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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役?それならば、全力で媚びます!〜当て馬悪役王子に転生したので全力で媚びます

「さすが部長! よ! 色男! 部長。お隣いいですか? ごめん。部長と乾杯したいから、通してもらっていいかな?」


 部長の行動にセクハラだろと内心は思いながら、さりげなく新入社員の女の子を逃し、横に入る。


「おい。近藤ー。お前じゃなくて新人ちゃんがいいに決まってるだろー」


「部長ー! 僕、こんなにも部長をリスペクトしてるのに、ひどいですよぉ! これは僕の愛のたっぷり入ったビールを飲んでもらわないといけないっすねぇ」


「お前の愛なんていらねーよ! でも仕方ないから隣に座っていいぞ」


「ありがとうございます!」


 上司にごまをすりまくり、ごますり近藤と陰口を叩かれていることを認識しながら、毎日毎日飲み会に連れ回される。土日もゴルフで潰れ、毎晩0時を超えてから帰宅。そんな生活も10年目。身体も丸くなってきた。同期の中では出世している方だと思うが……頭が痛いな。







「おぎゃぁぁあ!」



 俺は何をやっているんだ? なんで赤子の声が? 身体が思うように動かないし、目も開かない。それに寒いぞ……。もしかして……赤子になった!?





 あれから3ヶ月。俺は、転生したことに気がついた。ありえない髪色の人間、中世くらいに見える家具たち。なかなか広い部屋だから、いいところに転生したんだろう。




「オワタラアン!」


 言語は少しずつ理解してきているが、日本語とはまた違うから難しい。誰かがドアを慌てて開き、乳母らしき人が焦ったように俺をベッドに戻す。

 乳母らしき人って言う理由は、ベッドに別室で横たわっている人間が母親だと感じるからだ。







 母親が死んだ。それがわかったのは、広い部屋から小屋のような場所にうつされ、みんなが黒い服を着用して泣いているからだ。乳母は通ってくれるが、俺に対する処遇はかなり悪くなった。








 3歳になった。言語もマスターした。前世チートでメキメキと頭角を現すこともなく、こっそりと図書室らしきところに侵入して自力で勉強を始めた。図書室の入り方? 子供なら通れる隙間ってやつが空いていたからな。それを通ってこっそり通っているんだ。世話以外、放置されているからな。

 






「クリス様。今日のお食事はこちらです」


「ありがちょ」


「食べ終わりましたら、こちらへ」



 使用人たちの話を盗み聞きし、情報を収集した結果、判明した。

 俺は公妾として国王に愛された身分の低い女性の子供らしい。上に正室の子供である兄がいて、次期国王はそちらになる。

 後ろ盾もなく、存在を忘れられているおかげで殺されていないだけマシだが、いつ殺されてもおかしくない状況だ。


 ……新人の子が勧めてくれたアプリのゲームに、王子として産まれ世界を救うゲームがあった。その中で王子がヒロイン①である公爵令嬢との愛を深める時に当て馬として登場する、身分の低い女から産まれた王子……あれ、俺じゃないか?名前も一緒。髪色も瞳の色も一緒。

 確か俺は、公爵令嬢が好きすぎて、嫌がらせのようなことをして嫌われ、それを兄が諌めることで愛が深まる当て馬だ。

 その後、兄と公爵令嬢を逆恨みして、隣国に情報を流し、黒魔術を駆使して国を滅ぼそうとするが失敗……その後絞首刑。悪役だけど、ラスボスではない、中ボス……いや、小ボス……いや単なる敵キャラレベルだ。

 ちなみにそれは一番長生きができた場合だ。基本的には兄と対立するタイミングで死ぬ。

 オープンワールドな世界を攻略する中で、兄が一番最初に公爵令嬢との愛を確かめたのなら、俺は優秀な兄に嫉妬し、即座に敵国と繋がり殺される予定だ。

 どんな運命を辿っても死ぬ。悪役だから、余計なことをしなくても殺される。実際、王妃の差金と思われる毒は何度か食事に混ざっていた。実は使える“ヒール”を自分に使って生きている。


 ……どうしようか。生きたい。王族としてでなくてもいい、生きたい。

 ただ、この王宮から逃げ出した場合は、不要な争乱を防ぐために殺される。それはここまで生活してきて、理解している。

 ……どうしようもないのなら、ごまでもすってみるか。国王に媚びても仕方がない。国王は無理やり母を公妾にしたから、王妃に逆らえない。ごまをする相手は兄だ。王妃には気に入られる未来は見えないからな。













