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貴方が恋と愛を見つけるまで5

スノーはユイシアと出かけた日の夜、引き出しに大切に髪紐とリボンを入れた。

水色の、まるできれいな波の色の様なリボン。

初めてもらった装飾品が嬉しかった。

父に冷遇をされているスノーは、今まで使用人達に最低限の食事は部屋に運ばれていたが、

それ以外では放置されていたので、自分から身だしなみを整えることを覚えたのだ。

とはいっても、髪の毛には櫛を通すくらいだった。

本当に今日は楽しかった。



そう思いながら、暖かい布団の中、夢の中へ入っていった。






ある日、スノーはユイシアに大事なことを言うのを忘れていた事に気が付いた。

この町には勉強が学べるという「学校」があるのだ。

「騎士団学校」とは別の、

読み書きや、魔法の基本的なことを教えてもらえる施設だ。

6歳から入学することができる。

スノーには家庭教師がついていたので、うっかりしていた。

「わたしのお勉強に付き合わせている場合では無かったわ」と思いついたのだ





記憶がないユイシアだが、背格好はスノーと同じくらいなので、

年齢も同じくらいだと思った。



ユイシアもそこに通ってみないかと笑顔で言ってみたのだが。

「行かなくていい。」と、すげなく断られた。

まさか断られるとは思っていなかったので、スノーはぽかんとする。



「学校では、色々と教えていただけるらしいわ。大切なことよ?」

「......。」



なおもスノーは言い募るが、ユイシアは頑なだ。



「本を読んだり、字が書けるようになるの。」



そう言うと、ユイシアはスノーがお絵描きをしていた紙に、そばに転がっていたペンを取ると、

さらりと文字を書いてみせた。

スノーよりもきれいな文字にびっくりする。

絵本で流行をしている、赤いお洋服を着たうさぎを真似て描いていたのだが、

その紙の上の方に「赤い服の兎」と書いてみせたのだ。



「あなた、文字が書けるのね。しかもとてもきれい。」

「だから必要ないよ。」



その文字以外にも、天気や植物の名前、スノーが何となくわかる地名のような物を書いていく。

確かにこれほどまで書ければ、「字が書ける」という勉強は、

必要が無いのかもしれない。




それならば、と次の提案をする。



「じゃあ、本は?学校にはたくさんの本があるらしいわ。」

「時間が空いた時に、スノーの部屋にある本を読ませてもらってる。」



きっぱりと言われる。

スノーの部屋には絵本や、難しいが父が読めと言ったシャルズ国の歴史書などが多数ある。

正直スノーには、まだ歴史書は読めなかった。



「あなた、これを読んでいるの?」

「うん。」



その言葉にびっくりした。

確かに、読み書きも出来て、魔法も使えるならばこのままスノーと一緒に勉強をしているだけで、

いいのかもしれない。

うーん、と両の手を頬にあてて悩んでいると。



「僕はスノーの従者だから。」



ぽつりとユイシアが呟いた。





今日のスノーの髪型は頭の高い位置でひとつに結んでもらっている。

そして、お出かけの時に買ったリボンをもちろんつけている。

ユイシアにしてもらったものだ。



確かに、ユイシアはスノーの従者だが、もっと色々な物を見てほしいと思った。




「ユイシア」と名前を付けたが、スノーは「シア」の発音が上手にできなくて、

たまに「ユイシャ」と呼んでしまうことがあった。

直そうと思うのだが、つい癖で「ユイシャ」になってしまう。


だが、そう呼ぶと、ユイシアは嬉しそうな顔をするので、まあいいかと思った。

基本無表情のユイシアだが、嬉しい時は口元が少しほころんだり、

ラベンダー色の瞳が優しくなるのだ。

一緒にいるうちに、だんだんと分かってきた。






そうしてスノーはユイシアと勉強をしたり、町に出かけ遊ぶうちに、

6年の月日が過ぎた。

毎日はとても楽しくて、幸せだった。

出会った頃は同じくらいの身長だったのが、ユイシアの方が高くなり、

わたしも負けないと気合を入れたものだ。

そんな風に過ごしていた二人だが、ある日真剣な顔をしたユイシアからスノーは言われたのだ。



「騎士団学校に入りたい」と。



もちろん、叶えるつもりだった。

今まで何も言わず、付き添って来てくれたユイシアが自分から願った事なのだ。

それにスノーも12歳になり、騎士団学校に入りたいと思っていた。

ユイシアの手を取ると「一緒に通いましょう!」と無邪気に微笑んだ。

嬉しい事しかないように思えた。





父に、会うのは怖かったが大事なことだからと勇気を振り絞って会い、

スノーとユイシアの騎士団学校への入学をお願いした。

祈るように両の手を組み、震えつつ言う娘に父は、

「従者の奴は認めるが、お前は駄目だ。」と言ったのだ。



スノーは頭の中が真っ白になった。

ずっと憧れていたのだ。

騎士団学校に入り、騎士になり、父が守るこの町をわたしも守りたいと。

少しでも領主であり、騎士団長でもある父に近づきたいと。



「分かったのなら出ていけ。」

「...はい。」



どうやって部屋まで帰ったのか分からない。

ベットにうずくまり、スノーは泣き続けた。

ユイシアが心配そうに傍に立っているのは分かっていたが、わんわんと泣き続けた。



「お、お父様が...わたしは騎士団学校に入っては駄目って...っ。」



そんなスノーの頭を優しくユイシアがなでてくれる。

そのあたたかい手のひらが心地良い。

だが、悲しさは止まらない。



「わたしっ...お父様のお役に立ちたくて...!」

「...うん。」



それなのに酷い、と涙が止まらなかった。





騎士団学校には生徒が住むための寮があるので、ユイシアもそこに入ると思っていた。

ようやく使用人という立場から自由になるのだと思っていた。

だが、

「今まで通り、お屋敷にお世話になる。スノーの従者のまま。」と言うので驚いた。



「わたしの事をしながら、騎士団学校に通うのは大変よ?」



スノーも通いたいと思っていたから、少し調べていたのだ。

朝は早く、鍛錬も夕方まだ続くと言う。

そう思い心配で声をかけるが。

ユイシアの瞳は真剣だった。




そうしてユイシアは、スノーの身の回りの事をしつつ騎士団学校に通うようになった。

少しふたりで町に遊びに行く日は減ったが、そばにいてくれることは嬉しかった。

朝、スノーの髪型を整え、朝食の支度をしてユイシアは騎士団学校に通う。

必ず毎日見送った。

頑張っているユイシアを応援していた。





それと同時に、スノーには礼儀作法を教えてくれる先生もついた。

ここで、スノーは「わたし」から「わたくし」になった。



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