カラオケ
彼氏と別れて一年がたち、私はろくに出会いもなく、仕事をもくもくとしていた。
「次はサラダだして!!その後スープね」
昼間のレストランは大忙し。
イタリアンレストランの厨房のなかは、戦場とかしていた。
麺を箸でまぜ、私は次々と指示をだしていく。
そんななか、一人のお客さんが厨房を除き混んで来た。
「雪ちゃん」
私は麺を混ぜたまま、振り替える。
そこには、幼馴染みの由香が、友達連れでたっていた。
首筋に流れてくる汗を、私はコック服で拭き取る。
「食べに来てくれたんだ」
私はニッコリ笑って由香に言う。
「うん。今日も忙しそうだね」
「昼間はいつもこんなかんじだよ」
「そっかぁー」
バタバタしている厨房を見ながら、由香は黙り込んでしまった。
後ろにいる友達が、先に会計をすませようと、私に小さくお辞儀し、由香を残して先に行ってしまった。
ウエートレスが、突っ立っている由香が邪魔なのか、注文を厨房に呼び掛けるたびに、とても困ったようなまなざしをむけていた。
私は黙っている由香に話かける。
「どうしたの?」
―そこにたってると邪魔―
とはさすがに言えなかった。
やっと由香が口をひらく。
「今度の日曜日暇?」
「日曜日?」
その言葉に聞き返しながら、さっき湯で上がった麺を、ソースがはいった鍋にいれ、私は振る。
「なにかあるの?」
と私。
「気晴らしに遊びにいかないかなって」
ニコニコとして、由香が聞く。
「日曜日じゃなきゃ駄目なの?」
「駄目なの」
即答な答えがかえってきた。
後ろにある皿を2枚取りだし、さっきふっていたスパゲッティーを二つにわけながら、私は考える。
「いいよね?」
返事をくれない私に、強引にオーケーをだそうとする由香。
取り分けた二枚の皿を、厨房の前でまっていたウエートレスに渡す。
「休みがとれたらね」
疲れた体を楽にするために、私は溜め息をつく。
「じゃぁー、十時に駅ね!」
そう言い残し、由香は満面な笑みで帰って行った。
―うーん、九時ははやいかな……って、えっ!?もう行くの限定!―
日曜日の朝、十時。
私は由香の言われたとおり、休みをとり駅でまっていた。
日曜日の駅には、カップル連れがおおく、私はなんだか虚しい気持ちになってきた。
―なんか……テンションさがるなぁー―
ドンッと誰かが私の背中をおした。
「暗い!」
由香だった。
押された背中をさすりながら、私はぁーと溜め息をつく。
「溜め息禁止!」
すかさず由香がツッコム。
禁止って言われても。仕事始めてから、溜め息つくのくせになっちゃったんだよね。
心のなかで、そうおもいつつ、私はとりあえず
「はい」
と返事をする。
学生は元気だなぁ〜と私はしみじみおもう。
コンビニによって、お菓子やらジュースやらを買うなり、近くのカラオケまで歩き。
隣では、由香が学校の愚痴をこぼす。
「大変なんだね」
話をあわせるように、私はこの言葉を繰り返す。
もう、こんな元気、私にはないなぁ〜と、由香を見ながらおもった。
駅から歩いて十五分の場所のカラオケにつくなり、由香は鞄にはいっていた手鏡を取り出した。
カラオケの前で化粧直しをはじめたのだ。
なんとなく……なんとなくだけど、さっしがつく。
頬をあからめ、由香は深呼吸をし、私の腕をつかみ。
「さっ、行くよ」
たかがカラオケで、そんな意気込まんでも。
気合いをいれた由香は、ズンズンとカラオケの中にはいって行き、レジの所まで一直線。
私は由香に腕をひっぱられながら、なすすべなく身を任す。
―引っ張られるって楽―
「いらっしゃいませ。お時間のほうはおきまりですか?」
男の人が、営業スマイルで話かけてくる。
―この人が目当てなのかな?―
ついつい、その男の人をジーと見入ってしまう私。
それにきづいた店員が、私にニッコリ笑いかけてくる。
―い、以外にかっこいい。というよりも、笑顔がかわいい―
財布をだしながら、そんな事をおもっちゃったりもしちゃいます。
由香はというと、レジの男にも目を向けず、奥の方を見ようとつま先立ちで体を揺らしていた。
「一樹は今日お休みですよ」
クスッと笑って店員が由香に言う。
いっきに由香の顔が赤くなり、つま先立ちをやめ、下に目をむけながら、おもむろに財布を捜しはじめる。
―なるほどね。その一樹っていう人がおめあてだったんだ―
カラオケは二時間とり、マイクを二本もらうと、二階へとのぼる。
おめあての人がいないと言われ、由香のテンションはというと……。
うーん、微妙な所でございます。
下がってる?下がってるのか?これは。
歩きながら、由香の顔を除き混む。
ズルッ!
ちゃんと前を見ていなかった私は、階段を一段飛ばし、すべってこけてしまった。
暗かった由香の顔が歪む。
「キャハハハ」
同時に由香の笑い声が階段に響く。
―笑ってないで、助けてよ―