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密談の行方、恋バナの行方

「だから、私ゃある女に唆されただけなんだよ」

黒ドレスの婆さんは、生育異常を起こす薬を所持していたことに対して繰り返し弁明した。

「唆されただけって……最悪ここにいる全員が植物に襲われることもあっただろう。マタタニアがあることも嘘を吐いていたし」

双子の少女が持つ楽器のメンテナンスに使おうとしていた油には、竜翠(マタタニア)が含まれていて、危うく生育異常を起こすところだった。俺がいなかったらどうなっていたか分からない。

「しょうがないんだ。まあマタタニアを山ほど持った奴が来て訳アリだなと思ったんだがね、金をどっさり弾んでくれるって言うから、奴の注文通り油に加工したんだよ。で、そいつは更に、ミサキ獣人楽団の団員が店に訪れたら、楽器に油を塗れって指示してきた。私は指示に従ったまでさ」

「そいつはどうして油を塗らせたんだ?」

「そりゃ私が知りたいくらいだね。そいつは、油は遅効性だから心配ないと言ってたんだよ。楽器の中の植物に油が染み込むのは時間がかかるとね。全く、何がしたいのか分からんよ」

「じゃあ、その女は、どこのどいつなんだ」

そこで、煙管をふかしていた婆さんは手を止めた。

「……知りたいかい?」


婆さんが案内したのは、商店街の広場の近くにある小洒落た喫茶店だった。アーチ型の門は時代を感じさせるほど薄汚れて茶色くなっており、煙突のような形の長細い建物は黒のバラに覆われていて店内をうかがうことができない。怪しげな雰囲気の喫茶店だった。

「ここだよ。あの女は、いつもここにいるらしい。」

婆さんはそう説明したきり姿を眩ませた。残された俺と灰生は、喫茶店に入っていく。双子の鹿の少女たちは何故か付いて来ようとしていたが、危ないので広場に戻っているよう言って別れた。

ドクロが描かれたドアノブを押して入り、まず目に付いたのは、人がいなくて閑散としている店内。そして、ただ一人窓際の座席に腰掛けている―—、ゴスロリ姿の女性。

「この店のコーヒーは中々に美味しくての。そちも一杯どうけ?」

カップを口から離して、女性は妖艶に誘いを口にした。

「それは魅力的な提案だな。薬草屋に竜翠(マタタニア)を渡したのはお前か」

「くく、どうじゃろなぁ。そちは警備隊の者と……研究者?かの。何の用じゃ?」

「しらばっくれるなよ。何のつもりで、薬草屋にマタタニアを使わせた」

「真実にたどり着いたことには敬意を示そうかのう。じゃから、取引といこうじゃんけ。

そちがここまで異世界反対派(わしら)に迫れた経緯と捜査情報を教えてくれれば、マタタニアで何をするつもりなのか教えてやる。どうじゃ?友好的かつ利害が一致した交渉じゃろ?」

引き裂いた笑みを長い袖で隠す女。その墨色の瞳からは邪心が透けて見えている。

そこで、沈黙を貫いていた灰生が切り込んだ。

「キミちゃんね、交渉の基本がなってない」

「……ぅん?」

女の目元から笑みが消えた。張り詰めた空気が漂う。

「第一、僕様たちは異世界反対派の目的について大体見当をつけている。第二に、僕様たちは一介の組織の歯車でしかない。捜査情報なんて知るもんか。これじゃ交渉が釣り合わないな」

「じゃあ、条件を変えるけ?そちが知ることを全てゲロってくれれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

女の怖いほど瘦せこけた体から、静かな怒気が放たれる。俺は思わず唾を呑み込んでしまったが、超えてきた場数が違う政府の裏機関の人間は動じなかった。

「あ~っ、そうだ、三番目の理由もあった―!忘れちゃってた、うっかりうっかり。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

