、私は兄貴に言う。
カレーライスがはいった皿をテーブルにおき、兄貴はテレビをつける。
「今時ねぇ〜」
もう一度同じ言葉を私に告げる。
―このヤロー。喧嘩うっとんのか―
兄弟同士の喧嘩のゴングが鳴ろうとしたとき、私の携帯が鳴る。
編みかけのマフラーをコタツの中に隠し、私は携帯にでる。
「もっしぃ〜」
由香からだ。
「どうしたん?こんな時間に」
「あのさぁー。すごい言いにくいんだけど……」
落ち着きのない由香の声。
やたらと後ろのほうも騒がしい。
「今どこにいるの?」
と私。
「一樹君と一緒にゲーセンにおるんよ」
『はやくいっちまえよ』
遠くの方から、一樹君らしき声が聞こえた。
受話器を手で押さえたのか、ゴソゴソと音がこすれる。
「今言おうとしてるんだって」
小声で私に聞こえないように、由香が一樹君にしゃべっている。
―もろ聞こえてますけどね―
ハハハッと私は笑う。
『傷つかないうちに言ってやれよ。………してるって』
一樹君の声だ。
うまく、最後まで聞き取れない。
「どうしたの?」
なんか、ただごとではなさそう。
私はそう感じた。
やっと受話器から手をとったのか、由香の息遣いが耳にはいる。
「落ち着いて聞いてね」
と由香。
「う、うん」
「あのね…」
間があく。
緊張する私。
「まーくんの事なんだけど。……してたって」
大事なぶぶんで、由香の声が小さくなる。
「な、なに?」
私は聞き返す。
「だからね、実はまーくん、結婚してるの」
「はっ?」
裏返った声はもちろん私。
そんなことも気にせず、由香は話をつづける。
「息子が一人いるらしいの。さっき一樹君に聞いて…」
―なにを言ってんの?―
由香が私に何か言ってる。
聞こえない…。
頭の中が真っ白になる。
「なに…それ」
目の前が、涙でうもれる。
「最低だよね!雪、今からまーくん呼び出してなんか言ってやれ」
怒った声で由香が私に言う。
涙が頬につたり、もう顔はぐしゃぐしゃに歪む私。
カレーライスを食べていた兄貴の手が止まる。
「なに泣いてんだよ!」
焦る兄貴。
私は片方の手で、自分の前髪をつかむ。
胸が痛い。
苦しい…息ができないよ。
「ほ、本当かどうか……まーくんに確かめる」
信じられない気持ちのほうが大きかった。
私は、何か叫んでいる由香の言葉を無視し、電話を切る。
兄貴が私の頭をなでてくれていた。
―まーくんと会うなら、涙はとめておかなくっちゃ―
そうはおもうものの、涙が止まるまで時間はかなりかかった。
どうか……真実ではありませんように。
ずっと私は、まーくんに会うまで心のなかで祈った。
神様など信じていない私だったけど、このときばかりは、神様を信じたい。
「ごめん。本当なんだ」
涙が止まった私は、家の近くの公園でまーくんと話していた。
星空が、私達の影を照らしている。
「嘘だよね?」
信じたくもない言葉が、まーくんの口からもれる。
まーくんは、じっと私の目を見る。
そらすことのない瞳が、私には辛かった。
鼻の奥から、しみでる痛み。
―泣いたら駄目―
私は自分の手を膝の上で握った。
「本当のことなんだ。子供もいるし、結婚して五年にもなる」
「じゃー、どうして家庭があるのに、私にキスなんかしたの?」
―もう限界…―
「最初は遊びのつもりだった。でも、だんだん好きになっていく自分がいて。雪を…傷つけるつもりはなかった」
「私は、どうしたらいいの?」
この言葉を出した瞬間、私は胸につかえてたものが、一気にわき上がってきた。
あんなにも家で泣いたのに、涙は止まる事を知らず、私の視界をさえぎる。
「この気持ち、どうしたらいいのよ」
「ごめん」
「謝るなら、はじめから私にかまわないでよ…」
消え入るような私の声に、抱き寄せようとするまーくん。
すかさず私は、まーくんの手を振り払う。
「まーくんなんて最低!もう…もうこれっきり会わない」
「まてよ。なんで終わりにしなきゃいけないんだよ!」
「結婚してる人に、想いをよせててもしかたないじゃん!」
「結婚はしてるけど、別の方法だってあるだろ」
「不倫…とか?」
もちろん、この質問にまーくんは無言だった。
私から目を逸らし、うつむいたまま。
―なんで、こんな人好きになったんだろう―
―なんで、こんな状況になっても、この人の事嫌いになれないんだろう―
「もう…辛い」
呼吸をととのえ、私は涙をぬぐう。
「ごめんな」
「それしか言えないの?」
「ごめん」
同じ言葉ばかりを繰り返すまーくんに、私はイラッとした。
うつむいている、まーくんの“むねぐら”を掴み、私はおもいっきりビンタをくらわした。
「さようなら」
そう言い残し、私はまーくんを一人公園に残したまま、走って帰った。
全速力で、私は後ろを振り向かず走る。
「うっ……うっ」
ようやく家の階段にたどりつき、私は崩れるように座り込んだ。
「わぁぁぁーん」
どんなに泣き叫んでも、痛む心は静まってはくれない。
好きで、好きでしかたがなくて。
どうすることもできない、この気持ち。
嘘って言ってほしかった…。
―もう限界…―
「最初は遊びのつもりだった。。。。。嘘って言ってほしかった…。
修正がちゃんとなっていないところがあるとおもいます。時間があるとき、また見直して治したいとおもいます