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貴方が恋と愛を見つけるまで2

スノー・フィンデガルドは、シャルズ国にある海岸沿いの小さな町の領主の娘として生まれた。

白い肌と、白い髪の毛だったことから、

雪という意味のある「スノー」という名前を付けられた。

母は、スノーが3歳の時に病気で亡くなり、父と屋敷に使える者達との暮らしだったが、

跡継ぎが欲しかったこと、そして何より母を愛していた父は、仕事のみに打ち込むようになり、

父からの愛情は与えられることは無くてもすくすくと育った。



この町は騎士団があり、治安も良く、幼いスノーが従者一人をつけていなくても、歩くことができた。

町の人達は「スノーお嬢様」と声をかけてくれる。

屋敷では父には無視をされる扱いで、使用人達もそれに倣ってか最低限の事はしても、

スノーをまるで腫物のように扱うので、外にいる時が大好きだった。

散歩用のドレスを着て、肩からポシェットをかけて完成だ。

くるりと鏡の前で回り、笑うと外へ駆けていった。




「スノーお嬢様、美味しいトマトがなりましたよ。」

「まあ、真っ赤でおいしそう!」



おやつにどうぞと、野菜を扱っている店の店主であるおじいさんがひとつくれた。

スノーは「ありがとう。」とお礼を言い、小さな両手を出すと、

真っ赤で食べ頃の大きなトマトをひとつ頂いた。



少し先からは焼きたてのパンの匂いがする。

魚を専門に売っている店もある。

スノーには作れない、素晴らしい刺繍が施された服がある店もあった。

町が安全な様にと、騎士達が見回りをしている。



スノーはこの町が大好きだ。

この町が栄えているのも、父の功績だと思う。

だから、自分が顧みられることが無くても仕方が無い事なのだ。



「お嬢様、今日はどちらへ?」

「せっかくあたたかいのだから海を見に行くの。」



通りがかりの優しいおばさんの声に、はつらつと答える。

「気を付けていってらっしゃい。」という言葉を貰いつつ、トマトを大事に両手で持つと、

海岸の方へと歩いて行った。





この町から見える海は美しい。

波打ち際で靴をぬらさないように、でもぎりぎりまで近づいて波を見るのが大好きだ。

たまに、貝殻が流れ着いていることもある。

それを拾うのも好きだった。




ただ、今日はいつもとは違った。

スノーがいつも遊ぶところに、小さな影があったのだ。

不思議に思いつつ、近づくとそれは人なのだと分かった。



倒れている人がいるわ!



慌てつつトマトを肩にかけていたポシェットに入れると、その人影へと走る。

波間にうつ伏せで倒れている、小柄な体をどうにか仰向けにすると、

スノーと同じくらいの歳の少年だった。



「あなた、あなた大丈夫!?」



ドレスが汚れるのも気にせず、少年のそばに寄り、ひっしで声をかける。

ぺちぺちと頬を叩くが意識が無い。

だが、小さく息は聞こえる。

スノーはどうにか少年を波に当たらない場所までひっぱると、ドレスの裾を掴み

全速力で走って街に戻り大人を呼んだ。





「......。」

「よかったわ。あなた、丸一日目を覚まさなかったのよ。」



ベットに眠る少年にスノーは声をかける。

あの後、野菜屋さんのおじさんが走ってきてくれて、少年の様子を見て下さり、

フィンデガルド家まで抱えてきてくれた。

急なことで、空いていた使用人の部屋に寝かせたものの、

どうしたらいいのか分からなかったスノーは、冷えた少年の手を握り、

ずっとお願いをしていたのだ。

「この子を助けてください!」と。



父は、仕事で家にいなかったのは幸運だった。

使用人達は面倒ごとを持って来たとばかりにスノーを遠巻きにした。




そして、願いが通じたのか、ゆっくりと少年はその瞳を開けた。

起き上がりぼうっとあたりを見たあと、ゴホゴホッとむせだしたので、

水差しに入っている水をコップに注ぎ、少年の口元に持って行く。



「ゆっくり飲んでちょうだい。」



少しずつコップを傾けつつ、少年に水を飲んでもらう。

それを何回か繰り返すと、落ち着いたのか静かになった。



少年は、茶色の髪の毛で、近くで見るとラベンダーのお花のような綺麗な瞳をしていた。



「わたしは、スノー。スノー・フィンデガルドよ。」



「あなたは?」と問いかけたが、少年は戸惑った顔をした。

どうしたのかと思ったが、まだ具合が悪くて声が出せないのだろうか。

ならば聞くのはいけないと思い、コップをテーブルに置こうと少年から目を離す。

すると。



「......わからない。」



そう、ぽつりと呟いた。

その声はまだ幼く、心細さが伝わった来るような小さな声だった。



「おぼえていないの?」



スノーの問いに、少年はこくりと頷く。

その顔は真っ青で、手は震え、可哀想だった。

震える手をどうにかしたくて、スノーは少年の両の手を握ると、安心してもらおうとにこりと微笑む。



「...じゃあ、わたしの従者になってくれる?」



それならば、父もこの少年をこの屋敷に置いてくれるだろう。

駄目だと言われても、頼み込むつもりだ。

少年は目を何度もぱちぱちとさせながら、スノーを見る。



「わたし、ここでは嫌われているの。あなたがいてくれたら心強いわ。」



場違いかもしれない。

だが精一杯の笑顔を浮かべると、少年を見つめる。




少しの間の後。

こくりと、小さく少年が頷いた。



「ありがとう!わたしのことはスノーでいいわ。」

「.........スノー。」

「ええ。」



ここで、ふとスノーは考える。

少年の名前が分からないのだ。



「どうしましょう...あなたの名前が分からないわ。」

「......。」



こういう時はどうすればいいのだろう。

スノーはひとしきり悩んだ後、ぱあっと顔を輝かせた。



「わたしが、名前を付けてもいいかしら?」



少年の手を握り、じっとそのラベンダー色の瞳を見つめる。

するとまた、小さく、こくんと頷いてくれた。

スノーはいつか犬か猫を飼うことができたのなら、つけたいと思っていた名前があった。



「ユイシア。あなたはユイシアよ。」

「ユ、イ、シア?」

「そう。本で見た名前でもない、花の名前でもない、ずっと頭に浮かんでいた名前よ。」

「ユイシア。」



いつしか少年の手の震えは止まっていた。

そっと手を離すと、椅子から立ち上がりスカートの裾を持ちあいさつの形を取る。

幼くてもレディたるもの、あいさつは重要なのだ。



「ようこそ、ユイシア。これからよろしくね。」



少年は、戸惑いつつも頷いてくれた。

それだけで十分だ。



するとその場に「くうー」という可愛い音が響いた。

ユイシアが慌てて、自らのお腹を押さえる。



「ふふふ!昨日いただいたものだけれど、どうぞ。」



肩から掛けたままだったポシェットから大きく真っ赤なトマトを取り出す。

まだまだ瑞々しく、美味しそうだ。

トマトをじっと見つめるユイシアに、スノーは笑顔で差し出した。




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