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第9話 指名手配犯と男装の麗人


「これ、本当にあなた方が倒したんですか」


 オルドが、斬り落としたサイクロプスの頭の上に生えている角をギルドの受付のカウンターの上に置くと、ギルドの受付の女の子が驚きの叫びを上げた。


「あなたたちのパーティのレベルでは倒せない魔物ですよ」


「DランクのクエストにBランクの魔物が出てきた。倒さなければ殺されるところだった。つまりはそういうことだ」


 オルドが受付嬢に言った。


「あんたらのずさんなクエスト管理のお陰で、あやうく命を落とすとこだったんだぜ、驚いている暇があったら報奨金の計算と角の買取額を早く出してもらえないかな」


 ジョーが言った。


「は、はい、ただいま」


 受付嬢は、買取額の見積もりのために角を奥の部屋に運ぼうとしてたが、一人では重すぎて無理なのか、角を持ったままよろけた。


「おっと。傷一つなく獲って来た角をここで落として傷物にされたらかなわないな」


 ジョーが角を持った受付嬢を抱きかかえた。


「これは、僕が持ってゆくよ」


 そういうと角をジョーがかかえた。


「さて、査定額が出るまで、あっちで飲んでいるか」


 オルドが酒場の方を指して言った。


 私達は酒場のコーナーに行き、エールを頼んだ。


 角を運んだジョーも戻ってきた。


「乾杯」


 すぐに出てきたエールのジョッキを合わせて乾杯をした。


「ああ、うまい」


 冷えたエールを一気に半分くらい飲み干してジョーがうめくように言った。


「いくらもらえるんですか」


「角はかなりの額になるはずだ」


「サイクロプスの角なんて何に使うんですか」


「装飾品に使うんだよ。角を素材にして彫刻を施して飾り物やアクセサリーにするのが人気なんだ。いろんな素材がある中でもサイクロプスが希少価値もあり一番人気なんだよ」


 そんな話をしているうちにギルドの職員がテーブルに皮の小袋を持って来た。


「査定額がでました。これでいいですか」


 そういうと小袋を開き、テーブルの上に金貨を積んだ。


「おお、すげー」


 ジョーが喜びの声を上げた。


「皆、この額でいいか」


 リーダーのオルドが訊いた。


「もちろん!」


 レイラが言った。


 私は相場が分からなかったが、彼らがこんなに喜んでいるのならいい買値だったのだろうと思い、私も同意した。


 オルドが金貨をテーブルの上に積んだ。


 そして、それを二分した。


「こっちはアズキちゃんの分、こっちは俺達で山分けだ」


「えっ?」


 私はてっきり4等分するか、それとも、私は新人なのでもっと少ない取り分かと思っていた。


「すまない。だが、俺達も結構大変なんだ。この取り分で了解してもらえないか」


「了解もなにも、こんなに貰っていいんですか」


「もちろんだ。サイクロプスを倒したのはアズキちゃんだ」


「ありがとうございます」


「さあ、今日は飲もうぜ」


 ジョーが陽気な声で言った。


 思わぬ大金が入った。


 これでしばらくは宿屋代や食事の代金には困らないだろう。


 ギルドの入り口が騒がしくなった。


 見ると治安部隊の兵隊が3人いた。


「何のようだ」


 大柄の男が出てきて言った。


「クエストの依頼だ」


「受付はもうおしまいの時間だ。明日また来てくれ」


「なんだと、我々は治安部隊だぞ。責任者を出せ」


「私がここのギルド長のアレンだ」


「お前がギルド長か。なら、この依頼を受け付けろ」


「明日ではだめなのか」


「脱獄犯の指名手配だ。ぐずぐずしていると逃げれる」


「冒険者ギルドに依頼するからには、金は出るんだろうな」


「もちろん捕まえた者には懸賞金が出る」


「いくらだ」


「金貨3枚だ」


「何をやった」


「アバーデン刑務所から脱獄した」


「なに、あのアバーデンからだと。だとしたら金貨3枚では安すぎる」


「たかだか冒険者ふぜいが、生意気な口をきくな」


 その言葉に、ギルドの酒場全体に冷たい空気が満ちた。


 酒場で飲んでいた冒険者たちは剣呑な目で治安部隊を見た。


「なんだ。その目は。脱獄犯はアンという女だ。剣術の腕がたつ。心あたりのある者がいたら申し出ろ」


 誰も口を開こうとしなかった。


 治安部隊の隊員は酒場の中を見回した。


 そして私たちの席で視線が止まった。


 酒場にいる女は、私とレイラだけだった。


 治安部隊の隊員は私たちの方に寄ってきた。


「おい、お前、見かけない顔だな」


「こっちを向け」


「あれ、手配書の似顔絵に似ていないか」


「名前は? どこから来た」


「彼女はアズキだ。アンではない」


 オルドが低い声で言った。


「おい、いつからこの女はお前たちの仲間になった」


 私は剣の柄に手をかけようとした。


 すると、横に座っていたジョーが私の手を抑えた。


 そして、私を横抱きにした。


「いやだな。アズキちゃんは、俺の村の幼馴染だよ」


「なんだと、ジョー、貴様の知り合いか?」


「そうですよ、隊長さん。1週間ほど前に、俺のことが忘れられないって村から出てきちゃったんですよ。それでしばらく俺の部屋に泊めていたんだけど。彼女も俺と一緒に冒険者の真似事をしたいっていうから今日はギルドに連れてきたんですよ」


