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有限は尽きる

 





「何だあれは……」


 例によって、俺はユリスクから作戦の殆どを知らされていない。


 ここは森の中に突如として現れた広場だ。

 故に見通しが良かった。

 そこから見えるのは一つの山の頂。そこから突如として、黒い何かがこちら側へと溢れてきているではないか。


「魔物だ…あの黒いの全てが魔物だ…」


 ユリスクはとんでもない事をしてくれたものだ。

 あの数の魔物に襲われたら、俺でも助かるかわからないぞ。


 ドンッ


 そして、魔物が出したものでは無い破裂音が聞こえた。


「シリウスの魔法か。まさかまともにアレとは当たらないだろう?」


 あの魔力は脅威的だが、魔力である限りは有限でもある。

 無限に思える数の魔物だ。流石に目眩しや牽制のつもりだろう。

 あれに呑み込まれたら、流石のシリウスでも助からないだろうからな。


「ずっと魔力障壁を展開出来るのであれば助かるのだろうが、アレはそんな単純な代物では無いだろう」


 体験したからわかることもある。

 もしそんな簡単に維持できるモノであれば、俺でも使えそうだし、そもそも俺の剣を受け切れるとは思えない。

 つまり、発動と維持に、それ相応の魔力を消費するはずだ。

 どんな方法で使えるのか興味はあるが、それは全てが終わってから一人で検証すればいい話だ。



 暫くすると、巨大な反応が俺の魔力圏の中に入ってきた。


「シリウスだな。流石にあの程度の魔物よりは速かったか」


 シリウスの反応のすぐ後ろ、魔物達の反応も捉える。

 魔物達はシリウスを追っているというよりは、単に本能で駆けているのだろう。

 反応の数は多いが、前方の森を埋め尽くす程ではなかった。


 森から弾けるように飛び出してきたのはシリウス。

 俺は完璧にタイミングを合わせて不知火で斬りかかるが、これまで通り魔力障壁で阻害された。

 やはり未来予知というのは厄介な代物だな。


「くっ。馬鹿か!?お前っ!早く逃げなきゃ魔物に囲まれてしまうんだぞ!?」

「俺から逃げていたくせに、魔物からも逃げていたのか?」

「な、何だと!?僕は逃げていたわけじゃないっ!」


 ユリスクの言っていた通り、シリウスの煽り耐性は幼児並みに低いみたいだ。


「ほらっ!魔物が来るぞ?」


 キィンッ


「ば、馬鹿野郎がっ!」


 障壁の後ろ側には既に魔物が貼り付いている。

 俺が短刀で斬りつけると、これまで以上の速さで魔力障壁を再構築した。


「ふっ!」


 ザシュッザシュッ


 障壁を迂回した魔物が俺に迫るが、どれも一刀の下にその命を散らす。

 流石に埋め尽くすような数だと対処しようがないが、この程度であれば片手間で相手をする事が出来る。


 しかし、シリウスはどうかな?


「くそっくそっくそっ!」


 キィンッキィンッキィンッ


 魔力障壁を張るたびに、俺に破壊される。

 もし、シリウスが真面目に鍛錬していれば、この状況でも前回と同じ対応が出来ていただろう。


 しかし、シリウスには圧倒的に場数が足りなかったようだな。


 表情に以前のような余裕も強気も感じられない。

 見て取れたのは焦りと恐怖だ。


「ほらっ。あのでかい口に食べられるぞ?」

「ひぃっ!?」


 シリウスの後ろには大口を開けて魔力障壁に喰らいつく、カバのような魔物がいた。


 これまで安全なところから、弱い奴とばかり戦ってきた弊害がここに来て出てきた。

 別にそれ自体を否定はしないが、心の鍛錬を疎かにした事は盛大に否定してやろう。


 これまでの魔力障壁はちゃんと必要程度の魔力が込められていたが、今張っているそれはお世辞にも綺麗とは言えなかった。


「く、くそがっ!」


 シリウスの魔力が揺れる。


 来る。


 同じ轍は踏まん。


「がぁぁあっ!!」


 これまでのシリウス戦では、分が悪い魔力方面は一切使用してこなかった。

 意味もなく消耗する事を嫌ったからだ。

 だが、そのせいで先程は遥か彼方へと飛ばされてしまった。


 だから今回はしっかりと魔力圏を広げ、シリウスの魔力を直に感じ取っていたんだ。


 雄叫びと共に、恐らく全魔力レベルが込められた魔力障壁が広がってくる。


 未来予知ではないが、来るとわかっていればどうとでもなる。

 特に俺だけに注視すればいいものを、後ろの魔物を気にして張られたそれは、俺の事を馬鹿にしすぎだ。


 そして近未来予知で、この後起こる事を知ってしまい、絶望の表情となるシリウスと目が合う。


「や、やめ…」


 キィンッ


 発動タイミングさえわかってしまえば、距離を取って待ち構えればいいだけ。

 タイミングを合わせて振った短刀は、見事莫大な魔力が込められた魔力障壁を霧散させることに成功した。


「馬鹿野郎ぉぉぉっ!?」


(『鑑定』)


