あなたの眠る傍らに ~覚悟の幽体離脱
"命と引き換えでも、もう一度あなたに会いたい。
静かな夜の果てに魂は旅立つ。――これは一つの愛のかたち。"
混沌と熱気の熱帯夜
そよとも吹かない闇夜
この肉体を離れてでも
あなたに会いに行きたい
たとえ一回だけの賭けだとしても
元の肉体に戻ることが、出来なくても
彼女の傍に行けるのなら、かまいはしない
暗闇の中で瞳を閉じ
彼女の笑顔を思い出す
風になびいた髪と
笑った時に覗く白い八重歯
私の体は力を失い
振り子のように
前へ後へ
右に左に、揺れ動く
重力さえ存在を無くした世界で
浮きあがる情念
ベッドに横たわる抜け殻
そして、私は、
覚悟を持って見つめた
肉体は今や意味をなさない
肉体から魂が離れた時に
それはただの肉の塊となる
動くこともなく
ただそこに存在する
その抜け殻にどれだけの価値があろうか
人々が怖れる死は
まやかしであり
たとえ肉体は朽ち果てても
私はここに居る
あらゆる音と思考の洪水の中に
彷徨う私がいる
あらゆる音、すべての思考を
私は理解した
自由に天空を駆け巡り
距離も時間も超越する
私は私の行きたいところに
願うままに行く
彼女が眠る傍らに
形ない私が降り立った
甘い香りに包まれたそばに
今、私がいる
穏やかに繰り返す
寝息を聞きながら、
私は幸せだった。
戻るべき肉体が無くても。
そして静かに、天空高く昇って行った。
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