貴方が恋と愛を見つけるまで24
スノーとユイシアは国立学園の最終学年である3年生になった。
まだ一年あるというのに、ユイシアは惜しまれつつも生徒会長を辞めた。
何か考えがあっての事だろうと思い、スノーはただ「お疲れ様。」と伝えた。
ワイズ公爵家の没落は驚きと、好奇心、侮蔑の話として広まっていった。
リエレッタは遠くの修道院に送られたらしい。
ワイズ家の取り巻きだった者達は学園内で居心地の悪そうな顔をしていた。
ずっと「公爵令嬢の友人」として傍若無人に振舞っていたのだ。
因果応報と囁く声も聞こえた。
庭園での二人での話し合いの後、スノーはユイシアの言葉にこくりと頷いた。
同じ想いを返せるかは分からないが、もう離れることは考えられなかった。
ユイシアの重い愛情に、スノーもゆっくりでいいならと両想いになった。
もう離さないとでもいうような強い力に抱きしめられ、
スノーもそのあたたかな背中にそっと手を添えた。
同じ気持ちになれたら良いと思った。
それからの日々は目まぐるしく過ぎていった。
「スノーが、物語の生徒会長が格好良いと言っていたからなったんだ。」
僕の読んだのは「規律を重んじて役員達を定時に帰しひとり頑張る生徒会長が出ていた物語」だったから、
大変だったと、ユイシアは苦笑をした。
だから無理をしていたのかと驚いたとともに、そんな些細なことまで覚えていてくれたことが嬉しかった。
スノーのためにロマンス小説を読んでいた事にも。
今日は、二人でユイシアの部屋でゆっくりとお茶を飲んでいた。
もちろん淹れてくれたのはユイシアだ。
スノーの大好きなマドレーヌもある。
ゆっくりとスノーのペースに合わせるように、デートとして城下に出掛けたり、
こうやって部屋で二人きりになったり、今までとは違う「恋人同士」として過ごしていた。
それでも、毎朝の髪結いは欠かさなかった。
ユイシア曰く「スノーを自分の手で着飾るのが嬉しい。」らしい。
ならば今度ユイシアの服をわたくしに選ばせてと言うと、「喜んで。」と優しく笑った。
「スノーが好きだ。」と毎日言ってくれる。
それに「わたくしもユイシアが好きです。」と最近はちゃんと言えるようになった。
最初は、戸惑いの方が大きかった。
だがちゃんと答えられるようになった。
恋人としてユイシアを想うと、今までの触れ合いが恥ずかしくなった。
それまでスノーにとってユイシアは家族のような、守ってあげたい弟のような存在だったのだ。
でも「僕を意識してくれて嬉しい。」と、やわらかく笑い、
放課後の庭園で、恥ずかしくて額を合わせられないわたくしに、手だけは繋いでと、
3年生では手を繋いでの会話になった。
ユイシアは良く笑うようになった。
ますます格好良くなるユイシアに、スノーは目が離せなくなっていた。
「次のシャルズ国の王は姉上だ。そう約束してある。」
メイ様は弟の帰りを信じつつも、いずれは王にならなくてはとずっと勉強をしていたのだと。
「僕は。」
そこで言葉を切ると、ユイシアはスノーを熱い瞳で見つめた。
「スノーの領地に行きたい。そこで暮らしたい。トア・アメジスター・シャルズではなくただのユイシアとして。」
その言葉に驚いた。
スノーの家に婿入りすると言うのだ。
ユイシアは、王位は継がないと言った。
姉であるメイ様がいらっしゃるから。
その代わり、スノーの領地の領主になると言う。
もう結婚をした後の話になっていて、内心焦った。
まだ「好き」と想いを伝えあったばかりなのだ。
でも、そう言ってくれる事は心から嬉しい。
「僕もあの町の人達は好きだ。まだまだ勉強不足だけれど、フィンデガルド伯爵の力になりたい。」
「ありがとう、ユイシア。」
王都も素敵だが、スノーはやはり領地が恋しかった。
生まれ育った場所が気がかりだった。
ユイシアと二人で帰れることが嬉しい。
「実は...、スノーのお父さんにはずっと前から手紙でお願いをしていた。」
「ええっ!?お父様に?」
王都に来てから、
スノーとの結婚を頼み込んでいたらしい。
お父様とユイシアに交流があるだなんて知らなかった。
「最初は、愛娘を王太子の地位で無くなる奴に渡せるかって断られていたけれど。」
「まあ。」
それではすでに婿養子として話していたのか。
ユイシアは一体いつからそこまで考えていたのだろう。
愛娘という不思議な言葉が聞こえたが。
「何度も王都や学園でのスノーの様子を書いて送っているうちに、許すと書いて貰えた。」
「そうなの...?」
でもその頃はお互い「好き」だと伝えていなかったような...?
スノーは疑問に思ったが、ユイシアの話を静かに聞く。
「スノー。フィンデガルド伯爵は不器用な方だけれど、とても君を愛しているよ。」
「......本当?」
ずっと冷遇をされていると思っていた。
お父様はわたくしの事など、お嫌いなのだと。
「大切な一人娘にどうに接して良いか分からなくて悩んでいたって。」
「お父様に...愛していただいているなんて...嬉しいわ。」
いけない。
涙がこぼれそうだ。
嬉しさで胸が熱くなる。
「僕の方がスノーを愛しているけれど。」
「...!!」
お父様と張り合うようなその言葉に、照れつつも、思わず笑ってしまう。
「卒業したら結婚しよう。」
そう言うと、席を立ちユイシアはスノーの前で膝をつき右手を差し出す。
「僕と一生を共にしてください。」
「はい...っ!!」
スノーは嬉しくて震える手で左手を重ねると、そのまま抱きついた。
今までだってずっと共にいた。
これからも、そうなりたい。
ユイシアとなら。
スノーだって、もう離れたいという気持ちは一切無いのだ。