 5歳の誕生日の挨拶の日。5歳を迎え、国王に認められると王族として正式に登録される。その前に手を打たねば。呼び出された謁見の間で、覚悟を決める。




「はじめまちて。クリスと申します。兄上にお会いできて、とってもうれちいです」


「兄のアレックスだ」


「……兄上。兄上、とってもかっこよくてとっても素敵です。僕、兄上の一番の家臣になりたいでしゅ」


 俺の発言に謁見の間は大騒ぎになる。王族に認められれば、王位継承権二位の俺だ。家臣になりたいと公言するには、身分がおかしい。


「クリス。クリスは、私の弟だから、王族として過ごさなければならない。家臣にはなれないよ?」


 3つ上の兄は、思ったよりもまともな兄で安心した。さぁ、まずは王位継承権を放棄するぞ。


「こくおーへーか。母が“おういけいしょうけんをほおきして、しんせきこーかしなさい”って僕に言い残したと聞いていましゅ。僕は兄上を支える臣下になりたいでしゅ」


「マリエッタがそんなことを……。争いごとを好まないマリエッタらしい発言だ。そうか、マリエッタの希望は叶えてやりたい……」


 国王陛下の発言を聞いて、王妃は嬉しそうな、複雑そうな表情を浮かべています。


「おーひしゃま。僕は、兄上がだいしゅきです。とってもかっこよくて、とってもやさしくて、とってもすてきな人だと思いましゅ。兄上こそ次期国王になるべきでしゅ。そのために、僕を手足として使ってほしいでしゅ」


 見よう見まねで臣下の礼をとる。王妃が国王陛下に伝える。


「仕方ありません。確かに争いの種とするよりも、アレックスの下にいた方がいいかもしれませんね」


「王妃も認めたため、クリスは王族として認めず、王位継承権を放棄させる。なお、幼少のため王宮での生活は許可する」










「兄上。お披露目式ははじめてでしゅ。兄上と一緒がいいでしゅ」


「仕方ない。一緒にいてあげるよクリス」


 懐いてくる弟に、兄は嬉しそうだ。複雑そうな表情を浮かべてこちらをみている王妃はいるが、兄が嬉しそうなため何も言えない。







「兄上、手を繋いでくれましゅか?」



 兄上と手を繋いで登場した俺の姿に、会場はざわついた。国王の挨拶で静まり返り、また俺が王族ではなく将来臣籍降下する予定が発表され、ざわついた。



「兄上、だいしゅきでしゅ」


 俺と兄上の可愛い絡みに微笑ましい視線が集まった。










「兄上。僕を置いていかないでください!」


「すまん、クリス」


 捨てられない程度の有用性を見せつつ、兄を上回らないように気をつけて、兄について回った。


「ふふ、クリス様ったらまた殿下を追いかけておいでよ?」


「兄に甘えている弟の様子……尊いわ!」


 尊い……? 徐々に方向はわからなくなったが、概ね好評に受け入れられているようだ。













「兄上!」


 そう言いながら、兄上に水魔法で作った水球をぶつける。


「おい、クリス! 何をするんだ!」


 びしょ濡れになって追いかけてくる兄から逃げると後ろから捕まえられる。


「クーリースー?」


「ごめんなさい、ごめんなさい。今までで一番大きくできた水球を兄上に見て欲しくて!」


「お前もびしょ濡れにしてやる!」


 兄上に水魔法で水をかけられ、周囲をビチャビチャにして、二人して国王陛下に怒られた。なぜか、周囲のメイドたちが鼻血を出して、それについても怒られた。解せん。








「あ、兄上。兄上のデザート一口ください」


「これか、ほら」


 夜会で兄上の苦手な甘いデザートを見つけたので、声をかけてあーんしてもらって食べた。



「きゃああああ!」

「見ましたわ! 見てしまいましたわぁ!」

「尊っ!」









「兄上……ごめんなさい。婚約者の方とのお茶会中だったんですね」


「ルシア嬢だ。挨拶しろ、クリス」


「はじめまして、ルシア嬢。……兄上は、譲らないですからね?」


「な、何言ってるんだ、クリス!?」


「は、はい。尊い、尊いですわ。わたくし、お二人の間に挟まるつもりはございませんから、安心してお過ごしくださいませー!」


 叫びながらハンカチで顔を覆う公爵令嬢。兄上があわあわと面倒を見ている中、言いたいことを言った俺は満足して退出した。







「アレックス殿下とクリス殿下を引き離すなんて、ありえませんわ!」

「臣籍降下なさっても、二人はお近くで働くべきですわ!」



 ご令嬢たちの声が抑えられなくなり、王妃の俺への暗殺計画は消滅し、兄にも可愛がられるようになった。うまく生き残ることができて、俺は満足だ! ん? 兄上が……。





「あ、兄上。髪が乱れてますよ! 兄上にはいつもかっこよくいてほしいんですから!」


 そう言って、兄の髪を直しながら夜会会場に入ると、ご婦人方から叫び声が上がった。


「きゃああ」

「尊い、尊いわ!」

「絵師を呼んで!」

「どちらが受けなのかしら?」


「クリス。そういうお前も襟に汚れがついているぞ」


「あ、本当だ。ありがとうございます、兄上」



「きゃあああ!」





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