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入試前の日常

 






「うん?…まさか坊主一人か?」


 皇都へと入る為に、前世のディズニーのアトラクション並みに並んでいる列へと僕も並んだ。

 1時間ほどすると、ようやく僕の順番になり、空いている衛兵の前へと進んだ。


「うん。一人旅なんだ。はい、身分証」

「まだ成人前だろ?なんつー親だよ…いや、孤児か?」


 自分で言うのも何だけど、僕の顔は母親譲りの可愛い顔をしている。未だに女の子と間違われるくらいには。

 年齢や体格に比べて幼く見える僕を、衛兵さんは心配してくれているのだろう。

 この世界の人達は、本当に優しい。


 優しさは協力ということ。そうでないと魔物という脅威に立ち向かえないのだろうけど……やはり理想の世界を作る為には、共通の敵が必要なのかも知れない。


「っ!!レ、レーガン公爵家の…し、失礼致しましたっ!!」


 本当にやめてほしい……

 大きな声を出すから、周りの人が何事かと視線を僕に集める。

 まぁ…貴族の一人旅をしている僕が非常識で悪いのだけれども……


「いいんだよ。僕の我儘で一人旅をしているだけだからね。それよりも、入っていいかな?」

「も、もちろんですっ!おいっ!このお方をお通ししろっ!」


「はっ!」


 衛兵さん達が敬礼したものだから余計目立った為、僕は足早にその場を後にし、皇都内へと向かった。





 前回は観光する間も無く帰ってしまったけど、正直前世の記憶がある僕に、この街は物足りなく映る。

 無限に続くかの様な地下街などなく、天に届くかの様な高層ビル群もない。

 一番高い建物は帝城にある尖塔、それも五、六階程度のビルの高さほどしかない。


 探し物はあるけれど、見たいものはないから、僕は真っ直ぐ公爵家別邸を目指した。


 程なくして城のそばにある別邸へと辿り着いた。

 皇都の広さは小さな島くらいあり、外周を歩けば一周するのに2時間以上は掛かるだろう。

 ここ中心地まで街の門から徒歩30分程度かかる距離感だ。


「シャルル様、お待ちしておりました」


 出迎えてくれた使用人達が僕に頭を下げる。

 父上が偉いのであって、次男でしかない僕は偉くともないのに。

 この違和感は多少収まったものの、未だにしこりとして残っている。


「ありがとう。荷物はこれだけだから、自分で運ぶよ。部屋に水桶を用意してくれるかな?」

「はい。直ちにお持ちいたします」

「あ。後、兄上や姉上は?」


「ヒュージ様は夜にならないとお戻りになりません。ジュリア様は自室におられるご様子なので、お声がけ致しましょうか?」

「ううん。面倒だからいいや。これ。兄上と姉上宛の手紙。渡しといて貰えるかな?」


 使用人は手紙を受け取り頭を下げると、下がっていった。





「ふぅ。やっぱり汚れていると気持ちは良くないね」


 水桶を使い、旅の汚れを落とした後、公爵家別邸を後にした。

 別に学園に願書を出しに行くわけではない。

 探し物をさっさと見つけようと、街をぶらつくだけだ。


 別邸を出た僕は、皇都の低所得者向けの市場にやってきていた。

 城に近いところ…中心が貴族街、その外が富裕者層が住む街、さらにその外が平民向けの街が広がっている。

 そしてここは平民向けの街からも離れている掃き溜めの様な街。

 周囲は下水や汚水の臭いが漂い、建っている建物こそ普通だが全てどこかしら壊れていた。


「嬢ちゃん。悪い事はいわん。ここから立ち去った方がええ」

「何故でしょうか?」


 襤褸を纏った老婆が、文字通り老婆心を働かせたのだろうか。


「ここにおる者は皆、後が無い。嬢ちゃんが貴族であれ、立ち所に連れ去る様な者もおるでな」


 やはり老婆心からか。


「それならお気遣いなく。私はこう見えて強いので、自分の身は守れます。これは情報料です。一つお聞かせください」


 僕を見て少女と勘違いしている老婆は、渡された金貨を震える手で受け取った。


「私が知りたいのは薬物を売っている場所です。どこで買えますか?」

「き、金貨……そ、そうじゃの。それならトーイを訪ねるといい。そこの崩れた建物を左に曲がって突き当たりを右に曲がった所に青い屋根が見える。その建物がトーイが住んでおる家じゃ」

「ありがとうございます。お身体に気をつけてくださいね」


 僕はそういうとその場を後にした。




「これだね」


 目的の場所はすぐに分かった。問題はトーイなる人物がいるかどうかだけど。


「こんにちは。トーイさんはおられますか?」


 僕が家に向けて声を上げると、中から足音が聞こえた。

 ガララッ

 重たい音を立てて、引き戸が開かれた。


「ん?俺がトーイだが…お前は?」


 相手が見るからに子供だからだろうか。トーイは油断している様に見える。


「薬を売っていただきたいのです。それも人を簡単に殺せるモノを」


 態々名乗るわけないだろう。一応犯罪なんだから。


「…金は…持ってそうだな。分かった。入れ」


 トーイはそういうと僕を中へと案内した。




「これが俺が持っている中で、一番殺傷力の高い毒だ」


 掃除が行き届いているとはお世辞にも言えない部屋。その部屋にある割れたテーブルの上に、目当ての物が置かれた。


「これは暗殺者が好んで使う毒なんだが…ナイフに塗って擦り傷でも付けると、2時間で死に至る。ただ、飲ませるのはやめろ。死体にこの薬独特の症状が現れるからな」

「それは凄いですね。ちなみにその特徴とは?」

「赤い斑点が身体中に浮かび上がるんだ」


 流石にまずいか?