交渉は決裂した。

女はテーブルを勢いよく叩いて立ち上がった。

「この者らを捕らえるのじゃ」

すると、カウンターの陰や店の奥から覆面の者達が次々に姿を現し、こちらに飛びかかって来た。俺と灰生は突如現れた覆面達になすすべもなく押さえ込まれ、地面に転がった。力の限りもがくが相手はびくともしない。頭に燃えるような衝撃。殴られた。視界が血ににじむ。ああ死ぬな、と思った次の瞬間、俺の意識は暗闇に落ちていった。


一方で、同時刻、商店街の一角では。

「ココで、合っている?」

「うんっ、多分ね。キャサリーナ、梓さんの気配はする?」

変化によって人間へと見た目を変えた、白髪エルフの竜狩りの少女と、猫人と偽る狸の少女が言葉を交わしていた。

梓と灰生(主に梓)と合流するため商店街に降り立った少女二人。灰生が持っているという魔法の通信機は先ほどから応答がなく、浜木綿と早枝は自力で男たちを捜索するしかなかった。早枝の肩に乗っている、フランス人形の外見の変幻葉(フェージベイ)の力を借りながら。

(わらわ)の勘も完全ではないので確証はありませんが……おそらく、います。後、どこかで見たような気配もひとつ』

普通の人間には植物の声が聞こえないため、キャサリーナは筆談で会話している。小さな紙に書かれた裏世界の共通語を読みながら、早枝はふむふむと頷いた。

「魔道具商店街って広いんだよねっ、大変だなぁ。とりあえず歩き回るかー」

まるで以前にも訪れたことのあるような口ぶりに、浜木綿は反応して、

「魔道具商店街、知ってるの?」

「この商店街、一応得意先だからさー。育てた植物を出荷してるんだ。出張出店に需要あるんだよねっ、うち。魔女さんが使う道具にも植物ってよく使われてるし!」

「ソウなのね。早枝、ところで……」

どこか緊張感が漂っている商店街を歩きながら、浜木綿はついに意を決して尋ねた。

「アナタ、梓のことが好きなの?」

早枝はその不意打ちに、ぶふっと吹き出し、むせこんだ。

緊張感なんて水平線の彼方に飛んでいった。

「へっ、あぅ、ななな何を…っ」

「チョット気になって。ワタシにとって、梓はとても大切な人だから」

「あぅあぅ、た、大切なひと…っ!!??」

竜滅の少女(ワタシ)を初めて認めてくれた優しい人、だもの。誰にも渡す気はない」

安らかで柔らかい笑みを浮かべるエルフを見る早枝の顔は、困惑と驚きでオーバーヒートして真っ赤になっていた。

「だから、アナタはあの人をどう思っている?」

それは純粋な興味であり、早枝を悩ませるには十分すぎるほどの質問だった。

「あっ、あたしは……」

悩みぬいた結果、早枝から一つの答えが放たれようとしたが、その寸前で険しい表情をしたキャサリーナが話を遮った。

『あそこの植物、様子がおかしいです』

浜木綿と早枝は視線の先の、広場に繋がる大通りに注意を向けた。

そこでは―—、パレードが行われる道を彩るたくさんの花が、建物の壁に飾られていた。

「なんだっ、ただのお花じゃん。どうしたのー、キャサリーナ?」

『違います、違う……!あの植物、全部から()()()()()()()()……!」

「ちょっ、キャサリーナ!?」

そこで、早枝は気付いた。

気付いてしまった。

壁に飾られた植物、その内の一つに、見知ったものが紛れ込んでいることに。

「爺、や……?」

会いたかった相手に一番会いたくない形で会ってしまう、最悪の邂逅だった。

読んでいただきありがとうございます。

次回からはついにミサキ獣人楽団が出てきます!獣人だらけの楽団がどういう風に関わって来るのか、楽しみにしていただければと思います。また、感想等を書いていただけたら幸いです。とても励みになりますので。

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