雨嫌いがいつの間にか仮面ライダーになっていた件について
雨は、嫌いだ。
なぜ雨を許容しなければならないのだろう。
なぜ、皆傘をさして何食わぬ顔で外に出れるのか。
空から大量の水が降ってくるという異常事態を、到底受け入れることはできない。
とかそんなこと言ったって、仕事はある。くそ、仕事なんてなくなってしまえ。
私がどれだけ玄関を開ける動作が嫌か、皆にはわからないだろう。
「え? 今週1週間、ずっと雨?」
「そうよ、天気予報みてないの? 台風が来てるみたいで、今週はずっと雨らしいわよ」
斜め前のおばさんが「洗濯物が〜」などとぶつぶつ呟いている。でもわたしには洗濯物など些細なことだ、この1週間、外に出なければいけないというタスクに比べれば……。
絶望の中仕事に着手する。やべ、全然集中できねえわ……。
今日はずっと憂鬱だった。いや、今週はずっと憂鬱でいなければならないのか……。
息を吐きながら傘を開く。
雨の何が嫌いかって?
それは、傘に当たる音。嫌いだ。なぜこんなにでかい音がするのか。もう少し低い位置から水が降ってくれればもう少しストレスが少ないのに。
それは、手にかかる雨粒の感覚。ものすごく嫌いだ。一粒一粒を気にしてしまうと、もう終わりだ。気になって仕方がない。
それは、ぐしゃぐしゃになる靴下。死ぬほど嫌いだ。私は濡れたままでずっといると足裏が痒くなる体質だ。ただえさえ気持ちがわるい状態なのに、副作用もあるときた。
私は、雨が嫌いだ。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろからすごい速さの車が近づいてきた。嫌な予感がする……。
バシャンと大きな音を立てて、私に水が大きくかかる。
……なんだよ、なんなんだよ。
ただの雨なのに、もう泣きそうになりながら帰っていると、全身防備のおっさんが前を通りかかる。
長靴は当たり前として、カッパの上に傘をさしている。
……それじゃね!? それ、よくね!? 見た目のヤバさ大なり小なり機能性じゃね!?
私は急いでおっさんに話しかける。
「それ、その格好、雨に濡れませんよね!?」
おっさんからしたら私は急に変なことを声かける変人だっただろう。でもおっさんは一度目を見開いた後、笑顔でこう言った。
「濡れないようにしてるからね。僕は雨が苦手だから。防水手袋ってのもあるよ」
おっさん! おっさんが仏に見えるよ!
「ありがとうございます、私もそれ、やってみます! 本当にありがとうございます!」
おっさんからしたら何に感謝してるかも謎の変人だっただろう。でもおっさんは笑顔で手を振ってくれた。
おっさん! おっさんがもうディズニーのキャストに見えるよ!
翌日、私は完全防備で玄関を開ける。昨日より、玄関が重くない! 気がする!
意を決して雨の中を突き進む。いつもより辛くない! 気がする!
なんだ、こんな簡単なことだったんだ。見た目なんて関係ない、自分を突き進むのみだ。
朝の通勤時間、小学生たちが水たまりをわざと踏んで楽しんでる。昨日その光景を見たらイライラしてただろう。でも私はもう変わったのだ。愉快、愉快。日本の未来、明るいよ。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろからすごい速さの車が近づいてきた。いや、デジャビュを感じる……。私は急いで小学生たちの横にいく。日本の未来を守るのは、私だ!
「きゃー! すごい水かかってきた!」
……どうやら守れてなかったらしい。すまん、日本の未来。お姉さん、力不足でごめんよ……。
「すごい格好のおばさん、俺たちを守ろうとしてくれたの? もしかして仮面ライダーなの?」
「……おばさんはみんなの仮面ライダー、だったのかもしれない」
「かっけぇ! その格好、意味があったんだな! ありがとうございます、おばさん!」
すごい格好と言われた。おばさんって言われた。でもそれ以上に嬉しい。私、仮面ライダーだったのかもしれない。
うーん、雨も悪くない、かもしれない。




