発見
仕事で疲れた身体を引きずるようにして、池川浮世は夜道を歩いていた。
夜道といっても、一応住宅街で人通りもそれなりにあり、危険な道というわけではない。
その日も浮世はいつも通り、なんの警戒もせずに歩いていた。
しかし、とあるビルの前でその足が止まる。
そのビルを怪訝そうに見つめる。窓に人影が見えたような気がしたのだ。
だが、ここはすでに廃墟となっているはずだった。
本来ならもう取り壊されそうなものだが、持ち主の都合なのか、そのままになっている。あちこち老朽化していて危ないからさっさと壊せとご近所からしょっちゅうクレームが来ているらしいが。
漸く解体の目処が立ったのかと一瞬思ったが、こんな遅い時間に、しかも灯りもつけずに業者が出入りするわけがない。
ならば、不法侵入者でもいるのだろうか。
持ち主の許可なく廃墟に侵入するのは犯罪だと聞いたことがある。警察に通報すべきか浮世が迷っていると、ビルの二階にある外開きの窓が開いた。
誰かがいるはずだが、窓枠と暗さに隠れてよく見えない。
すると、何か大きなものが窓からはみ出してきた。
本能的に危険を感じ、浮世はビルから距離をとる。
と同時に何かがビルから降ってきた。
それがぐしゃっと、地面に叩きつけられる。
一瞬のことで、浮世は何が起きたのかわからなかった。
浮世の他にも通行人はいるのだが、皆、彼女と同じく動けないでいる。
呆然とする浮世の視線の先で、落ちてきたそれから、ごろっと、何か丸いものが転がる。
それと目が合った浮世は、たまらず悲鳴を上げた。