 ※シリウス・タイガー(旧ベリー) 15歳 男 人族

 体力…1856

 魔力…710/6224

 腕力…116

 脚力…178

 物理耐性…3241

 魔力耐性…7167

 思考力…112


 アポローの使徒(近未来予知)


 詰んだな。

 鑑定結果を見て、この戦いの終わりが近いことを知った。


「ほらっ。どうした?」


 シリウスの奥の手である巨大魔力障壁はもう使えない。

 仮に何らかの方法で使えたとしても、俺は一度受けた攻撃を再び受ける趣味は持ち合わせていないからな。


「……」


 俺は巨大障壁の破壊のために、シリウスから一旦距離を取っている。

 今なら普通の攻撃魔法も撃てると思うが、障壁内からは予想通り魔力に干渉する魔法を撃てないのだろう。


 未だにシリウスの背後には何体かの魔物が貼り付いている。

 冷静に対処すればどうにでもなるだろうに、一度植えついてしまった恐怖が、その可能性に蓋をしたようだ。


 シリウスは無言で下を向いている。


 俺はそんなシリウスをひたすら煽りながら、障壁に向かい歩み続ける。

 煽る事も攻撃だからな。


「ほらっ早く張らないと死ぬぞ?」


 キィンッ


「後ろの魔物はどうしてもお前を喰らいたいようだぞ?」


 キィンッ


 煽りと破壊を繰り返す事30回ほど。

 シリウスはその身を震わせだした。


「どうした?震えていても食べられるのは間違い無いぞ?」

「た、たの、頼みます…」

「何をだ?」


 ザシュッ

 近くに来た魔物を斬り伏せながら、シリウスの言葉に言葉を返した。


「た、助けてください…お願い、します」


 遂には涙を流しながら懇願してきた。

 勿論答えはすでに決まっている。


 キィンッ


「ま、待って!待ってください!何でもします!あっ!そうだ!負けを認めて、権能を返却します!それで良いでしょ!?」

「………」


『(鑑定)』


 魔力…86/6224


 魔力障壁と近未来予知の併用は燃費が悪いらしい。

 後数回で、ガス欠を起こすだろう。


 無言の俺を祈るように見つめるシリウス。


 俺はそれに何も返す事はなく、魔力を高め、爆炎の魔法を辺りに散りばめた。


 ドドドドドッドーンッ


 元々この辺りに森はない。シリウスが破壊し尽くしてしまっていたからな。

 木々や葉の代わりに、砂煙が舞い上がった。


「えっ…助かった?」


 辺りをキョロキョロと見回すシリウス。

 シリウスを狙っていた魔物は消し飛び、この近くには俺とシリウスの二人しか居なくなった。


「あ、ありがとうございますっ!何でもするので殺さないでくだっ」


 キィンッ

 ガギィィンッ


 短刀を振るい、魔力障壁を壊してから斬り掛かったが、またも張り直された。


「なんだ?まだ抵抗するのか…」

「ど、どうして!?魔物を排除してくれたじゃないかっ!?」

「ん?ああ。それはこちらの事情だ。お前を殺すことをやめるつもりは一切ない」


 事情とは、ユリスクの事だ。

 ユリスクが観察しやすいようにと、辺りを綺麗に掃除したに過ぎない。


 見えなかった、なんて後で言われたら面倒くさいからな。


「そ、そんな!待って!降参するからっ!お願いっ!」

「……。お前は罪のない人達を殺し過ぎた。仕える神の為ならば、転生の恩義に報いてと言い訳は出来るが、お前の行為は酷く自己中心的だった」

「そ、そんな…だって…僕は前世で虐められて…癌で若くして死んで…ね?可哀想でしょ?」


 コイツは今更何を言っているんだ?


「たとえ…お前が前世では俺の命の恩人だったとしても、ここで殺す。虐めにあっていたのなら、今世では同じ目に遭っている人達を救うべきだったな」

「ぼ、僕は救ってきたっ!」

「それは自作自演だろう?全て調べはついている」


 キィンッ


 話しながらも、俺は手を緩めない。

 シリウス程の魔力があれば、魔力回復も相応に早いからだ。


 そして……


「どうやら障壁を張る魔力すらも、無くなってしまったようだな」


 魔力…11/6224

シャルは魔力障壁について、少し勘違いをしていますが、それは作中にもあるように検証をしていないからです。

シャルもそれはわかった上での発言ですので、お気になさらないようお願いします。


残す所あと一話で終わります。

作者にとっては風呂敷が畳めるかどうかの……

広げたままの風呂敷があれば、ご容赦ください……

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