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貴方が恋と愛を見つけるまで8

三人を帰らせたが、一応は客人なのだからと玄関まで見送ろうとしたスノーをユイシアが止めた。



「...間に合って良かった。」

「ええ...。」



ユイシアに声をかけられたが、後ろめたい気持ちがあり、その顔を見れなかった。

スノーは、つい言ってしまいそうになったのだ。

「ユイシアを王宮に帰らせる。」と。



ふと、どうしてユイシアが来てくれたのか疑問に思った。

何故なら今は騎士団学校で鍛錬中の筈だ。



「ユイシア、どうして分かったの?」

「......。」



ユイシアは最初は言いにくそうにしていたが、「どうして?」と何度も聞くと、

理由を説明してくれた。



「スノウの魔力が、怯えていた。それが伝わったから...急いで来た。」

「まあ。」



そんな事が出来るのか?

スノウから見て、ユイシアの魔力はもとより、他の者の魔力など分からない。

詠唱を始めて、知るのだ。

この者の属性は何か、と。

火ならば赤く、水ならば青く、風ならば緑、土ならば茶色の光が出るのだ。

思わずスノーは、自分の手を見るが魔力の様子など分からなかった。

きっと、見えているのなら、魔力は「安心している」のだろうと思うが。

ユイシアが助けに来てくれたのだから。



「ふふっ、ユイシアに来てほしかったのね。」



そう言って笑うと、ユイシアは意外そうな顔をした。



「信じるの?」

「ええ!だって、本当に怖かったもの。」



そう言って、ユイシアの両の手を取る。

助けてくれて、嬉しかったのだ。

スノーは思わずはしゃいでしまった。

笑うスノーを、ユイシアは安心した顔で見つめていた。





もうあの三人にはもう来てほしくはない。

そう思っていたが...。





次の日も、その次の日も彼らは屋敷に来た。

ユイシアがいれば丁寧な口調で、いなければ脅しのような言葉をかけられ、

その度にユイシアが駆けつけてくれた。




正直、疲れてしまった。

毎日のように「トア様はここに居てはならない存在なのだ。」と言われ、「ユイシア」を否定される。

わたくしのそばにいてくれるのはユイシアなのに。

それなのに...と。





ある日、いつもと様子が違うカインに戸惑った。

「言いたいことはあるが、我慢をしている。」という感じだ。

今日は、ユイシアがスノーが座る椅子の左後ろにいてくれる。

心強い。



「何度も言いますが、ユイシアが否定をしています。彼はわたくしの従者です。」



そう力強く言う。

スノーも、毎回のように言われるがままではいけないと思ったのだ。

ユイシアを守らなくては、と。



従者として立つユイシアを複雑な目で三人は見ている。

彼らの言葉をいうのならば「王子が何てことを。」という事なのだろう。

しかし、ユイシアはれっきとしたスノーの従者だ。

彼もそれを望んでいる。



今まで言われるがままだったスノーから、強い言葉を言われカインは驚いていたようだった。

ロックは一気に怒りの形相になる。

ただ、リーはいつも静かだった。



「だ、だが。その髪色、アメジストの瞳、そして王妃に似た顔、まさにトア様なのです。」

「ユイシアだと言っています。」



譲れない。

ユイシアを守るためにも、ここは。

そう気合を入れていると、カインがまた口を開いた。



「今日は...提案をしに来ました。」

「提案...?」

「はい。」



カインの言葉に、スノーは怪訝な顔をする。



「トア様...ユイシア殿がトア様ではないというのならば、王都に来て王の前で証明してほしい。」

「王様の前で?」

「王が違うと言えば、我々も引き下がる。」



言い切ったというようなカインの言葉に、スノーは思案する。

それはつまり。



「ユイシアを王都まで連れていこうというのですか?」

「嫌だ。」



すかさず後ろから拒絶の言葉がした。



「ユイシア殿を無事に王都までお連れする。そして王に確認をしてもらう。」

「そうしないと、納得できない。」



カインの言葉に続けて、静かだったリーが、力強くつぶやいた。



「......ユイシア、貴方はどう思う?」

「僕は嫌だ。」



ならば...と、返事をしようとすると。



「スノー嬢、貴方にも来ていただく。仮にもトア様を助けてもらった恩人だ。」



その言葉に、スノーは驚いた。



「恩義があり、この屋敷にいたいというお気持ちもわかる。だから、一度でいい王都に来てほしい。」



そうカインが言うと、椅子から立ち、乞うように膝をついた。

表情は分からないが、ロックとリーもそれに倣う。



「頼む。この奇跡を逃したくはないんだ...!」



カインの心から振り絞るような言葉に、胸が痛くなった。

だが。



「もし、嫌だと言ったら?」



そうスノーが言うと。



「了承を得るまでここに通わせてもらう。」



その言葉に、ため息を付いた。



「スノー。言ってくれれば、こいつらの手足を切り刻んで来ないようにする。」

「や、やめてちょうだい!?」



ユイシアの、冗談とも言えない声音に驚いた。

カイン達も膝をついたまま、びくりと体を震わせる。

ロックに至っては、顔が真っ青だ。

彼はユイシアの魔法を身をもって知っているのだから。



「......父に相談をします。わたくし一人では決められません。」



スノーのその言葉に、カインの顔が輝いた。

父が良いと言えば行くといっているようなものなのだから。



「感謝する...!」



ただ、もう疲れたのだ。

毎日のこのやり取りに。

王都に行って、ユイシアはユイシアだと認めてもらえれば、解放される。

そうすれば、いつもの日常が戻って来る。



それを思い、スノーはため息を付いた。







忙しくしている父に何とか時間を貰い、「ユイシアがトア王太子殿下」という事は言わなかったが、

王都にふたりで呼ばれていると言うと「すぐにでも行け。」と言われた。





本当は止めてほしかった。

父の目に宿った、欲を見たくなかった。

もしかしたら噂で聞いていたのかもしれない。

「シャルズ国の王太子殿下を探している一行がこの町に来ている」と。

ユイシアが似ているのだと聞いたのかもしれない。



「わかりました...。王都に参ります。」






力なく父の部屋から出ると、廊下に控えていたユイシアに寄り添った。



「お父様、喜んでいらっしゃったわ...。」

「...そう。」



荷造りをしなくては。

そう思うのに、スノーはユイシアの左肩に頭を寄せたまま動けなかった。

悲しかった。





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