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妖精の瞳~平凡な私が天才魔術師に捕まったワケ~  作者: 古倉慎


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17話 「……美味かった」

 そわそわと落ち着かない様子で、ロザリーは中庭に着いた。昼の休憩時間になってからすぐに来たものだから、まだ誰も来ていない。

 敷物を広げようと、わたわたと準備するロザリーをウェルシュがじとりとした目で見る。だが、その視線には気付かず、ロザリーは敷物の上に腰を下ろした。


 ロザリーは迷った末に、結局食べやすいようにとサンドイッチにしたのだ。アマリアに最初に振舞った時もそうだったが、自分の料理を人に振る舞うというのは緊張する。


 ふと、足音がしてロザリーは顔を上げた。すると、テオが丁度こちらに歩いてくるのが見える。


「今日はあの女はいないのか」


 開口一番それである。ロザリーはむっと口を尖らせて、それに言い返した。


「あの女なんて言わないでください。アマリアです。今日は用事があるって言うから来れなかったみたいで」


 本当は、折角だから二人でゆっくり食べたら、と謎の気遣いをされ、ロザリーが取り残されただけなのだがそれを正直に言う勇気はない。


 テオはちらりと敷物に寝転ぶウェルシュに視線をやり、敷物の端に腰を下ろした。


「はい、今日はサンドイッチにしてみました」


 そう言ってロザリーは、布の塊を一つテオに渡す。


「保存のために冷やしてあるので、温めてくださいね」


「分かった」


 テオがこくりと頷いた。

 今日は、野菜と焼き魚のサンドイッチだ。少し具沢山なものの、食べやすいように布でぐるぐるに包んである。

 汁気は少ないがパサつかないようにパンにはバターを多めに塗り、塩みが強かったらレモンをかけてもいい。酸味が苦手なテオのために、甘く実ったものを持ってきた。


 温め終わったテオが、ラップを開きぱくりとサンドイッチにかぶりつく。

 ロザリーは自分の分を温めながら、ついその様子をまじまじと見つめてしまった。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

「そんなに見るな。食いにくい」


 じとりとテオに呆れ顔で睨まれ、慌ててロザリーの分の布を開く。


「ごめんなさい、口に合うかなと思って」


 ロザリーもサンドイッチを食べ始めた。ぱくりと口に入れると、魚の脂が甘くつい顔が綻ぶ。味見はしたものの、改めて失敗はしてないはずと安心した。そうは思いつつも、反応が気になってちらちらとテオの方を窺ってしまう。


 見ている限り、テオの手が止まったり不快そうな顔をしている様子はなさそうだ。本当なら食堂の方が質も高く栄養も取れるのだが、テオは人の多いところは好まない。食堂を勧めてみたこともあるが、微妙な反応だった。


「お前は」


 ふと、食べる手を止めてテオに呼びかけられたが、そのまま言葉がぷつりと途切れる。


 口いっぱいに放り込んだサンドイッチを咀嚼し、飲み込んでも続かない声に、ロザリーは思わず声をかけた。


「私が、どうかしました?」


 ロザリーが先を促すと、テオはやっと話し出す。表情は特に変わらないが、どこか困っているような雰囲気がしたが確かかは分からない。


「魔法の出力には問題があるが、生活魔法には手際がいい。魔法を使うこと自体には随分と慣れているようだな」


 聞かれてみれば、なんだそんなことかとロザリーはぱちぱちと瞼を瞬かせる。テオの口から、人を褒める言葉が出てくるとはという驚きもあった。

 本人は単なる興味だろうが、予期せず褒められてロザリーは頬を緩ませる。


「そうですか? おばあちゃんに鍛えられたので、自然と身についたんです」


 鍛えられたというよりは押し付けられていたというのが正しいのだが、そちらは黙っておこう。


「お前が言う特訓とやらを考えていたが、以前やったように魔力のコントロールの精度を上げる方向性で間違っていないと思う」


「そうなんですか?」


 ロザリーが聞くと、テオは完全に食べる手を止めて話すのに集中し始めてしまった。


「お前の出力が制限されていることはわかった。だが魔法使いによっては、ただ際限なく威力を上げた魔法を行使するより、細やかで繊細な操作を苦手とする者もいる」


「ふむふむ」


 いつもの難しい話よりは理解できると、ロザリーは相槌を打ちながらそれを聞く。


「お前の体質が解決したときに、役にたつ。自分がどれくらいの魔力で、どれだけの威力を出せるのか。それを把握すれば、出力が制限されていようか、魔力を過不足無く使い最大の効果を出せる」


「何となく分かりましたし、色々考えてくれててありがとうございます。でもちょっと行儀悪いですよ」


 気持ちは分かるがついでに釘を刺す。すると、むっとテオはばつの悪そうな顔をしてもそもそとサンドイッチを食べ始めた。

 私の分まで欲しがって膝をつつくウェルシュに余った分をやり、どうにか食べ終える。

 ちらりとテオを見るが、すっかり完食していた。男の人だからたくさん食べるかもと、いつもより多く作っていたのだが。ロザリーは見とがめられぬように安堵のため息をついた。


「お前の魔力の話はまた放課後だ。そろそろ僕は行く」


 そう言ってテオは立ち上がる。


「はい、じゃあまた」


 ロザリーはもう少しゆっくりしていこうと、その背中を見送った。が、中庭の半ばでテオが立ち止まる。


 それを不思議に思っていると、テオがロザリーの方へと振り返った。


「どうしました?」


 何か忘れ物でもあったかと、周囲を見回すがそれらしいものは見当たらない。

 テオを見ると、何かを言いあぐねてるのか視線をさまよわせている。


「……美味かった」


 しばらくすると、ぼそりとテオが呟いた。その言葉に思わずロザリーが目を見開く。その間にテオさんは踵を返し、学舎の方へと歩き出してしまう。


「あ、ありがとうございます」


 慌てて声をかけるが、テオは振り返らずに行ってしまった。

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