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1話:異能学園と狼

厳しい冬の寒さの中、一軒家の小さなテラスで向き合う親子がいた。

侑己(ゆうき)、次は10m先の人を"読んで"ごらん」

「うーん、決めた。母さんの思考を読むよ」

侑己と呼ばれた幼い少年が数回瞬きをしたと思うと、少年の目が"紅く染まった"。


距離は10m。窓を閉めた先の室内にいる彼の母親の思考は、ノイズが混じりながらもだんだんとクリアに聞こえるようになる。


というところで、

「いつまでも外にいると風邪引いちゃうよ!お昼ごはん食べよう」

窓ガラスをガラリと開けた母親は、少年が集中しているのを見ると微笑ましそうに笑った。


父親との特訓の時間を邪魔されたことで少々不満気味だった少年も、部屋の中から流れてくる温かい空気と、美味しそうな匂いで機嫌を直したようだった。


「今日の昼ごはんは、」「「オムライス!」」

少年と父親が口を揃えて言い当てると、父親はよくできました、と言わんばかりに少年の頭を撫でた。


「入学式の準備もあることだし、来週月曜には学校に戻るよ」

食卓に着いた父親が言うと、侑己は不満げに口を尖らせた。

「僕も来月からは小学生だっていうのに、父さんの学校には通えないんでしょ。父さん母さん以外の「特別な人」見てみたいのに」

「まあまあ、一度入ったら卒業まで出られない学校なんだ。急ぐことはないさ」

何度もせがまれているのだろう、父親はこの話はおしまいとばかりに食器を片付けに咳を立ってしまった。


「それに、父さんが家に帰れない間、お母さんと侑梨を守ってやれるのはお前しかいないんだぞ」

「そうだけど....」

侑己の3歳の妹・侑梨は流行り病を貰ってきたのか、自室で寝込んでいるところだったので、可哀想に思って自分の気持ちを飲みこんだ。


「侑己がいつか、もっと能力を制御できるようになったら入学してもいいよ」

「いつかもっと遠くの人の心も読めるようになる?」

「できるさ。なんたって父さんは学園一の"能力制御"に詳しい博士だからね」

「そしたら、世界一強いヒーローにもなれる?」

「なれるさ、きっとな」


父親はそう言って侑己の頭をまた撫でた。


**********


男は薄暗い書斎にて、大きな机を器用に移動しながら書類整理をしているようだった。

やがて、山のように書斎に積みあがっている紙の束の中から、「入学候補者届」と書かれた紙を引き出す。


 学生名:雨宮(あめみや) 小春(こはる)

 生年月日:1999年11月12日

 出身地:不明

 能力制御率: 10%


男は能力制御率の「10」にペンをあてて取り消し線を引いた後、新たに「60」と数字を書き足した。


寸分も時間が経たないうちに、ノックとともに小太りな女が入ってきた。男は書類を束の中に戻し、女に先ほどの紙束を手渡す。

「先生、確認がお済みの書類はこちらですね?学生が到着しているんですもの、急いで届けなきゃ」

「ああ、よろしく頼むよ」


女は男の顔を見る間もなく、開きかけた扉に身体をねじ込ませて部屋を出て行ってしまった。

部屋に静寂が訪れるとともに、男はうつむいたかと思うと笑みを浮かべていた。


**********

5月17日(日)--------



「あーこれは酷い有様ねぇ」

少女が、レンガの壁で囲まれていたはずの袋小路を睨む。


現場には焦げた臭いが漂い、崩れたブロックが散乱していた。少女はがれきを避けながら歩きつつ、欠片を一つ拾い上げた。


「当事者は電撃系の学生。能力の範囲からしてかなり攻撃力も高め…と」

昨夜ここにいた生徒はかなり派手に暴れたようだ。袋小路全体を包み込むように電撃を放ったのだろう。

俺は目の前の少女の危なっかしい足取りを見ていた。


「通報を聞いて駆けつけたとき、既にこの状態だったんだ。手がかりなんて今更見つからないって」

「そう言わずにさ。あたしたち学園の守護者(ガーディアン)でしょ。助けを求める生徒が存在する限り、動かなきゃいけないんだから」


少女は袋小路の端で歩を緩めた。

「かなり揉み合ったみたい…擦り跡が付いてる。」


何ということもない、生徒同士のいさかいがあったのだろう。能力者の中には力を誇示したい欲求を抑えられない者も多いからだ。


(加えて自由も娯楽も少ない。まるで監獄のような学園)


足元の瓦礫を片付けようと麻袋を取り出したところで、目の前に光が舞った。いや、光沢のある動物の毛が日光に反射している。


「こっちに来てくれ」


これは能力者同士の喧嘩ではない。

何者かが生徒を攫った…?

となると、相手は"あの獣"しかいない。


「とにかく本部に連絡しよう…応援を呼ばなければ。ヤツがまだ近くにいる可能性がある」


ふいに背後から爆発音が響く。瞬時に振り向くと、およそ3mを超えるだろう影を作っていた正体である...獣が立っていた。絶滅したはずの二ホンオオカミそっくりの獣は、そのまま安直に「狼」と呼ばれていた。日光を反射する輝く銀色の毛色は、間違いなく先ほどのものと同じだ。


熱く激しい吐息が空間に満ちていてヤツのものなのか、俺の心拍音なのかも分からない。


「オオカミは夜だけしか現れないはずだろ…?」


感情を持たないはずの獣が一瞬だけニヤリと笑った、ように見えた。

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