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樹氷が見たい

 樹氷が見たい。その思いだけで山上ヶ岳に登ってきました。ただ、初めは山上ヶ岳ではなく高見山の予定だったんです。なぜならネットで「奈良、樹氷」で検索するとトップに紹介されるのが高見山だったからです。たかすみ温泉から出発する登山道は使いやすそうで、帰りには温泉で身体を温めることが出来ます。見ごろは1月からでした。ただ気になったのが高見山の標高。1249mしかありません。出来ればもっと高い山に登りたい。


 奈良県で一番高い山は、標高1915mの八経ヶ岳になります。ただ、12月3日から国道309号線が冬季通行止になっており、八経ヶ岳に登る登山口に行けません。どこか手ごろな山はないかな~と探していると山上ヶ岳が目にとまります。標高は1719m。この山に登った方の履歴を調べると、写真を含めた詳細なデータが紹介されていました。12月8日時点で完全な銀世界。この日は、雪と暴風で大変だったようです。8日は荒れた天気でしたが、それ以降は天気が良い。


 ――ええやん。


 10日に出発して登山口で野宿をすれば、11日の朝一番から山に登ることが出来ます。思い立ったら我慢が出来ないのが僕です。ところが10日は色々と用事が重なり、出発は16時半になってしまいました。もうすぐ日が暮れます。理想は、日没に現地到着が良かったのですが仕方ありません。用意は出来ています。出発しました。


 摂津市から中央環状線を真っすぐに南下して、三原で左折すると国道309号線。この道を延々と走っていくと天川村に到着します。天川村から先は封鎖されているので進めませんが、そこから北に進路を変えて洞川温泉に向かいました。平日ということもあり客の姿は見えませんが、提灯のライトアップはされています。これが幻想的でした。何というか、千と千尋の神隠しみたいなイメージ。思わずスーパーカブを停めて見惚れてしまいました。写真をパチリ。そのまま進むと山上ヶ岳、通称「大峯山」の登山口に到着しました。


 真っ暗でした。時間は21時前。移動に4時間ほどかかりました。駐車場にトイレがあるのが助かります。小川のせせらぎを聞きながら手早くテントを設置して、炭に火を熾します。気温はマイナス2度くらいですが、風がないのが良かった。食材は、豚肉ロースとレンコン。肉は焼きましたが、レンコンは味噌汁にして食べます。氷点下の世界では、熱い汁物は必須。身体の中から温まります。と言いつつ、氷点下で冷えたビールもガンガンに飲みます。食事が終わった後の楽しみは、ラム酒。塩味のジャイコーンをアテにしてストレートでグビグビ飲みます。今まで味覚障害だったのですが、ちょっとづつ味覚が戻っています。ほんのりと感じる塩味が美味しい。


 夜の寒さを覚悟していたのですが、思いのほかグッスリと寝れました。ダウンジャケットを着込んだまま寝袋に入るのですが、足先もモフモフの靴下を二重にして履いています。それが良かったみたい。ビールを沢山飲んでいたので夜中に3度ほど小便で目を覚ましましたが、それは想定内。


 朝の4時から活動を開始しました。朝の食事はラーメンのつもりだったんですが、昨晩のレンコンの味噌汁が残っていたので温めなおします。レンコンはでんぷんの塊。案外残っていたので、登山用のエネルギーとしてこれで十分だと判断しました。朝食が終わると、鍋を洗ってもう一度湯を沸かします。コーヒーの用意でした。山頂で作業することを考えていましたが、面倒なので朝のうちに淹れることにします。ステンレスの水筒に熱いコーヒーを入れました。テントや寝袋といった荷造りも全て済ませて、レッツゴー。


 朝6時。ニットの帽子の上から、ヘッドライトをセットしました。前方が照らされます。今回の登山に合わせて用意したトレッキングポールを掴んで歩き出します。大峯大橋を渡ると女人禁制の門がありました。ここ山上ヶ岳は頂上に修験道で有名な大峯山寺があり、大峯山とも呼ばれています。開祖は役行者えんのぎょうじゃ。彼は飛鳥時代のお坊さんで、西暦634年に誕生したと伝えられています。聖徳太子が逝去されたのが西暦622年なので、二人が会うことはありませんでした。役行者は法力によって二匹の鬼を従えていたという伝説があり、過去から様々な文芸作品に取り上げられてきました。近畿最高峰の八経ヶ岳は、役行者が頂上に法華経八巻を納めたことに由来しています。


 ヘッドライトを付けての登山は初めてでした。真っ暗。登山道は何とか確認できますが、全体が見渡せない。歩き続けると急に道が無くなります。おかしいなと思い振り返ると、つづら折りに上り坂が続いていたことが多々ありました。日の出は6時55分。歩き始めて30分もすると、段々と明るくなってきました。ヘッドライトを仕舞います。周辺の葉っぱの上には雪が残っていますが、登山道は解けています。どんどんと歩みを進めました。


 歩き始めて1時間が過ぎた頃、雪が増えてきました。登山道も雪になります。先人が踏みしめた足跡が残っていました。一条松茶屋に到着します。これ以降、幾つかの茶屋があるのですが、休憩所みたいなものです。冬季は誰も居ないので分かりませんが飲み物が買えるようです。椅子に腰を下ろして、ザックの中からチェーンスパイクを取り出し、登山靴に装着しました。今回の登山で一番楽しみにしていたのは、このチェーンスパイクになります。その効果のほどを感じてみたかった。


 チェーンスパイクはアイゼンの仲間になります。どちらかというと雪が少ないときに使うようで、本格的な雪山はではアイゼンを使うそうです。ただ、気になったのはその歩き具合でした。余計なものを足に装着して、普通に歩けるのか心配でしたが、全然問題なかった。というか、雪の中をザクザク歩けます。そんでもって、岩でもガンガン歩けます。全く滑らない。


 今日は一番乗りですが、先日までに歩かれた人の足跡が残っていました。踏みしめられた雪は硬い。ザクザクと音がします。出発してから2時間が経った頃、樹氷が見え始めました。標高は1,500mに届こうとしています。とても感動しました。木の枝に雪が貼りついているのですが、先っぽは針のように尖がっています。不思議な自然の造形美に写真をパチリ。ただ、上手く撮れません。全てが白っぽいので、絵にメリハリがない。それでも、次々と写真を撮っていきます。


 この頃には、辺りは銀世界。登山道から外れた新雪の上には、動物の足跡があります。僕は専門家ではないので足跡だけで動物を判別するのは難しいのですが、多分キツネかな。あと蹄の跡があったので、これは鹿だと思います。太陽が山の稜線から顔を出しました。銀世界に太陽の木漏れ日が差し込みます。見上げると空は快晴で真っ青。白一色の世界だったのがパッと輝き始めました。不思議なもので、太陽が顔を見せるとテンションが上がる上がる。別世界にやってきたことを実感しました。

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