 まぁ悩んでも仕方ないかっ。

 僕は金を払ってあるだけの毒を買い込んだ。

 ふぅ。やっとスカートを脱げる……ヒラヒラしてソワソワするんだよね。

 前世では全く気にならなかったのに。


 別邸に戻る前に、路地裏で服を着替えた。

 見つかったらこれも変人…いや、変態かな?








「もうっ!着いたのならちゃんと教えてよっ!」


 まるで恋人に言うセリフを喋っているのは、16歳になり去年学園を卒業したジュリア姉上だ。

 皇都に着いた翌日の朝食の席での出来事だ。


「姉上…相変わらずな様で安心しました」

「シャルル君も変わらずキュートで嬉しいよ」

「………」


 僕も大概だけど、姉上は真性の変人だね…僕が保証するよ。


 昨日は目当ての物は見つけられなかったので、今日こそはと街へ出掛けることにしている。


「あれ?シャルル君はお勉強しないの?」

「しませんよ。もう試験勉強でやり残したことはありませんし」

「流石私の弟だねっ!じゃあっ!今日はデートだねっ!!」

「それもありません。予定があるので」


 ええぇーーっ!!

 朝から騒がしい姉上を放置して、僕は街へと繰り出した。

 使用人達の視線が冷たかったのは気のせいだろう。頑張って姉上の子守りをして下さい。




「多分この店だと思うのだけど…」


 目当ての物が置いてありそうな店が見つかった。ただ…入りづらい。

 店の前は入り口に人の頭蓋骨が並べられており、それ以外にも蝙蝠の干物がいくつもぶら下げられていたりと、その見た目は常軌を逸している。


「こ、こんにちは?」


 恐る恐る扉を開けると、僕は店の中に向けて声をかけた。


「いらっしゃい…」

「ひぃっ!?」


「な、何で…天井にぶら下がっているのですか?」


 声を返してきた店の人と思わしき老婆は、何と天井にぶら下がっていた。


「…掃除をしておったら降りられなくなったのじゃ」

「………」


 僕はその言葉には何も返さず、老婆を天井から降ろした。


「ごほんっ。それで?御貴族様が何の用じゃ?」

「貴族とわかってもその口調なのですね…いえ、僕は気にしないのですが、少し驚きました」

「なに。この歳にもなるとのぉ、怖いものなど何も無くなるのじゃ」


 なるほど。覚悟の違いか。

 厳格な身分制度が守られているので、この老婆は僕に殺されても仕方ない状況だ。もちろん僕にお年寄りを虐げる趣味はこれっぽっちもないので、何もお咎めなしだ。


「それで?何の用じゃ?」

「呪物を見せてもらえないでしょうか?それもとびきり強烈な、付けている者を蝕むモノを」

「……まっ。商売じゃでな。金持ちの言う事は聞こうかの」


 そういうと老婆は奥へと引っ込んでいった。

 暇なので店内を見回すが……目を背けたくなるものばかりで溢れていた。

 何で人の目玉があるの…?


「待たせたのぅ。この四点が付けた者を呪うアイテムじゃ」

「見せてもらっても?」

「構わん。じゃが、呪われても知らんぞ」


 トレーの上に載せられた、見る限りは普通の宝飾品を僕は()()ことにした。


(『鑑定』)


 ※死神の涙 指輪

 この指輪を嵌めた者の体力・魔力を減らす。


 ※迷い人の足枷 アンクレット

 使用者の思考力を半減させる。


 ※罪人の耳飾り ピアス

 左耳に付けると魔力が封じられる。


 うーん。思っていたものじゃないな……

 最後は……


 ※鉱山奴隷の味方 首輪

 魔力・体力が100減るが、筋力が30%増幅する。

 一月以上付け続けると、それは固定される。


 これは…!?

 探していたものではないけど、有用なんじゃ?


「お婆さん。この首輪を下さい!」

「これか…金貨十枚はするが、いいかの?」

「はい。では、これで」


 僕は金貨袋からお金を取り出すと、トレーの上へと置き、代わりに首輪を手に入れた。

 首輪に装飾は何もなく、ただ吸い込まれる様な黒い色をしているだけだ。


「あとっ!」

「…なんじゃ?返金はお断りじゃぞ?」

「そうではなく。もし、体調を崩すような呪物があれば、取り置きしておいてほしいのです」


 僕が探していたのは、いくら強くなろうとも一定のダメージを対象に与える呪物だ。


「それなら…わしの私物でよければ譲ろうかえ?」

「えっ!?あるのですか?!」

「まぁ、待っとれ。持ってくるでな」


 まさかそれがあるなんて……

 書物でその存在を知ってからは、喉から手が出るほど欲しくなったんだけど、かなり希少らしく半ば諦めムードで探していたんだ。

 僕は興奮冷めやらぬ様子で、その時を待った。

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