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貴方が恋と愛を見つけるまで21

放課後、学園の庭のベンチで額を重ね、手を絡ませて一日の出来事を話すのが日課になっている。

その時だけは、人払いをしているのでふたりだけの空間だった。

学園での授業は楽だったが、生徒会の仕事は思ったよりも大変だった。

それでも、一日が終われば優しい声とぬくもりが待っている。

ユイシアにとって、一番の安らぎだった。

だがこの日は違った。






「今日は、生徒会の書類が少なくて良かったわね。いつもお疲れ様。ユイシアは凄いわ。」

「ありがとう。」



いつも忙しい生徒会の仕事だが、今日はほんの少しだが楽だった。

ユイシアがその分疲れていなければいいと、心から思う。

今はスノーが手伝っているが、そうしなくても彼なら上手に生徒会を動かせるだろう。



「一緒に昼食が食べられて良かったわ。」

「うん。」



最近は、別々な時が多い。

その時はスノーはアリュリルと食べるが、ユイシアはちゃんと食べているのだろうか?

昔は食が細くて、困らされたものだ。

使用人に「あの坊主、りんごひとかけらしか食べない。」と言われ、

スノーのおやつのクッキーやマドレーヌを無理やり食べさせたり、

町のパン屋さんにお菓子を買いに出かけては、分け合ったのを思い出す。

これからを思うと心配になるが、そう思うのも今日までだ。



「アリュリル嬢が万年筆を使ってくれていて、凄く嬉しいの。」

「スノーが選んだ物だもの。」



ずっと「勿体ない!」と言っていたが、ようやく使いだしてくれた。

アリュリルの席とスノーの席は少し離れているが、遠くから見ても細工が素敵だった。

お揃い。

それを思い、くすりと笑う。

スノーにとっても良い記念の品物になった。

ユイシアがそばにいてくれなくなっても、親友がいる。

わたくしは大丈夫。



「ユイシア。」

「どうしたの。」



言わなくては。



「...ユイシア。」

「何?」



声が震えそうになるが、どうにか落ち着こうとする。



「ねえ、ユイシア...。相談があるの。」

「.........。」



そうして決心がついた。



「わたくしたち、婚約を解消しない?」

「.........。」



ユイシアには、リエレッタ嬢という可愛らしいご令嬢が元々の婚約者だったのだ。

あんなにも泣いてユイシアへの強い想いを言ったリエレッタ嬢となら、

ユイシアだって幸せになれるだろう。

だからもうこの関係を元に戻さなくては。



「よく考えたの。本当よ。」

「.........。」

「わたくしはユイシア、貴方を助けたわ。でも、だからって婚約者でいて良いはずが無いわ。」

「.........。」

「ちゃんと好きな方を。恋する方、愛している方を見つけて。」

「.........。」



言い切った。

何だか自分が誇らしくなって、スノーは微笑みそうになった。

これでやっとユイシアを解放してあげられるのだと。

幸せになるのだ。

そしてわたくしも、ユイシアを想う心を消すのは辛いが、前へと進まなくては。



だが、次のユイシアの声音で一瞬心臓が止まるかと思った。

それくらい冷たい声がした。



「......スノーが言いたいのはそれだけ?」

「え、ええ。」

「残念だな。」



何時にもないユイシアの迫力に恐れが生まれる。

スノーが戸惑いで震えているのに気が付いていると思うのに、ユイシアに顎を掴まれ驚いた。



「僕はそんなことを望まない。」



ユイシアの左手の親指が、スノーの唇に触れる。

それは、人差し指になり、すべての指で撫でるように触ると、そのまま掌で鼻と口をふさがれた。



「んむっ...!」



いきなりの事に何が起きたのか分からない。

ただ息が苦しい。



かろうじて鼻から少し息ができるが、心許ない。



「スノー、それ以上悪い事を言うなら口をハンカチで縛ってあげようか?」



ユイシアの表情のない顔が近づく。



「声が聞こえないのは悲しいけれど、ずっと口をふさいでしまおうか。」

「...っ!!」



呼吸が足りず、涙が出てくる。

それでもユイシアは止めようとしない。



「大丈夫。毎日スノーに似あった布を選んであげる。髪を結うのだって僕は得意だろう?」



そう左の耳元でささやかれた。

ユイシアの息が熱い。

右手で、慰めるかのようにゆっくりと髪を撫でられる。

その優しさが逆に怖い。

冷汗が出る。

涙が止まらない。

初めてユイシアに恐怖を感じた。



スノーはこんなユイシアは知らなかった。

いや、一度ご令嬢を地面に叩きつけようとしたことがある。

