貴方が恋と愛を見つけるまで12
国王陛下は気さくで、メイ様も優しく、ユイシアも従者の頃と同じようにずっとそばにいてくれて、
パーティーの日まで穏やかに過ぎていった。
スノーのためにとユイシアから贈られたドレスに驚いた。
それはずっと着てみたいと思っていた、薄紅色の可愛らしいドレスだったからだ。
「わたくしの白い髪には似合わないわ...。子供っぽく見えてしまうし。」と、諦めていた。
チェリーに薄くお化粧をされ、ドレスに袖を通す。
薄紅色のドレスは、可愛らしくありつつも上品さがあり、さり気ない裾にある白のレースがとても素敵だった。
今日はユイシアも主役として仕度があるため、忙しくしていたので、
髪型はチェリーにしてもらった。
一つにまとめてもらって、髪の毛にユイシアからもらった紫のリボンをつける。
そのリボンがあれば、緊張をするパーティーも乗り越えられると思った。
胸元にはユイシアのお母様である亡き王妃様の、セリ様の形見のアメジストのブローチを。
その見事な細工と、素晴らしい薔薇の形、何よりも大切な形見の品に、
「受け取れない!」と初めは断ったが、
ユイシアと、国王陛下から是非つけてほしいと言われ、恐る恐る受け取った。
耳にも、同じくアメジストで作られたイヤリングを付けた。
初めてイヤリングをつける感触に少し違和感があったが、アメジストと周りを囲むようにダイヤモンドが装飾され、
しずくの様にまた小ぶりのアメジストが連なっているのが可愛らしい。
「さすがです、スノー様!とてもお似合いです!!」
興奮をしたような声でチェリーが拍手をしながら、スノーを褒める。
その声に照れながらも、鏡に映る自分に驚いた。
まるで昔、絵本で見た「お姫様」のようだった。
「ずごいわ...。わたくし、薄紅色は似合わないと思っていたの。」
「なっ、何でですかっ!?」
「子供っぽいかなと思って。わたくしの髪色には合わない気がして...。」
恥ずかしく思いつつ、理由を言うと「これからは、いっぱい薄紅色のドレスを着ましょうね!」と、
チェリーは気合を入れるように言ってくれた。
すると、ドアをノックする音がする。
返事をすると、現れたのはユイシアだった。
いつもと違い正装をし、王家の紋章が刺繍された上着を着たユイシアは、格好良かった。
その姿に見とれてしまう。
「...僕がスノーの髪を結いたかった。」
そう拗ねたように言うユイシアに、格好は違ってもユイシアはそのままねと思わず笑ってしまった。
「よく似合ってる。」
「ありがとう、ユイシア。この色をプレゼントしてくれて。」
そう言って、その場でくるりと回ると、ドレスの裾がひらめいてとても綺麗だった。
嬉しくて、はしゃいでしまう。
「スノーは、ずっと薄紅色が着たいって言ってたのに、我慢をしていたから。」
絶対に似あうドレスを贈ろうと思ったという言葉に、頬が赤くなる。
「ユイシアも...、とても素敵よ。」
「ありがとう。」
もっと褒める言葉をと思ったが、ドキドキして「素敵」という言葉しか出なかった。
しばし見つめあう。
チェリーが「お熱い、お熱い。」と言うのが不思議だった。
国王陛下も、メイ様もスノーのドレス姿をとても褒めてくれた。
バーティー会場には招待をされた貴族達であふれていた。
それぞれが談笑をしつつ、国王を待っていた。
そして、今日の主役を。
国王が現れると、皆が会話を止め礼をする。
その後をメイ、そしてユイシアとスノーが続いて会場に入った。
玉座がある場所の中央に立つ国王が、会場を見渡し頷くと「楽にしてくれ。」といい、
その言葉に会場の者たちは頭を上げた。
「皆に知らせたい。行方不明になっていた息子が無事に戻ってきてくれた!」
会場に拍手が鳴り響く。
「名前はユイシア。ユイシア・アメジスター・シャルズだ。」
その言葉にざわめきが起きる。
記憶違いで無ければ、行方不明だった王太子は「トア」という名前なのだから。
「心優しい少女が、記憶の無い息子を保護していてくれたのだ。」
そうして国王がスノーを見る。
「君に感謝を。スノー・フィンデガルド嬢。」
