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貴方が恋と愛を見つけるまで7

スノーは、目の前で繰り広げられている光景と言葉が信じられなかった。

ユイシアの前に跪く三人の男性、

王宮へ「帰る」ように言う言葉。



まるで、ユイシアが、ユイシアでは無い様な気がして。

そっと左腕を掴んでいた手を放そうとした時、ユイシアの手で包まれた。

そのあたたかさに、ほっとする。



「僕はユイシアです。貴方がたが探している人とは違います。」



そう、真剣な目できっぱりと言った。



「突然のお話で戸惑うお気持ちもわかります!」

「しかし、貴方様の容姿は紛れもなく、王家の者の象徴なのです!」

「お願いいたします、トア様!」



尚も跪き頭を下げる三人に向かい。



「助けてくれたことは感謝します。」



そう言うと、ユイシアは私の手を取り屋敷の方へと早歩きで歩いて行った。

驚くほど洗練された風の魔法で、わたくしたちと三人の間に壁を作って。

後ろからの三人の懇願ともいえる、声を無視をして。






「ねぇ、ユイシア...。」

「......。」



良かったのかしら?と不安になる。

本当にユイシアの事を知っている方達なのかもしれない。

それに...。

海岸で倒れていたユイシア。

遭難をして行方不明になったという王子。

思い当たることだらけだ。




「もしかしたら、あの方達が言っていることは...。」

「スノー。」



話しかけるわたくしの声を、ユイシアが遮る。



「僕はユイシアだ。誰でもない、それ以外でもない。スノーの従者だ。」

「......ええ。」

「僕はスノーを守りたい。いつまでも。」

「...ありがとう。」



真っすぐ見つめてくる強い瞳にそれ以外言えない。

そのまま屋敷まで、お互い会話は無く手を繋いで歩いて行った。

夜に咲く光る花の事など、もう頭になかった。

ただ、何か怖い事が起こる気がしてならなかった。






次の朝、スノーは思うように眠れなかったがユイシアはいつも通り髪の毛を結いに来てくれた。

寝不足で少し赤い目をしたスノーだったが、

ユイシアは何も言わなかった。

今日は後ろでまとめて三つ編みをする髪型だった。

耳の上らへんに髪飾りをするか聞かれたが、そのままで良い。

まとまった髪の毛が大人っぽくて、飾りが無くても十分素敵だった。

そうして、スノーが朝食を食べ終わるまで控えていると、

ユイシアは騎士団学校へと駆けていった。

スノーは、今日もその姿を見送った。






勉強が無い日なので、本でも読もうかと思っていると。

使用人のメアリから「お嬢様にお会いしたいという者達がいらしています。」と、

戸惑ったような声をかけられた。



「この町では見た事が無い者達です。お引き取りいただきましょうか?」



そう言って心配そうな顔をするメアリに、「大丈夫よ。」と返事をする。

正直...、来ると思っていたのだ。





昨夜の方達だろうと思っていたら、やはりだった。

応接間に通された彼らは、スノーを見ると複雑そうな顔をした。

そのうちの一人が、席を立ち、頭を下げる。



「昨日は、部下が女性である貴女に失礼をした。」



その方は昨日、剣を持ち魔物を倒してくれた方だ。

スノーを「女」と呼び、手を掴もうとした方はばつが悪そうな表情で座っているままだ。

まるで「俺は悪くない。」とでも言うように。



スノーは彼らの対面の席に座ると、口を開いた。



「わたくしはスノー・フィンデガルドと申します。貴方がたはどなたなのですか?」

「私はカインと言います。こちらは、ロック。そしてリーです。」



カインは柔らかい声で言うが、ロックとリーは憮然とした態度を隠さない。



「どういったご用件でしょうか?」

「分かっているはずだ。」



リーが静かな声で言った。



「貴女がユイシアとなどと呼び、恐れ多くも従者としているのはこのシャルズ国の王太子殿下。

トア・アメジスター・シャルズ様だ。」



続けて、そう言う。

その静かに、怒るような言葉が怖い。

リーの言葉に、「うむ。」とカインが頷く。



「トア様が恩を感じ、ここに居たいというお気持ちもわかる。」



カインがスノーの目を真っすぐ見つつ、諭すように話す。



「だが、こんな所にいていいお方ではないのだ。」



そう言うと、厳しい眼差しになった。



「トア様を思うのなら、王宮にお戻りになられるよう言ってほしい。」



それは、問いかける様であって、実際は命令のような口調だった。



「トア様...。」



ぽつりとスノーが声を出す。

この人達は、ずっとユイシアの事を「トア様」と言っている。



「そうだ。あのお方は、トア・アメジスター・シャルズ様だ。」



リーがもう一度、言い聞かせるようにその名を呼んだ。



「礼なら何でも叶えよう。トア様を保護してくれたことには感謝をしている。」



カインはそう言ったが。

直後。



「しかし、従者にするとは...。無礼すぎる!」



ロックに責めるように叫ばれ、身が竦む。

そうして、いかにスノーが愚かなことをしているのかを叫ばれた。

カインは止めない。

リーも。



父に冷たく言葉をかけられたことはあっても、男性に乱暴に叫ばれたことなどない。

恐怖で身が竦む。

ユイシアはスノーの主従だと思うのに、段々とそう思う心が弱くなる。




ついに。



「ユイシアを...。」



男性三人からのそれぞれの圧力に、スノーは震え、

王宮へと声に出しそうになった。






その時、屋敷の廊下が騒がしくなった。

乱暴に扉が開かれる。

そこには、肩で息をしているユイシアがいた。

騎士団学校に居る筈のユイシアの登場に、びっくりするが、そんなスノーのそばに、

ユイシアが険しい表情で駆け寄った。



「トア様!!」



そう歓喜で叫ぶロックには、ユイシアの恐ろしいほどの怒りが見えていないのだろうか。

全身から怒りを放っている。

カインは、気づいたのか息をのむ気配がした。

リーは、身動きすら取れないようだ。



「...ユイシア。」

「スノーは黙ってて。」



その怒りは、わたくしにまで向けられているようだった。

胸の前で手を組み、スノーは言われるがままに口を閉じる。



「トア様、お迎えに上がりました。」



カインは椅子から立ち上がると跪き、頭を下げる。



「トア様が平民の真似事など!この女の差し金か!!」



ロックは、ユイシアが騎士見習の服を着ているのに気付き、憤慨していた。



「...トア様。」



リーは、様子をうかがうように静かに名を呼ぶ。




すると、ロックが突然殴られたかのように顔が歪み体が浮き、椅子の後ろに吹き飛んだ。

風の魔法。

恐らく風圧で吹き飛ばしたのだろう。

...ユイシアが。



「ロック!!」



立ち上がり、ロックの元へとカインが行く。

そうして、信じられないというような顔でこちらを見た。

スノーが魔法を使ったのかと思っているのだろうか。

ロックもそう思ったのか、「この女っ!!」と鬼気迫る顔でこちらを睨みつけた。



「主を不躾な顔で見るな。魔法を使ったのは僕だ。」



リーだけは分かっていたのか、静かにしている。



「トア様、これだけは分かってください!我々は貴方様の為と思い...!」

「僕はユイシアだ。」



怒りを押し込むようなユイシアの声がする。



「一人の女性を取り囲み、脅す。そんな奴らを信用できない。」



ロック達は気まずそうな顔をする。



「出ていけ。さもなければ昨日スノーに触ろうとした腕を折る。」



部屋に大きな魔力が集まる気配がする。

冷たく強いユイシアの声が部屋に響いた。




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