何故、彼が、何がきっかけでそんな事をするのかが分からない。

恐怖で意識が飛びそうになった時、庭にもうひとつの声が響いた。





「ユイシア様、目を覚ましてくださいませ!」



リエレッタが、スノーとユイシアの元へ走ってきた。

そのおかげでユイシアの手が離れ、スノーはようやくまともに息ができた。



「...はっ...はっ...っ。」

「この時間、庭園には人払いをしているはずだが?」

「ワイズ家と言えば、衛兵は退いてくれましたわ。」

「そいつは首だな。」



ひっしで息をするスノーの背中を、ユイシアが優しくさする。

そうさせた張本人だというのに。

まるでじわじわと殺されるかと思った。

スノーはうつむいてぼろぼろと涙がこぼれるのを止められなかった。



「貴方様と婚約をしていたのは、私、リエレッタ・ワイズですっ!」



そう叫ぶ可憐な声がする。



「船に乗られる数日前、王妃様が開いたお茶会でお会いし、婚約をいたしました。」



そうだ。

それならばリエレッタ嬢が婚約者におさまるべきだ。



「私を選んでくださったのです。」



スノーが真っ青な顔をあげると、同じように苦しそうなリエレッタがいた。



「ユイシア様がお可哀想ですわ。」



視線が合うと、リエレッタはスノーを睨みつける。



「いくら記憶がないからと言って、恩人だからと望んでもいないのに婚約者にしなくてはいけないだなんて。」



だから婚約解消を願ったのだ...。

ただ、それだけだったのに。



「この令嬢はこの学園でもたくさんの問題を起こしておりますわ。」

「例えば?」



リエレッタはスノーを指さす。



「私の友人も何人も泣かされました。」

「ふうん。」



ユイシアは相槌を打ちつつリエレッタの話を聞く。

スノーのせいでそんな方々がいたとは。

胸が痛む。



「先日、図書室の受付の生徒が脅されたと言っておりました。」

「それで?」



ユイシアが聞いてくれているからか、嬉々としてリエレッタが喋る。

スノーが黙っているのも原因だろう。



「ユイシア様のいない所で、王太子殿下の婚約者と言う立場を利用し傍若無人に振舞っているのですわ。」



否定をしようとしても、身体に力が入らない。

先程味わった恐怖でまだ思うようにいかない。



「こんな方が、ユイシア様、貴方様に愛される資格なんてありません!」



そうだ。

だから、離してほしい。

ユイシアのそばから離れたいのだ。

スノーは両の手に力を入れ、ユイシアから距離を取ろうとしたが逆に強い力で抱きしめられた。



「そうか。」



ユイシアの、珍しく低い声が響く。

まだ彼は怒っている。

リエレッタは気が付かないのだろうか。



「そうですわ!ユイシア様!」



分かっていただけましたのね!とリエレッタがユイシアにもう一歩近づこうとした時。

ユイシアが火魔法を使い、一瞬炎の壁を作り拒絶した。



「スノーが変な事を言い出したのは君のせいか。」






「きゃあ!髪の毛がっ!!」



リエレッタの綺麗に巻かれた茶色の髪の毛から焦げた匂いがする。



「顔で無かったことを幸運に思うがいい。」

「ユ、ユイシア!?」



あまりの事に咄嗟にスノーが声を出すが、人差し指で止められた。

その指にまた恐怖が思い出されて、スノーはユイシアに抱きしめられるがままになった。



「僕は、君と婚約をしたことは無い。」

「それは...、ユイシア様がお忘れになっているだけですわ。」



さっきまでスノーに怒っていた態度を変え、縋るようにユイシアに近づく。

そうだ。

ユイシアは記憶喪失なのだから、ここで納得させてしまえばいい。

髪の毛くらいなんだ。

私は未来の王太子妃になるのだから。

リエレッタはユイシアを懐柔するべく言葉を続けようとしたが。



「覚えてる。」

「え...っ?」



リエレッタの驚く声がする。

スノーも声には出せなかったが、その言葉が信じられなかった。






「残念ながら僕は記憶喪失なんかじゃない。」




いつもお話を読んでくださり、ありがとうございます!

「大丈夫。毎日スノーに似あった布を選んであげる。髪を結うのだって僕は得意だろう?」

という言葉が、日常でも束縛、執着の現れ、恐怖な感じが伝わると、嬉しいなと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分がいれば、侍女さえ要らないと思っているんでしょうね。どれだけスノーに執着しているんだという感じですが(笑) 毎日の更新を楽しく読ませて頂いています。
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