ポンニチ怪談 その56 当選の代償
カルトとの癒着を追及され解散総選挙に追い込まれたニホン国与党ジコウ党。何がなんでも当選を願った、その結果とは…
『ハギュウダン氏、当確』
ニホン国の公営放送INUHKの選挙報道の終盤でのアナウンス。
この日はニホン国の内閣不信任決議の後の解散総選挙の開票日。
与党ジコウ党、アベノ元総理の側近であり、前キジダダ政権では政調会長まで務めたハギュウダンの当確は、あと少しで翌日という時刻でようやく判明した。
わあああ、とハギュウダンの選挙事務所は歓声に包まれた。
手をたたくもの、万歳するもの、いつも以上に苦しい戦いのなかの勝利に喜んでいるものもいた。
「ああ、まったく、例のカルト問題もあって、今回はどうなることかと思いましたよ」
「しかし、結局のところ、ギリギリとはいえ、当選できましたよ。得票数は…。だいぶ減りましたが、この数なら。しかし、例のカルト集団からの票とほぼ同数ですけど」
「いくらなんでも、彼らはハギュウダン先生には、今回は入れてないだろう、何しろあのカルト集団との関係を断つといったんだし」
「それは表向きだろう?だいたい何十回も講演会に出席し、一緒に理想を追い求めるとまで言ったし。それに大きな声では言えないけどアベノ元総理の政権の時に彼らに有利な法律を作成し、数々の捜査が及ばないよう便宜を図ってたし。最も、それらがバレそうになって大問題になったわけだけど」
「その問題やら値上げに、ウイルス対策の失敗他で解散総選挙だ。しかしまあ、かろうじてではあるが、得票数は少ないとはいえジコウ党の議員が多数、当選してるし。ああ、そうだゼコウさんも当確だろう、お祝いの電話をしたのか」
「それが、おかしいんだ、電話が通じない。ラインもだ」
「電話はまだしもラインも?秘書も、スタッフもだ」
「え、それは変だな、ハギュウダン先生に…先生?」
秘書たちがハギュウダンの姿を探すと
ポタッ
頬についた生暖かい液体を指でぬぐうと
「血、血だー!」
秘書の一人が上を見ると天井には血まみれのハギュウダンが貼りついていた。
「せ、先生がー」
「きゃああ!」
「ど、どうなってるんだ!」
喜びの歓声から恐怖の叫び声でいっぱいになる事務所。
“当選のためなら、なんでもするといっただろう?”
どこからともなく聞こえてきた低い声。
「え、」
「な、何、この声、ど、どこから」
とまどうスタッフたちに、声の主は続ける。
“人を騙し苦しめるカルトだろうと、反社会的集団だろうと当選するためには何とだって手を組むのだろう?”
“そう約束しただろうが”
「た、確かに何がなんでも当選と、ジコウ党決起大会でキジダダ総理が言った」
「お、俺たちも、そ、そういった…」
「そ、そうだ。カルトだろうと、たとえ鬼だろうと悪魔だろうとなんだろうともすがるって。命も魂も選挙に注ぎ込めって」
「ジコウ党過半数確保。与党で、議員でいられるならば、どんな代償でも支払うつもりで選挙活動をやるぞ…って、ま、まさか」
青くなった顔を見回す選挙スタッフたち。
“そう、我らと約束した。望みどおり当選というものはさせてやったぞ”
“国民のための民主主義政府の議員などといいながら、国民を苦しめてきたカルトと癒着するとは呆れたものが、まさか我らにすがるとはな”
“本当に間抜けな奴らだ。まあ、そのようなモノたちだから、楽に我らも望みのものが手に入る”
「な、なんだ、お前らは、いったい」
「ど、どういうことなのよお」
「な、なんなのよ、これ」
泣きわめくスタッフたち。
“本当にお前たちジコウ党の奴らは無知で傲慢だなあ、命乞いはせぬのか。まあ、よい、しても無駄じゃからな”
“命を賭けて当選を願うと誓ったではないか、我らはお前たちの望み通りにしてやったぞ”
“そうとも我らは約束を果たした。当選はしたのだから、我らも報酬をもらいに来た”
「そ、そんな、ほ、本当に命をかけるなんて!」
「い、いやたとえそうだとしても、当選したばかりです!せ、せめて次の国会が開かれるまで!」
秘書たちが叫ぶが
“はあ?お前たちは国民やら野党やらとの約束なぞ、すぐ反故にするではないか。国会ものらりくらり理屈をつけて開かないつもりなのだろう?そうやって先延ばしして誤魔化すつもりだろう?国民を騙したように我らを騙すつもりだったのだろう、不遜な奴らめ”
“どこぞのカルトのように裏切られては困るからのう、さっさと報酬はもらうぞ”
声が終わると同時に
ピュウウ
と、ハギュウダンの第一秘書の頭が真っ二つに割れて血が飛び散った。
バアアン
と、秘書の首なし死体が天井に貼りつけられる。
「ギャアアア」
「やめてー」
「助けてー」
阿鼻叫喚の叫び声。
「に、逃げろ」
「あ、あかない」
入り口に殺到する人々。屈強な男性が必死に引っ張るがガラスの引き戸はビクともしない。
ドンドンとガラスをたたくが、人影はなく、誰も来ない。
急いでスマートフォンを取り出した一人が画面をタッチする間もなく
ブッシュ
手がちぎれる
「ギャアア」
右手首から血を噴出させながら、手足をバタバタして天井にたたきつけられた。
“逃げようとしても無駄だ、お前たちの願いを叶えてやったのだからな”
“当選はしたのだ、我らもお前たちの命も魂もいただくぞ”
“当選のためには、なんでも差し出すのだろう、命も魂も、そう誓ったではないか”
“ふははは、当選の代償を払ってもらうぞ”
「ひいいいい」
ドスン
「ゲホゲホ」
“ひゃははは”
“ほらほら”
「ぐええええ」
叫び声や大きな物音は日付が変わっても、しばらく続いた。やがてハギュウダン事務所もほかのジコウ党選挙事務所と同じく物音ひとつしなくなり、ニホン国の夜に静寂が訪れた。
どこぞの国の与党は当選のためなら何でもしかねないらしいですが、下手なモノに願ったり、手を組んだりしたら、トンデモナイ代償を支払う羽目になるって知らないんですかねえ。確かその国ではそういう言い伝えや昔話があったはずなんですけど、保守とか伝統とかいうわりにはもの知らずな方が多いのかもしれないですねえ。