今日から住む家が危険物の巣窟だった
表世界と裏世界の境を取り締まる警備隊の本拠地、警備庁はとにかくだだっ広かった。
押収した危険物をはじめ、色々な異世界の物が流れ込んで来るので倉庫がたくさんあるし、厳重なセキュリティを敷いているため三重扉なんかざらだし、そして何の用途か分からない立ち入り禁止エリアが半分を占めているし。
とにかく、ここで暮らしたくないなと思わせる要素満載なのだが、今日から俺はここに住むことになった。
「使ってない部屋が五つあるから、当分そこで生活してくれ」
血も涙もない俺の上司は埃まみれ蜘蛛の巣だらけの部屋を押し付けてきやがった。まあ密輸組織を匿っていると知られたら警備隊という立場上よろしくないので、目に付かない場所にするというのは分かるのだが、四畳はあんまりだと思う。
さらに、ここにいる組織のメンバーは七人なので二つ部屋が足りていない。かくして四畳一人部屋争奪戦が始まった。
「やっばり、組織長は一人部屋じゃないとおかしいわよね?」
「ずるい~!権力反対!あたしも広い部屋がいいよっ!」
「いや待て、ここはレディを一人部屋にするべきじゃねぇか?お前さんたちお子様じゃなくて」
「「酔っ払いは路上でいいでしょ」」
「黙れキッズ!路上の床の硬さを思い知れ!背中バッキバキになるんだぞ!」
不毛な争いの予感がしてきた……レディファーストに準ずるか、と俺が二人部屋に名乗り出ようとすると、
「じゃあ、ワタシは…梓と一緒の部屋がイイ」
頬を染めた白髪エルフが更なる爆弾を投下。ん?聞き間違いかな?
「はあーっ?何言ってんのっ??梓さんと?許すわけないでしょーっ!」
「だ、だって、ほら、狂生根に寄生された同士、気が合うかと…!」
「見え透いた嘘はいいんだよーっ!第一級危険生物を言い訳に使うなっ!あんたはあたしと同じ部屋!それでいいでしょ!」
若者は元気だなぁ、と俺は遠い目をした。一気に老けた俺に錦が歩み寄り、「梓さんは自分と一緒でいいすか?すみませんね」と謎の謝罪を交えつつ申し出てくれた。よって事なきを得る。
「これから…監禁生活が始まるんですね……」
一人ぼーっとしていたミーラリがそんなことを言った。
「そうね、当分帰れなさそうだし…って、あ」
そこで、雪芭が何かを思い出したかのように口を手で覆った。
「爺やをあっちに残してきたの、忘れてた…」
やばい、俺も忘れてた。
「え?大事なツタが組織の方に取り残されたまま?」
「そうなんです、あのツタがないと夜眠れないんです!」
俺たちはそこら辺をたむろしていた上司を捕まえ、爺や(喋るツタ)を取りに行けないか打診することにした。
「(やばいよ爺やのことすっかり忘れてたよっ)」
「(僕もです…処分されてないといいな)」
「(ワタシ、展開についていけないんだけど。爺やって誰?)」
「「ツタの爺さん」」
「尚更分からない!」
ちょっと声の音量を抑えてほしい…内緒話が筒抜けで、俺の冷や汗が増す一方だから……
「まあ私も部下の趣味嗜好に口を出す権利はないが……君ひとりなら取りに行っていいだろう。警備員だから違和感はない。」
良かった、上司に趣味を疑われたけど、何とか切り抜けられた…、と安堵したのも束の間。
「やー楽しそうな話をしてるねー!僕様も混ぜて!」
面倒くさいサングラス白衣の男が現れた。
「こいつ連れてってくれ。役には立つはずだ」
上司がうんざりとした顔で男を押し付けてくる。厄介払いがしたいだけでは?
