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貴方が恋と愛を見つけるまで6

騎士団学校に通い始めたユイシアとは、朝と、夕方からしか会えないので、

家庭教師との勉強はスノーひとりですることになった。

ユイシアも頑張っているのだから、とスノーも一生懸命勉強をした。

あんなに怖かったハリー先生もお歳を召したからか少し柔らかい雰囲気になり、

魔法を教えてくれるリリィ先生はいつも優しかった。




今はシャルズ国の事や、近隣の情勢を覚えたり、

風の魔法の応用を覚えるのが楽しかった。




ただ、やっぱりスノーの従者をしながら騎士団学校に行くのは大変だと思う気持ちが消えなかった。

だから何度も、ユイシアには「学業を優先して。」とお願いをした。



「朝も、鍛錬から帰ってきてもわたくしの世話をするのはどうかと思うの。」

「......。」

「もう自分の事を考えていいのよ。」



優しく説くが、ユイシアの表情は変わらない。

それどころか大きく溜息をつく。

ユイシアも、「またこの話題か。」とでも思っているのかもしれない。

思わずスノーもため息をつきたくなった。



「...だったら、今度の演習試合で優勝する。テストも一位を取る。」

「そんな事が出来るの?」

「出来る。」



ユイシアから言われた言葉にスノーは驚いた。

騎士団学校では、年に数回「演習試合」と称して、全生徒でのトーナメント対決がある。

その時は、一般開放されるので、スノーも応援に行った。

だがはやり、高学年生の方が強い。

それに、騎士団学校は剣と共に、魔法、勉学にも特化している。

ユイシアは優秀だとは分かっているが...。



「そうしたら、従者の話はそのままにして。もう言わないで。」

「でも...。」



不安がるスノーに、「僕ならできるから。」と言うと、騎士団学校から帰宅をして疲れていると思うのに、

ユイシアは、お茶の支度をしだした。

紅茶はとても美味しかった。







そうして、結果は驚く事に演習試合はユイシアの圧勝だった。

どんどんと勝ち進んでいくことにもびっくりしたが、

最終対決のお相手は最終学年で、体格のいい男性で、対するユイシアの事を甘く見ているのが分かった。

ニヤニヤと笑う顔が嫌だと思った。

神に祈るように手を組み、試合を見ていたが、「どこからでも打って来いよ。」と笑う対戦相手に、

ユイシアは真正面から戦いを挑み、

素早い剣さばきでお相手の首元寸前に、自分の剣を突き立てた。



しんっとなった後、割れんばかりの歓声が会場に響く。

皆、どちらかというとまだ小柄な少年であるユイシアが勝つとは思っていなかったのだろう。

ユイシアは何事も無かったかのように剣を鞘に仕舞うと、スノーの方を見た。

その顔は無表情だったが、「どうだ。」と言っているようにも思えた。



対戦相手は、「いかさまだ!!」と怒っていたが、ユイシアが一睨みをすると口を閉ざした。

想像よりも強くなったユイシアに、スノーはただただ驚いた。







「はい、これ。」

「何かしら?」

「テストの結果。」



そう言われて、二枚紙を受け取ると、一枚は100点という数字と丸だらけの解答用紙。

もう一枚は順位の一覧表だった。

一番上にユイシアの名前がある。



「あなた、本当に一位を取ったの?」

「そうするって言った。」



それはそうだが、まさか剣技も出来て、尚且つ勉強まで出来るとは思わなかった。



「これで、もう良いよね。」

「え、ええ。」



力強く、有無を言わさないとでも言うような迫力のユイシアに頷く事しかできなかった。

そうして、ユイシアはずっとスノーの従者のままという事になった。






ある夜、スノーとユイシアは夜の町にいた。

町のはずれで、夜だけ咲く光る花があると最近評判になっていたため、スノーがぜひ見たいと我儘を言ったのだ。

こっそりと屋敷を抜け出すのは、とてもワクワクした。



「凄いわ、ユイシア!星が沢山よ。」



部屋の窓から見る星も綺麗だが、夜の町中で体全体に空気を感じて見る星空は、

とても綺麗だった。



「スノー、夜遅いから声小さく。」

「そうね。」



思わず両の手で口元を押さえる。

ユイシアは、花を見に行く事に難色を示したが、どうしても見たいのだとお願いをした。

夜の町はいつもと違う景色で、楽しくも思ったが少し怖くもあった。

14歳にもなって、とも思ったが手を繋いでもらった。

ユイシアの手をきゅっと掴みつつ、目的の場所まで歩く。




夜にだけ咲き、淡く光るという花。

もしかしたら魔力をおびた花なのかもしれない。

どんなに綺麗な事だろう。

ユイシアとぽつりぽつりと小声で話しながら、スノーは歩いた。





異変が起きたのは突然だった。





「グルルルルル...!」



町角から突然大きなものが飛び出してきたのだ。

慌てつつもよく見ると、大きな狼の様だが様子がおかしい。

瞳が禍々しく赤く光り、唸り声をあげている。

そうして、二人を狙い黒い炎を吹いた。



町中に魔物が現れるだなんて...!



