貴方が恋と愛を見つけるまで15
「チェリー、お友達ってどうやって作るのかしら?」
「スノー様またそれですか。」
髪の毛は今日はひとつの三つ編みにしてもらった。
ユイシアの手が器用に赤色のリボンも編み込み、とても素敵になった。
さすがに制服を着るときは退出をしてもらっている。
きっと廊下で待っているのだろうから、早く着替えなくてはと気が焦るが、ふとした疑問を呟いた。
「だって、チェリーなら沢山お友達がいるでしょう?」
「そんなこと無いですよ。城仕えですし、皆と休日が合わなかったりしますし。」
「皆!?」そんなにいるのかと驚く。
「わたくしもお友達が欲しいわ...。」
「こればかりは運ですかね...。」
ユイシアが放課後に生徒会の役目があるが「行きたくない。スノーといたい。」と言い出したので、
仕方なく手を握ると、生徒会室まで送ってしまおうと場所を聞きだした。
学園の校舎は五階まであるが、生徒会室があるのは四階だった。
図書室と同じ階だ。
ユイシアの手を引くスノーの姿を見て、生徒達はひそひそと声を立てるが、
「集まりの時間に遅れてしまうわ。」と焦るスノーには聞こえなかった。
生徒会室にユイシアを連れていくと、「少し待っていて。」と言われたので、
不思議に思いつつ、廊下で待つ。
「何でここにあの女が...。」とささやく声が聞こえたが、スノーは背筋を伸ばして、
わたくしは噂なんて気にしませんという毅然とした態度をとった。
数分後、生徒会室の扉が開き、ユイシアが「入って。」と言ったことに驚いた。
生徒会室といえば、生徒達の代表が集まる厳粛な場だ。
戸惑うスノーの手を、今度はユイシアが握り、部屋の中へと案内をした。
生徒会室はまるでお父様の執務室のような机が一つと、長方形のテーブルが二つと椅子があった。
ロマンス小説に出てくる生徒会室とは、こういう場所なのね!と、
読んだお話を思い出して、胸がときめく。
「ようこそ、スノー嬢。ユイシア様が我儘を言ってすまないね。」
「スノーといたいのに、突然集まり何かあるからだ。」
机に座っていた青年が申し訳なさそうにスノーに頭を下げる。
するとユイシアが拗ねたような口調で話したので驚いた。
役員として、良好な関係を結べているらしい。
「いいえ、ユイシアがお世話になっております。」
スノーも頭を下げる。
「では、始めよう。」という青年の言葉に、わたくしは場違いだから部屋から出ようとすると、
ユイシアが座る隣の椅子を案内され、戸惑いながらも腰を掛けた。
雑談を交えつつ、生徒会役員と会長、ユイシアで書類をさばきだす。
まずは役員が書類を確認し、ユイシアに渡すか、生徒会長に渡すかをして、
二人は渡された書類を確認し、サインを書いていた。
会長の3年火の魔法クラスである、セイ様。
お名前にあら?と思っていると、やはり王族に連なる方なのだと知った。
副会長に、何ともうユイシアがなっているのだ。
それを知った時には、びっくりした。
他に手伝いとして、アラン様、キース様、ヒエノ様がいらっしゃる。
女子生徒がいればお友達になれるのではと思ったので、少しがっかりした。
セイ様は冗談を交えつつ、スノーに話しかけてくれるが、
アラン様とキース様、ヒエノ様は微妙な表情をしていた。
「ユイシア様、隣に婚約者がいるからって緊張してサインを間違えないでくれよ。」
「分かってる。」
朗らかに話すセイ様に、苦笑いをするいつもよりもリラックスしたユイシアの姿を見られて、
スノーは嬉しかった。
書類を確認し、承認するものはサインを書き、不承認のものはまた役員に返す。
とても美しい字だ。
その真剣な顔が格好良いと思った。
スノーはユイシアを見つめつつ、胸が少しときめくのを抑えきれなかった。
スノーから見たユイシアは、完璧に書類を書いているように見えたが、
セイから見たらいつもよりもとんでもなく丁寧にサインを書いているユイシアが可笑しくてしょうがなかった。
王太子殿下といえど、恋は盲目だと笑いを我慢するのが大変だった。
そうして、書類が終わると役員の三人は出ていき、ユイシアとセイ様、スノーの三人になった。
生徒会での仕事が見れて、スノーは嬉しかった。
「退屈だっただろう、すまないね。」
「いいえ、とても楽しかったです!本にある風景はこういうのかと実感しましたもの。」
「本?」
いけない、思わずはしゃいでしまい、愛読書であるロマンス小説の事を話してしまった。
「生徒会長と平民のお嬢さんの身分差を乗り越えた愛」が、とても素敵なのだ。
スノーは、恥ずかしく思いつつ、「今流行っているロマンス小説ですわ。」と言うと、
セイは、「ああ、あれか。妹も読んでいる。」と苦笑した。
「残念ながら俺はご期待には沿えないな。最愛の婚約者がいるからね。」
「まあ!!」
「男爵令嬢だが、とても心の優しい良い子なんだ。」
「なんて素敵!!」
「いつかスノー嬢にも紹介するよ。」と言う言葉に、嬉しくて何度もうなずいた。
「スノー。」
「今日は、もう遅いから馬車に行きましょうか?」
時計を見ると、かなりの時間が経っている。
放課後の二人きりのお話は残念ながら、今日は無理そうだ。
「いつも通り人避けはしてあるから今から行っても...。」
そうセイが喋りかける口をユイシアがばしんっと左手で抑えた。
「?」
「そうだね、もう帰ろう。」
セイはもごもごと「いってぇ!!」等言っていたが、そんな二人のやり取りに仲が良いのねと微笑ましく思った。
「今度は生徒会に取り入ったそうよ。」
「王太子殿下の婚約者だという権力を振りかざして、無理やり生徒会室に行ったのだとか。」
「何であんな女が王太子殿下の婚約者なのかしら。」
相変わらず、ひそひそと声がする。
その方向に振り向くと、スノーは口を開いた。
「貴方がた、お友達になって下さらない?」
そう言ったが、ご令嬢たちは険しい顔をすると。
「誰が元男爵令嬢なんかと!!」
叫び、一目散に去っていった。
やっぱり今日もお友達を見つけたい作戦は駄目だった...。
ふと、視線を遠くにするとユイシアが歩いていて、珍しくこちらに気付いていないようだ。
沢山の人に囲まれている。
羨ましいと思った。
ある日。
スノーが廊下を歩いていると、水色の髪色が美しいご令嬢が前から歩いてきた。
こちらに気が付いていないのかどんどん来る。
何故か横に避けようとしても、ご令嬢も横に移動をした。
ぶつかる!!
