プロローグ 神に選ばれし者
三人称視点ですが、3話目から主人公の一人称視点に変わります。
タイトルが不安定です……何かわかりやすいものがあれば良いのですが……
この世界オフィーリアを管理していた神であるが、居なくなったのは神であり、その分体とも言える下級神は未だ神界に遺っていた。
『我らの父である神はこの世界から消えた』
『次の神を決めねばならぬ』
『私は嫌。面倒だから』
『誰も貴様など選ばぬわっ!我以上にこの世界の神に相応しいモノはおらぬっ!そうだなっ!?』
『テメェも選ばれねーよ』
『ここでごちゃごちゃ言っていても埒が明かないわ』
『それに放っておくと、奴ら人はすぐにでも死んでしまうぞ?』
『先ずはこの世界を、放っておいても問題ないレベルまで進化させるべきではないかのぅ?』
『僕もそう思うよ!この世界を統べる統一神は、それから決めない?もちろん抜け駆けしたりしたら、みんなで追い出すからねっ!』
『異論ない』
『好きにすれば良い』
『……』
『うん。じゃあそれで決まりだね!統一神を決めるルールは、またみんなで決めよう。それまではこの世界が壊れないように、みんなで協力しようねっ!』
人知れず、神達が世界のルールを決めた。
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(ここから本編になります)
剣と魔法が戦いの手段である世界、オフィーリア。
この世界でも人々は思い思いのルールを作り、発展していた。
国、部族、宗教、身分。それぞれにそれぞれのルールはあるが、ただ一つだけ、人ではない何かが作った共通のルールが存在していた。
そのルールを知るモノは、この世界でたったの十二人。
それは時に神託として、時に誕生の前の時間に、時に刷り込みにより報されているという。
「ここは…」
真っ白で何もない場所。そこに一つの魂が呼び出されていた。
『ここは神界。と言っても、君がいた世界のモノじゃないよ』
「えっ…誰ですか?声が…」
『残念。ルール上姿は見せられないんだ。僕は神。と言っても、十二柱もいる神の一つだけどね』
「か、神様!?」
『うん。驚いているんだよね?君は肉体がないから、その表情が見えないのは残念だよ』
「えっ!?う、うそ…」
『君は前世で死んじゃったんだ。残念だけど、それはもうどうすることも出来ない。特に別の世界の出来事だしね』
「……車に轢かれたのですね?」
『うん。思い出せたんだね。犯人は君のストーカー。犯人もその後に自殺をして、地獄に落ちていったよ』
「そうですか……パパ…ママ…ごめんなさい…」
『ごめんね。本当は話をしっかりと聞いて、君が納得してから送り出したいのだけれど…時間がないんだ。質問は後で聞くから、今は僕の話を聞いて、しっかりと理解してね』
「は、はい」
『前世で死んだ君は、来世でオフィーリアという世界に転生するんだ。その世界は地球とは違い、魔法という力が存在しているよ。それで、君にはオフィーリアで最強を目指して欲しいんだ』
「最強…」
『うん。理由はすごく簡単だよ。君には僕の使徒として、他の神の使徒を倒して欲しいんだ。手段は毒を盛るでもいいし、不意打ちでもいい、なんなら美人局みたいな手法もあるね。結果は『死』か、明白な『降参』だよ。
ちなみに降参すると、全ての力を失って、他の人達よりも弱くなるからお勧めはしないよ。
全ての力とは、僕が与えるモノのこと。普通の人にも一定の祝福はあるから、全てをなくすとそれ以下になってしまうんだよ』
「………」
『うん。ここまでは理解できたみたいだね。
次いで他の使徒の事なのだけれど…言いづらいけど、他はもうすでに行動を開始しているんだよね。
これはこの『神の代理戦争』を提案した、僕の有利を無くすための処置なんだ。
出遅れた期間は半年。すでに成人している人を使徒に選んだ神もいるから、これについて僕は、あまり有利不利は無いかなとは思っているんだ。
それに…君、こういうの好きでしょ?』
「…はぃ。恥ずかしながら…前世ではアニメや漫画が好きでした……」
『ははっ。別に恥ずかしい事じゃないよ。そんな君だからこそ、僕は選んだのだし。