国王がスノーに頭を下げると、会場はシンっとなった。
「フィンデガルド男爵には功績をたたえ、伯爵の位を授ける。」
はやる気持ちが抑えきれず、発表が先になってすまないとまた、国王はスノーに頭を下げた。
「国王陛下、ありがとうございます。」
スノーは緊張した震える声で、でもきちんと言葉にする。
しかし、礼をしつつも、内心は複雑だった。
お父様が喜んでいそうだわ...。
ユイシアが王都にと呼ばれたと言った日に見た、欲の浮かんだあの瞳が消えない。
「トアは、ユイシアになった。素晴らしい名前だ。」
自分がつけた名前を褒められて、嬉しい気持ちになる。
「そして、我が息子ユイシアと、スノー嬢の婚約を発表する。」
すると、静かだった会場から少しずつ、そして大きな拍手が響いた。
それは会場にいる者達の、困惑した気持ちを表したかのようなものだった。
スノーは不安で手を握りしめると、右手が優しい温かさに包まれた。
ユイシアがまるで落ち着かせるように、安心させるようにスノーの手を握ってくれる。
つい涙がこぼれそうになるほど嬉しかった。
鳴りやまない拍手に一つ頷くと、国王は持っていたグラスを掲げる。
「さあ、挨拶は終わりだ。皆、存分に楽しんでくれ。」
それからは、ユイシアに挨拶をという方達に囲まれて大変だった。
皆、労わりと戻ってきた事への賛辞を述べる。
隣にいるスノーには見向きもしなかった。
でも、逆にそれがありがたかった。
長い時間そうしていたが、ようやく解放された。
「スノー、ごめん。」
「ユイシアを待っていた方がたくさんいて嬉しいわ。」
正直傍に立っているだけでも疲れたが、笑顔で返す。
「これからどうしたらいいのかしら?」
「テーブルに食事があるよ。もちろんもう部屋に帰っても良い。」
そう言われ、テーブルを見る。
遠目から見ても、凄く美味しそうな料理があった。
だが、人々は会話に夢中なのか、料理の周りには人がいない。
「食べていいのかしら?」と悩んでいると、ユイシアが料理のあるテーブルまで連れて行ってくれる。
そうして、何品か皿に盛ると、スノーに渡してくれた。
「ありがとう、ユイシア。」
どれもスノーが好きそうな料理ばかりだ。
差し出されたフォークを受け取ると、早速一口食べてみた。
「とても美味しいわ!」
「良かった。」
どの料理も一口で食べられるようにと作られていて、美味しい上に見た目も可愛らしい。
「ユイシア、このお魚のお料理がおすすめよ。貴方も是非食べて。」
「うん。」
そう言うと、テーブルのそばにいた人が即座に皿を取り、料理を乗せてユイシアに渡した。
それにはっと気づく。
「わたくしったら、またユイシアを...。」
「僕がしたいんだ。」
ユイシアが料理を食べる。
「美味しい。」という言葉に嬉しくなった。
だが。
「王太子殿下が給仕の真似事をするなど...。」
「何と不敬な。」
「恩を着せたからといい気になっているのだろう。」
「たかだか領主の娘ごときが来て良い場所ではないというのに。」
後ろからざわりと嫌な気配と、言葉が聞こえた。
思わずフォークを握る手が震える。
「......ユイシア。」
「スノーが気にすることなんてない。堂々としていれば良いんだ。」
そう言うとユイシアは、背後に向けて強い視線を送る。
するとそれらは消えた。
無くなった気配にほっとした気持ちで、スノーはまた美味しい料理に専念した。
こんなにも美味しい料理を残すのはもったいない。
ユイシアと話しつつ、しっかりと堪能した。
8年前王太子はいなくなったが、王にはまだ王女がいる。
だから貴族達は何としても息子を婿入りさせようと企んでいた。
それだというのに...。
ここでまさかの誤算が起こるとは。
「スノー・フィンデガルドという小娘を調べろ。」
「承知いたしました。」
静かに下がる従者に任せ、ワイズ公爵はただ憎らしいとばかりに戻ってきた王太子と小娘を見る。
たかだか男爵風情が、いきなり伯爵になったのにもはらわたが煮えくり返る。
表情を微笑に戻すと、同じく思っているであろう者達に近づいた。
そうして数日後には、スノーへの悪意ある噂が城下にあふれていた。