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貴方が恋と愛を見つけるまで23

ユイシアの指示で衛兵達にリエレッタは連れていかれた。

囲まれて、身体を小さくして頼りなく歩くリエレッタの姿は憐れみを感じた。

火魔法で焼かれた髪の毛が痛々しい。

あんなにも可憐で愛らしかった姿が今は無かった。



「...リエレッタ様はどうなるの?」

「関与していなかったとしても取り調べは免れない。スノーは気にしなくていい。」



公爵家が悪い事をしていたと、ユイシアは言っていた。

だが、果たしてリエレッタは知っていたのだろうか。

きっと知らなかったに違いない。



「心配だわ...。」

「スノーは甘すぎる。」



きっぱりと言われて、何も言えなくなった。

確かにそうなのかもしれない。

だが、リエレッタにも大きな理由があったのだと思うと、複雑な気持ちになる。

彼女も恋焦がれるあまり行動をしてしまっただけなのだ。

ユイシアが言うには「王太子妃になるため」だが、

図書室で会った時、リエレッタの瞳には確かにユイシアへの想いを感じたのだから。



俯くと、目の前にユイシアの胸元があり、今の体勢を思い出したスノーは慌てる。

そういえばユイシアに抱きしめられたままだったのだ。



「ユ、ユイシア。そろそろ離して...。」

「嫌だ。」



両の手でユイシアの身体を押すが、それ所かもっと強く抱きしめられた。

その力強い腕に、

男性として意識をしてしまう。

ユイシアにも、スノーの早い胸の鼓動が伝わってしまうかもしれない。

そう思うと恥ずかしかった。



「な、何故?」

「離したらまた可笑しなことを言いそうだ。」



でも、これではまるで恋人同士の様ではないか。

スノーは自覚をしたばかりだが、ユイシアの事が好きなのだ。

この状況は辛い。



「可哀想に。目が真っ赤だ。」

「それはユイシアが...。」



優しく目元を指でさすられる。

原因を作ったのはユイシアではないか。

あの時の彼は本当に怖かった。



ふっとユイシアの顔が近づくと泣きはらした目元に口づけをされる。

突然の事に驚いた。



「ユ、ユイシア!?」

「婚約者なんだから、これくらい許して。」



スノーは顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。

何度も目元に唇を落とされる。



む、無理だわ!恥ずかしすぎる!!

こんな甘い空気耐えられない!



スノーはドキドキで混乱しながらも、

この空気を変えたいと、気になっていたことを聞こうと思った。



「ユイシア、ちゃんと話をしたいから離して。」

「嫌。」

「真面目な話なの!お願いよ。」



そう言うと、渋々という感じで身体が離された。

ユイシアのぬくもりが離れたことに少しの寂しさがあったが、ようやく一息付けた。

ずっと胸の鼓動が早くて、仕方が無かったのだ。

何度か息を繰り返し、落ち着くと、ユイシアをじっと見つめた。

ユイシアはそんなスノーを愛おしいとばかりに優しい瞳で見つめていた。



「いつから...思い出していたの?」



スノーの真剣な声にユイシアも表情を改める。

これはちゃんと聞かなくては。

重大な問題だ。

ユイシアは「記憶喪失ではない」と言ったのだ。



「最初は本当に名前すら分からなかった。魔法とシャルズ国の事は何となく分かってはいたけれど。」



ユイシアは落ち着いた声で静かに言う。

それならば目を覚ましたユイシアが「分からない。」と言ったのは本当だったのだ。

嘘ではなかったことに、少し安堵する。

何もかも嘘だったのならいたたまれない。



「お屋敷で一週間位経って初めて熱を出した日。治って目を覚ましたら思い出していた。」



その言葉にスノーは驚いて、両の手を口に当てる。

まさかそんなに早くに記憶が戻っていたとは思わなかったのだ。

王都に来た時か、国王陛下にあった時、それかもっと後だと思っていた。

だってユイシアはずっとスノーの従者をしていてくれていたのだ。

いや、今だって傍にいて世話をしてくれる。

毎朝髪を結ってくれる。



「言ってくれれば、すぐに国王陛下の元に知らせを送ったのに...。」



そうしたらスノーとは別れになっただろうが、もっと早くに王太子殿下として、

そもそもユイシアではなく、トアとして戻れただろう。

ちゃんとした名前で。

「トア・アメジスター・シャルズ」として。



「外の世界に憧れがあった。でも何より、一晩中付きっ切りで看病をしてくれた女の子の事が気になった。」



憧れ...、何となくその気持ちはわかる気がした。

スノーも当時を思い出し、懐かしい気持ちになる。

幼い頃はユイシアは良く熱を出していた。

今思えば、王宮での王太子殿下としての生活から使用人としての生活に変わり、

身体がついていけなかったのだろう。



「小さな手を真っ赤にして、冷水に浸したタオルを絞ってくれた。」

「よく覚えているのね...。」



そうだ。

いつも限界まで我慢をするユイシアが心配で、熱で倒れるたびに看病をしていた。

水は冷たかったが、これでユイシアが少しでも良くなるのならばと、

苦ではなかった。

快復をした時は嬉しかった。



「笑顔で町の素晴らしさを話してくれた。」



二人で町中を駆け回ったのを思い出す。

手を繋いで、はしゃいだ。

いつもひとりだったスノーは、ユイシアの存在が嬉しかった。



「どんどん好きになった。」



俯いて子供の頃を懐かしんで、頬をほころばせていたスノーだが、

ユイシアのその言葉に驚く。

好き?

ユイシアが、わたくしの事を、好きと言ったのか。



「好きなんだ、スノー。」



驚いてユイシアを見つめると、その表情は真剣なものだった。



「どうか婚約破棄だなんて言わないで。」



懇願するように言う。



「怖い思いをさせてごめん。」



そう言うと、ユイシアは優しく指でスノーの唇を撫でる。

先程は確かに怖かった。

ユイシアの気持ちが分からなかったからだ。

「恩を感じて婚約者にした」のだとばかり思っていたから、まさかユイシアがスノーの事を、

好きだとは思わなかった。

突然の豹変にただただ驚いた。



「でも、スノーが離れるくらいなら閉じ込めてしまいたい。」



不穏な言葉が聞こえる。

でも、きちんとユイシアと向き合わなくてはとスノーは思った。



「それでも離れたいなら一緒に死んでしまうかもしれない。」



そう言うと、スノーの細い首がユイシアの手で包まれる。

何を意味をするのか、分かる。



「...ユイシア。貴方怖いわ...。」



まだ「好き」と言われたばかりで混乱をしているのだ。

一気に恋情を向けられ、戸惑う。

それに、ユイシアの感情は「好き」を超えている気がする。

ロマンス小説では、好意とはもっと甘くて優しかったはずだ。

こんな...重く恐ろしいものでは無く。



「諦めて受け止めて。」



真剣なラベンダー色の瞳に、目がそらせない。

この愛情を開け止めたらどうなるのだろう。

少し怖い。





「僕を拾った責任を取って。」




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