それでね、その他の使徒を見分ける方法はないんだ』
「えっ!?じゃあ…どうやって…?」
『それは君次第かな?それに、何となく想像はついているでしょ?』
「……過ぎた力を持つ人は、それを誇示せずにはいられない?」
『うん。そんなところかな?君は前世では随分と慎重な性格だったようだから、その心配はなさそうだけどね。何か質問はあるかな?』
「あ、あのっ!性別は!また女性に生まれるのでしょうか!?」
『ああ、気になるよね?それはすぐにわかる事だからあえて伝えないよ。他にはある?あまり時間が残されていないんだ』
「ほ、他は……あっ!ステータス…何か自分にだけ見える、力を表すものなどはありますか?」
『それなんだけど。最後に権能とも呼ばれる神の異能を、使徒に一つ渡すことが出来るんだ。その中にそれに似た能力はあるよ』
「っ!!ではそれで!それを下さいっ!!」
『…いいの?多分他の神の使徒は、戦闘に直結する異能を選んでいると思うよ?異能はその能力だけではなく、君が言うところのステータスに大きく関わってくる。戦闘特化の権能であれば、攻撃的なステータスが伸びるみたいにね。それでも?』
「構いません。使ったことのない魔法の事はまだよくわからないですし、前世では暴力とは真反対の生活を送っていたので、剣に才能があっても活かし切れるかわかりませんので」
『うん。ちゃんと考えているね。わかったよ。ルール内で最高の異能をプレゼントするね。それと使徒同士の争いは、君が成人した後に起こると予想しているよ。
……どうやらタイムリミットみたいだね。
次の人生では殺されないようにね。頑張ってね、サキちゃん』
「あ、ありがとうございますっ!あのっ!お名前は!?」
『僕の名は【ユーピテル】。忘れないで。君の心の中に、僕はいつもいるよ』
ここオフィーリアには三つの大きな大陸が存在している。その中の中央大陸に存在している国の一つ。
その国の中でその者は産声を上げた。
「待望の男児が産まれたのはいいが、何の反応も示さんとは…我が子ながら不気味なものだ」
その家の家長である男、バッハ・フォン・レーガン公爵は銀髪を揺らしながら溜息混じりにそう呟いた。
レーガン家はサザーランド皇国筆頭貴族家であり、サザーランド皇国は中央大陸四番目の大国である。
「お館様。シャルル様はご次男にございます。ご長男でレーガン公爵を継ぐヒュージ様が居られますので、お気を乱されぬよう」
「ガウェイン…その方は知っているのか?祝福を持たぬ存在を」
ガウェインと呼ばれたレーガン家執事長は、小さく首を振り、それを答えとした。
「祝福がないという事はここだけの秘密とせよ。いいな?」
「勿論にございます」
ガウェインはレーガン公爵に恭しく頭を下げると、執務室を後にした。
「はぁ……」
ベッドで横になっている赤髪の女性は、深く長い溜息を落とした。
「奥様…お気をたしかに。お館様も同じ悩みを…」
「…そう。あの子はじきに、ちゃんと産んであげられなかった母を恨むでしょう」
「そのような事にはなりません。先代から屋敷のことを任された、この私がさせません」
レーガン公爵の妻であるエミリア・レ・レーガンは、先日産んだ我が子の事で、公爵と同じ悩みに苦しんでいた。
この国の貴族家では三人以上の男児を産む事が尊ばれている。
エミリアは長男であるヒュージを産んでからは男児に恵まれず、待望の次男だったのだが……
「神に見放されて…あの子はどのように生きていくのでしょう…」
「奥様…」
先代のレーガン公爵は病弱であった。その為、流行病に罹り早世した。
この若い筆頭公爵夫妻を何とか盛り立てねば。
ガウェインは最近になって増えてきた皺を、さらに深く刻んだ。
(えっ?何?私ってば、お姫様にでも転生したのかな?)
天蓋付きの豪華なベットの上で、この世界に誕生したばかりの身体を器用に動かす赤子がいる。
(みんな何を言っているのかわかんないけど、とりあえず言葉を早く覚えて強くならなきゃね)
サキは地球からオフィーリアへと無事に転生を果たしていた。
言葉どころか、未だに自身の性別すら知らないようだ。