事情聴取
その後は頭がぼんやりしてよく覚えていないが、警察の質問には一応答えられたと思う。と言っても、浮世に答えられることは、廃ビルから誰かが突き落とされた、それだけなのだが。
漏れ聴こえた警察の会話からすると、あの降ってきた人は五十代の女性らしい。免許証を持っていたようで、身元はすぐにわかったとか。
浮世も見覚えはないかと、一応免許証の写真を見せられたが、全く心当たりはない。
それよりも、落ちてきたときの彼女の顔が、忘れられない。
警察の話では、出血の少なさから見て、首は突き落とされる前から胴体と切り離されていたらしい。
ふと、少し離れたところで、警官同士で言い争うような声が聴こえてくる。
「人間の首が、カミソリでこんなに切断出来ますか!?おかしいですよ!」
「やめろ!声がでかい!」
野次馬たちの耳を気にしてか先輩らしい刑事が諫めるが、浮世は背筋がぞわっとした。
窓から姿を現した遺体。あのときは暗くて見えなかったが、その後ろには、彼女を突き落とした犯人がいたはずだ。そのときもまだ、凶器のカミソリを持っていたのだろうか。
こちら側も暗かったので、犯人からも浮世は見えなかっただろうが、もしも目が合っていたら―。
「お家までお送りします」
女性刑事に声をかけられて浮世はびくっと震える。
「は、はい。ありがとう、ございます」
有難い申し出に浮世は頷いたが、家に帰っても、今夜は眠れそうにないと思った。