共同戦線
綺羅に連れてこられたのはうどん屋だった。しかも、安いことで有名なチェーン店。
「便宜って·····」
「だって僕の給料じゃ、ここ以上で奢れるお店なんてありませんもの
私立探偵事務所の、見習いですから」
それでよくもあれだけ堂々と探偵だと名乗れたものである。
彼は出汁のかかった温玉載せうどんを旨そうにすすりながら、
「探偵って、ドラマやアニメみたいに、事件現場に乗り込んでズバッと事件を解決することはなくて、あくまでも調査員なんですよ」
当たり前である。
「でも、僕は人間相手の尾行に向いてないらしくて、浮気調査とかの任務からはよく外されてしまうんです」
確かに、中身はともかくこんな美青年、尾行対象から顔を覚えられてしまうだろう。
「だから、主に僕の仕事って犬猫探しや雑用なんです
けど、他の仕事も出来るってことを、所長や先輩に認めてもらいたいんです!
というわけで、僕が事件を解決出来るように、力を貸していただきたい!!」
「·········」
何が、というわけで、なのだろうか。
しかし、この青年、デリカシーはないが、やはり悪人かというと、そうでもなさそうな気がする。探偵としての能力は全く信頼に値しないが。
何より、協力しないと延々と彼に付きまとわれそうな気がする。
浮世はかなり熟考してから、
「話すのは良いけど」
「ありがとうございます!!」
「けど、条件があるの」
「はい!!どうぞ!!」
内容も聞かずに綺羅はまた良い返事をする。これで要求が全財産よこせとかだったらどうする気なのか。
「私も、事件のことを知りたいの」
「はい」
「だから、私も一緒に調査させて」
闇雲に怖がっているよりも、そちらの方が良い気がした。相棒に多大な不安はあるが。
しかし綺羅は初めて、少し弱ったような顔を見せた。
「殺人事件の犯人を探すんです。危険かもしれませんよ?」
「それでも、ただじっとしてるだけなのは落ち着かないの」
綺羅はうーんと唸ってから、人差し指を立てて、
「じゃあ、約束をひとつ
一人で動かないこと。事件と関わるときは必ず僕と一緒に行動してください」
「わかった」
こいつと一緒の方が心配だが、贅沢も言っていられない。
「では、我々は共犯ということで」
「···そこは共同戦線とか仲間とか言って欲しいな」
そう言いつつ、浮世は差し出された綺羅の手を握り返した。
今回は全編シリアスを目指してみたが、作者にそんな器用な真似が出来るはずなかった。