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 ピエロから話を聞いてからもしばらく行く先々で聞き込みを続けたが、収穫らしい収穫はなく、遂に日が暮れた。

 歩き通しだと体力も気力も集中力も落ちてくる。

「喉乾いたね」

「事務所に寄って水道水でも飲んでいきますか?

 ここから歩いて三十分はかかりますけど」

 とにかく綺羅は金がないらしい。

 綺羅がどんな事務所に勤めているのか興味はあったが―。

「今度は私が奢ってあげる」






 というわけで行きつけのバーに連れてきてはみたが、

「こんな高級なお店来たことありませんよ!!」

 目を輝かせながら、綺羅は初めて遊園地に来た子供のようにはしゃぎ回っている。ちなみに、この店はそれ程高い店ではない。

「静かにしてね」

 子供連れの母親になった気分だ。綺羅とは五歳も離れていないだろうに。

 綺羅は黙ったが、恐縮しすぎてメニューを渡すバーテンダーにまでばか丁寧に頭を下げている。店員や他の客たちは笑いを噛み殺していた。

「すごいなー。ここ、ご飯も食べれるんですね!」

 メニューを開いて綺羅がはしゃいでいると、

「どうぞ」

 若いバーテンダーが皿に載ったチョコレートを差し出してくる。

「店長からのサービスです」

 見ると、店長らしきダンディな男性がこちらを見て微笑んでいた。先程綺羅に高級と言われて気をよくしたのかもしれない。

 好意は好意なのでありがたくいただく。

「チョコレートなんて、以前先輩に奢ってもらった板チョコ以来ですよ」

 なんだか悲しいことを言いながら、綺羅は満面の笑みでチョコレートを口にする。

 目を閉じてじっくり味わうようにもぐもぐ口を動かしている。うどんのときも思ったが、本当に美味しそうに食べる。

 綺羅が大人しくしているのも珍しいので、せっかくだから、浮世は彼自身のことを聞いてみたくなった。

「そういえば、なんで綺羅くんは探偵になったの?」

 格好良いから、とかいう答えを予想していたが、

「勿論、所長に恩返しをするためです!」

 意外な返事が返ってきた。

「家族も仕事も学もなく、右も左も何もかもわからない僕を、所長は拾ってくれたんです!!」

 綺羅は口の中に残っていたチョコレートをじっくり味わってから飲み込んで、

「認めてもらいたいのも本心です!でも、僕は何よりも、所長や先輩方に万一の危険も及ばないように、犯罪者を捕まえたいんです!!」

 綺羅は熱く語ってから、しゅんっとなり、

「···これって、完全に私利私欲ですよね。探偵としては、失格です」

 それを私利私欲だと本気で言い張るあたり、彼は筋金入りのお人好しらしい。

 それでも、浮世はこの妙な探偵青年をほんの少し見直した。






 綺羅は浮世をホテルの部屋の前まで送ってくれた。

「ごちそうさまでした!!

 今夜は気をつけて寝てくださいね!」

 気をつけて寝るとはどういうことかはわからないが、浮世は一応頷く。

 綺羅は綺羅なりに浮世のことを心配してくれているのだ。

 そう思うと、このまま別れるのが少し寂しくなった。

 浮世は綺羅を上目使いに見つめる。

「···寄ってく?」

 二人はしばし見つめ合い、綺羅は笑顔になると、

「いえ!事件について情報を整理しなきゃいけないので、すぐ帰ります!!

 それじゃ、おやすみなさーい!」

 軽やかに去っていった。

「············」

 浮世はものすごく複雑な気持ちになった。


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