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とある置き手紙

作者: Eicy

異世界に転移してしまった人に、

その異世界で助けてくれた人が置いていった手紙。

※ただの手紙です。短めです。

※話の前後や情景は、ご自由に想像してみてください




この手紙を読んでいる頃にはもう私はこの世にいないだろう。



……なんて書き出しを1度はしてみたかったんだよね。

おはよう。よく眠れたかい?

別に最後に顔を合わせるのが恥ずかしかったとか、そういうのじゃないからさ、悪く思わないでくれよ?



現代日本では比較的ありふれていて良く見慣れた書き出しとも言えるやつだよね。

使われるシーンの多くは良くない事や悲しい事に紐付られてしまう気がするけれど、私的には門出のお祝いのつもりだよ。


既に察しは付いているかもしれないが、私も貴方と同じ、元々は地球から来た転移……転生者だ。

気になるかもしれないが、あまり大した話ではないし、経緯を書き出すと長くなってしまうだろうから、できるだけ簡潔に説明しておこうか。



私は昔からの貴方の作品のファンだった。

気が付いたら貴方のファンだった。

それだけではないね、貴方の事が心の底から好きになっていた。

ただ、私には気持ちを伝える事ができなかった。



ある日、貴方が地球から消えた。

私は後悔したよ、少しでも伝えておけば良かったと、もっと沢山の事や想いをあなたと共有し体験したかったと。


だが、それらは貴方の気持ちを無視した私の大変身勝手なただの感情であり妄想でしかない。

反省した私は、次に貴方の痕跡を探し始めた。

気持ちの悪い言い方かもしれないが、知らぬ間に私にとっての世界の中心だった貴方を探して見つけるのはそう難しい事ではなかった。

これだけは、誰よりも上手い自信があるね。



そして異世界に連れ去られた貴方を追い、異世界に渡る手段を見つけた。

……こちらは結構大変だったね、10年は掛かったかもしれない。



ただ、私は少し焦っていたのかもしれない。

異世界で生きる貴方の無事をひたすらに祈り、今度こそ気持ちを伝えるという決意によって意識が塗り固められていたせいか、私の視野は狭くなっていた。


異世界というのは文字通り異なる理によって構築された世界だった。



そちらとこちらで生物を構築する概念が成分からして違うらしく、円からドルへ、水から炎へ、別の世界で生きる生物に"成る"ために存在自体を変換しなければならなかったんだ。

つまり渡るにあたってコストやエネルギー、分かりやすく言えば代償が必要なんだ。

私はそれを見落としていたんだ。



貴方の場合、それは多分ルクレリヤ王国の天災だったんだと思う。

タイミングが悪かったのもあるのだろう。

第一月と第二月が重なる際にあそこで消費された魔力と人の魂が、たまたま人一人を呼び寄せるに足るエネルギーとなってしまったんだと想像している。

天災自体は別に貴方が引き起こした事でもないし、むしろ被害者だからさ、何も気にする事はないよ。

私もいたからね。

知ってるかもしれないが、被害はできるだけ抑えたつもりさ。


ああすまない、私がこの世界に来た話と代償の話の途中だったね。


私の場合、それは時間と制約だった。



おかしいと思わないかい?

なんで後からこの世界に来た私が貴方より先にいたんだと思う?


それは世界の管理人がイジワルだったからさ。


あちらとこちらを繋ぐ狭間の空間の、時間の概念がぐちゃぐちゃな事くらい私は分かっていたさ。

だから貴方が辿り着いたタイミングに少しでも近付けるように何とか時間を跳躍してやろうとした。



ただ、何の代償も無く世界を渡ろうとした私を、世界と、そして世界の管理人は許さなかった。


この時、多分私という存在はどちらの世界からも1度消えたんだ。

時間という形で、この世界に来る前の全ての力を奪われ、存在を奪われ、そして赤子として奪われた時間と同じくらい巻き戻った異世界に辿り着いたんだ。



記憶だけは、何とか残っていた。

そこだけは感謝してやってもいい。


ただ、こちらもまた、生きている限り、私の想いも、過去も、誰にも伝えることができないという呪いのような制約を付けられてしまったんだけどね。



まあそれからは簡単さ、何のチートもスキルも貰えなかったが、異世界転生者らしく、色々と頑張って生き抜いてみた。


今が何時で、どれほどの時間のズレがあって、貴方がいるのかいないのかすら分からないから、


貴方を見つけた時に守り支えられるように力を磨き、強くなった。

遠くまで貴方を探すために偉くなり、騎士団を作った。

私が過去にいるのではとも考え、いつか来るかもしれない貴方が少しでも過ごしやすいように国を整え、他国を救い、この異世界を少しでも平和にしてみた。



そして、貴方が降り立った。



その頃には、呪いはより強く私の存在を蝕み、貴方の名前も、顔も、思い出せなくなってしまっていた。はずだった。



でも、一目見て分かった。


ああ、貴方だ。と



それからは貴方が、いや、君が体験し、見て来た通りさ。

切り落とした私の腕のことや、この国の事も何一つ気にする必要は無い。全て精算してきた。

君は疫病神や呪われた存在何かじゃない。

君はこれから何のしがらみに縛られる必要も無いんだ。



ああ、そういえば一つだけ謝らせて欲しい事がある。

実は君を騙していたんだ、申し訳ない。

魔法の訓練だといって君の手を取って魔力を流したりしたね。

あれは訓練ではなく、魔力、正確に言えば魔素質の譲渡なんだ。

私の全ての魔力は君の物となった。

正直に伝えても君は受け取ってくれないだろうから、勝手に託させてもらったんだ。すまない。

そして私の訓練を受けたんだ、剣も、魔法も、君はもう誰にも負けないだろう。



私の財産も、全て君の物にするといい。

家も、道具も、売るなり使うなり好きにしてもらって構わない。


そして、この手紙の隣に置いてある剣は、私から貴方への最後のプレゼントだ。

受け取って欲しい。



今までありがとう、それからおめでとう。

ここからは、君の物語だ。


























さようなら、

ずっとずっと、大好きでした。

ただの、1人のファンより







これになりたい










構想として、繋がりの無い短編をあと8作ほど考えておりますが、完成し投稿するかは分かりません。

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