そう思い、持っていたロマンス小説の角がご令嬢に当たらないように抱えてぎゅっと目を閉じると、
突然悲鳴がして、辺りが騒がしくなった。
「スノー様がっ!私を邪魔だと突き飛ばしましたわ!!」
えっ。
「何て酷い事を...!」
「本性を出したな!」
ご令嬢の言葉と共に、周りにいた生徒達の騒めきが大きくなる。
「わたくし...、本を抱えていたのでそんな事出来ませんわよ?」
「酷いっ!しらを切るつもり!?」
その騒ぎに生徒会役員であるアラン様が走ってきて、目の前のご令嬢を抱える。
先日知り合ったアラン様なら、信じてくれるだろうと思いスノーが口を開こうとすると。
「どうしたんだ、エリス。」
「スノー様がっ!私の事を突き飛ばしましたの!!」
「何っ!」
エリス嬢を守るように抱えたアランにきつく睨まれた。
その目の鋭さについ怯んでしまう。
「俺は君なんかに会いたくなかった。ユイシア様が呼んだから態々会ったんだ。
どうせ生徒会員に会いたいとでも君が権力を振りかざして言ったのだろう!」
その言葉に観衆は大きく騒めき出す。
大きな悪意にスノーは目の前が暗くなりそうになった。
「スノー嬢、君はユイシア様の婚約者だからと何か勘違いをしているのでは?」
なおもアラン様は言う。
「君は偶然ユイシア様を助けたに過ぎない。ただの領主の娘だ。」
そう。
確かに、わたくしはユイシアを助けただけだ。
今は伯爵の位を頂いたが、ただの領主の娘に過ぎない。
「ユイシア様は優しい。だからといって君が縛り付けて良い方ではない!」
強い声で言われる。
観衆からは「そうだ、そうだ!」という声が多数聞こえた。
「こんなに酷い女性だとは思わなかった。しかも俺の婚約者であるエリスに害を成すとは。」
ただその言葉には反論をした。
ぶつかってきたのは、そちらのご令嬢なのだ。
「わたくしは、何もしていませんわ。失礼いたします。」
彼等の横を通り過ぎる。
背中にずっと生徒達の非難をする声が響いていたが、唇をぎゅっと噛んで耐えた。
「上手くいったかしら...?」
「大丈夫だろう。スノー嬢には悪いが、ワイズ公爵の命令には逆らえない...。」
「......可哀想なことをしたかしら。」
「いや、ユイシア様を利用する悪女だ。あれ位何ともないさ。」
そう小声で言って、アランとエリスは抱きしめあう。
お互いを慰めあうように。
だが、何とも言えない気まずさが消えなかった。
その日の放課後、スノーはユイシアが先にベンチにいるのを見ると涙をこぼし彼に向って駆け出した。
その身体を優しく受け止める。
「スノー。」
「......っく。ひっく。...っ。」
ユイシアはスノーが落ち着くまで、訳を問う事も無く抱きしめていてくれた。
次第に落ち着くと、恥ずかしくなって身体を離そうとしたが、ユイシアの腕がそれをさせなかった。
「ごめんなさい、ユイシア。貴方の制服濡らしてしまったわ。」
「何があった?」
険しい声がする。
ユイシアに心配をかけてはいけないと思う。
「いいえ、何も無いわ。」
「嘘だ。唇が赤くなってる。」
そう言うと、あたたかく優しい指先が唇に触れたが、ぴりっとした痛みを感じた。
噛み過ぎて切ってしまったのかもしれない。
「わたくしが上手く対処できなかっただけなの。大丈夫よ。」
「......。」
アランはユイシアが所属をする生徒会の大切な役員だ。
問題を起こした自分が悪い。
そう思うしかなかった。
その次の日、アランが生徒会役員を除名させられ、新たにもう一人入ったことに驚いた。