「おー、いいぜいいぜ、同行したげる!……どこに?」
とりあえず、道すがら事情を説明することにした。
地上までの長いエスカレーターに乗りながら、白衣の男はふむふむと相槌を打った。
「おけ、もっかい組織に戻ればいいんだな。……残党、いないよね?」
「分からない。あいつらにとっては、植物がたくさんある環境なんて生育異常を起こせる格好の的だからな…」
「生育異常ね……梓っち、何か生育異常起きたときの特徴とか覚えてない?普通のとどう違う~、とか。僕様、その分野の研究してるからさ」
「研究職だったのか?政府の裏世界機関というから捜査専門だと思っていたけど…あと、梓っちはやめてくれ」
「兼業してんだ、僕様。だから今回の事件の解決役に大・抜・擢されたって訳!」
とりあえずスルーを選択。
「生育異常起きた時の特徴だな?そうだな、植物が言語を失ってて、半狂乱になってる感じで、あと、再生能力があったな」
「再生能力?」
白衣の男はピクリと反応した。そして、ふざけた様子が一転、真剣な顔つきになる。
「ああ。竜緋種の時はなかったけど」
その時、ちょうどエレベーターが地上階に着いた。そして、扉が開くと同時に白衣の男が一目散に走り出した。
「ちょ、どこ行くんだよ!?」
「付いてこい、梓っち!嫌な予感がする!」
白衣の男はエレベーターの横の非常階段に向かっていき、地下に向かう階段に貼られていた立ち入り禁止テープをはがし、勢いよく駆け下りていった。俺もそれに続く。
「再生能力は、植物では竜翠種だけが持つ力!んで、マタタニアはドゥロロと対をなす植物!マタタニアとドゥロロは、互いの効果を打ち消し合う!
ってことは、ヤツらが使う生育異常を起こす薬は——、竜翠から作られたものだ!!!」
はっとする。これだけヒントがあったのに、薬が何から作られているか考えたこともなかった。いや、必要ないと思った。
「必要なんだよ、この情報は!だって、日本中で一番竜翠を所有しているのは、ここの警備庁だからな!」
前方を走る男は階段を三段飛ばしで下りながら下へ下へと急ぐ。
「竜翠は、竜の再誕の可能性を高めるから警備庁が押収・管理をしているんだ!再生能力持ちで処分できないんで、地下の倉庫にしまってあるはず……!」
階段を下り切った先には、重厚な門扉があった。傍には門番が付いている。
「ひゃっ、あなた何ですか?きょっ、許可取ってます?」
おっかなびっくりの様子の眼鏡の女性に、白衣の男は首から下げたカードを手渡した。
「政府の裏世界機関から来た!倉庫を見せてくれ!」
「はっ、はひい!政府の方ですか、どうぞご自由に!」
何重にもかかったロックが手動で解除され、宇宙船にありそうな分厚い扉がぎぎ、と開いた。
「あのぅ、半年も点検されてないから、中汚いかもです!」
管理体制のずさんさが垣間見えるセリフ。中には何があるのだろうか。
「竜翠は、今表世界に出回っている数が減りつつある。裏世界もそうだ。じゃあ、異世界反対派は薬にするだけの量のマタタニアをどっから仕入れてんのかと思ってな……」
答えが明かされる。
倉庫は、無残なまでに荒らされていた。
右手前の棚は、箱が壊され中のものが全て引っ張り出されている。箱には、かすれた文字で―—『竜翠』とあった。
「やっぱりな…これ見ろ、梓っち」
倉庫の奥の壁には布が被さっており、それをまくると、穴が開いていた。マタタニアを奪うときに使ったとみられる、大きな穴が。
「この穴……どこに繋がっているんだ?」
「分かんね。だから、今から確かめに行ってみない?」
確かめに、の言葉を頭の中で反芻する。
「もしかしたら―—異世界反対派のアジトに繋がってるかもじゃん?」
いつも読んでいただきありがとうございます。
マタタニア関係は第三話からちょくちょく出していました。ようやく本格的に説明することができてほっとしております。あと、作者も忘れがちなキャラである爺やの正体もおいおい書けたらと思います。