夜だからなのだろうか?

それとも運悪く出会ってしまったのだろうか。

今まで勉強はしていても、本物の魔物に会うのは初めてで足が震える。



スノーとユイシアは風魔法を使うが、火と風は相性が悪い。

魔法を使っても倒せないかもしれない。

それにユイシアには、町のはずれとはいってもまさか魔物などでないだろうと、

剣を持って行こうとするのを止めていた。



わたくしったら、何て事!



後悔しても遅い。

ユイシアがスノーを庇うようにして魔物に向かい合う。



「ごめんなさい、ユイシア!こんな事になるなんて!!」

「下がって、スノー。」



ユイシアの何時には無い緊迫した声に戸惑う。

心細くてぎゅっとシャツの背中を握る。



ここで足手まといはわたくしだ。

ユイシア一人だったら、いいえ、それよりもこんな夜に花を見たいと言わなかったら。

自分が情けなくて涙が出そうになる。



すると、ユイシアの声で呪文の詠唱が始まった。

風魔法では、炎を逆に煽ってしまう。

そう言おうと、俯いていた顔をあげて前を向くと。



そこには水の魔法が生まれようとしていた。

水の魔法の応用である、氷の粒が出来てくる。

有り得ない事に、ユイシアのシャツを掴む力が強くなる。



どうして水の魔法を...。



そう疑問に思っていると、ふいにユイシアが詠唱をやめた。

突如、狼の叫び声が聞こえる。

まるで断末魔の様で、手が震える。

狼はジュウっと黒い煙に包まれて消えていく。




「大丈夫か?」




狼がいた場所には、剣を持った一人の男性が立っていた。



「こんな時間に出歩くのは感心しないな。」

「は、はい。すみません。」



目の前の男性が助けてくれたのだろうか。

スノーがお礼を言おうと、ユイシアの後ろから出ようとすると。

それを咎めるように、ユイシアの左手がわたくしを止めた。



「家まで送ろう。また何かあったら心配だ。」



そう言う男性の後ろから、二人ローブをまとった方が歩いてくる。



「町中で魔物が現れるなんて、災難だったね。」

「ここには騎士団があるはずだが...。」



そう言いながら、「何はともあれ良か...。」と一人が言葉を止めた。

わたくしは何かが起こるような不安で、ユイシアの手をぎゅっと握る。

そうすると握り返され、少しホッとした。



「デートは昼間にしなよ~。」



そう言って笑う男性の横にいる方が、じっとこちらを見ている。

言葉を言いかけて、止めた方だ。

驚いた、そしてとても真剣な目で。



ユイシアを、見ている。



「...トア様?」



そうぽつりと呟く。

すると、他のふたりもこちらを真剣な顔で見つめた。



怖い。

何かいやなことが起きる。



そう思っていると、三人がユイシアの前で跪いた。



「トア王太子殿下!!お探ししておりました!!」



先程、剣で狼を倒してくれた方が叫ぶ。



「ご無事で...!本当に良かったです!」

「お会いすることがようやく...!!」



他の二人も、夜だというのを忘れたように叫ぶ。



トア...?

王太子殿下?



スノーは突然の事に混乱をする。



すると、跪いていたうちの一人が、スノーを見ると厳しい顔をした。



「女!この方をどなたと心得る!!危険にさらすとは無礼なっ!」



そうしてスノーの腕を掴もうとする。

まるでユイシアから引きはがさんとばかりに。

わたくしは何が起こっているのか分からなくて、動くことができない。

だが、それをユイシアが振り払った。



「スノーに触るな。」



そうして三人を睨みつける。

ユイシアと、唖然とする三人の顔を見る。

この方々はわたくしたちを助けてくれた方で...。

でも...。

何が何だか分からない。



スノーを守るようにあるユイシアの左腕に抱きついた。




「...突然申し訳ございません。トア王太子殿下。ずっとお探ししていたのです。」



そうすると、一人が話をしだした。




王妃と幼い王子が乗っていた船が、魔物に襲われたこと。

魔物は王妃の命を懸けた魔法で倒したが、沈没をしたこと。

避難用に王子を乗せていた小船が流され行方不明になっていた事。




三人は王国の者で、ユイシアの瞳と髪の色と亡くなった王妃に似た顔立ちに、

行方不明になっていた王太子殿下だと気づいた事を話した。



王族の瞳はアメジストのような紫。 

髪の毛は金色ががった高貴な茶色。





スノーは、ユイシアの瞳はラベンダーの様だと思った。

髪の毛は優しい色だと思っていた。





「トア王太子殿下、王宮にお帰り下さい!!」



そう満面の笑顔で話す方が怖かった。

この方々は...ユイシアを連れていこうとしている。

やめて!と震えて声には出せないが強くユイシアの腕を掴む。







「...僕は、ユイシアだ。トアなんて知らない。」



その場にきっぱりとした声が響いた。





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