 ジョーは私の体を引き寄せて、恋人同士のように肩を抱いた。


「ふうむ。そうなのか?」


「疑うなら、彼女の剣を見てくださいよ。おもちゃみたいな年代物の安物ですよ」


 治安部隊の隊員は私の剣をあらためた。


「たしかにとても使えた代物でなない」


「俺の彼女に変な疑いをかけないでくださいよ」


「分かった。分かった」


 治安部隊の隊員は私のことには興味を失った様子で、手配書をギルドの掲示板に貼ると帰って行った。


「ありがとう」


 私はジョーに言った。


「何のことだ」


「かばってくれて」


「別に、ただアズキちゃんが変な誤解を受けて面倒に巻き込まれたら嫌だと思っただけだよ」


 私達は、散開することにして宿に戻った。




 部屋のドアが叩かれた。


 私は警戒してドアのそばに行った。


「私よ」


 レイラの声だった。


「入ってもいい」


「どうぞ」


「こんな時間にごめんね」


「いえ」


「一言だけ言っておこうと思って」


「何でしょう」


「もし、アズキちゃんがあの手配の人なら、早くこの町を出た方がいいわ」


「……」


「アズキちゃんが何をしてきたかは関係ない。命の恩人だから、その借りを返したいだけ」


「命の恩人だなんて」


 レイラは首を振った。


「アズキちゃんがいなければ全滅していた。それは間違いないわ。だから力になりたいの」


「どうしたらいい」


「すぐに町を出るのよ。変装した方がいい。さっきのジョーのでまかせの嘘なんて、明日になればすぐにバレるわ。それにDランクの私達がサイクロプスの角を獲って来たことはもう噂で広まっている。私達だけじゃサイクロプスは倒せない。すぐにあなたは疑われて、治安部隊の詰め所に連れて行かれることになる。だから逃げて」


「分かったわ」


「これを着て変装したらいいわ」


 そう言うとレイラは男性の服をベッドの上に広げた。


「これは?」


「男装するのよ。奴らが探しているのは女よ。だから男になれば治安部隊の検問も突破できるわ」


「ありがとう」


「気をつけてね」


「他の皆には……」


「私から伝えておくわ」


「ありがとう。ジョーにはよくお礼を言っておいてね」


「分かった」


 レイラは部屋を出ていった。


 私は鏡に向かった。


 剣を鞘から抜いた。


 自慢の長い髪をバッサリと切った。


 男のように短くした。


 そしてレイラが用意してくれた服に着替えた。


 腰に剣を吊ると、私は部屋の外に出た。


 宿屋を出て少し歩くと、向こうから治安部隊の一団が馬に乗って来た。


 そして、私が出てきたばかりの宿の前に止まると、馬から降りて、宿の中に入って行った。


 私は足を早めて急いだ。


 町は魔物から市民を守るために城郭が周囲にもうけてあった。


 私はその城郭の出口の門の近くまで来ていた。


 すると後ろから騎馬の駆ける音がした。


 とっさに茂みの中に隠れた。


 騎馬で駆けてきたのは治安部隊の兵士だった。


 馬から降りると大きな声で門の前にいた兵士たちに叫んだ。


「今から検問をやれ、この町から出てゆく若い男に注意しろ」


「どうしたんですか」


「例の脱獄囚がいるらしい」


「脱獄囚は女ですよ」


「それが、疑わしい女の部屋に行ったらすでにいなかったが、部屋に切った長い髪と女物の服が残されていた。おそらく髪を短く切り男の格好をして逃げたのだろう」


「分かりました」


(もう、バレたのね)


「おい、何かあの茂みにいないか」


「そういえば、さっき人影が見えたが、消えたな」


(どうしよう)


 その時、私はゲネスに教えてもらったエルフの間接魔法を思い出した。


 エルフが発明した、エルフの村にだけ伝わるものだ。


 エルフが森の中で敵と闘う時に、自らの姿を森の木々に同化させて、姿を隠すというものだ。


 その魔法をつかうと自分の体の見かけを変えることができる。


 私はその魔法を自分にかけて茂みと同化した。


「おかしいな。誰もいない」


「見間違いだったのだろう」


 私のいる茂みを見に来た治安部隊の隊員は、見回して誰もいないと思い戻っていった。


(この魔法、木々以外の姿にはできないのかしら)


 ふと、私は思いついた。


 私は、その場を静かに離れた。


 人気の無い池に行くと、擬態を解いた。


 そして、擬態化する間接魔法の応用を考えた。


(できるかしら)


 ゲネスは王族の家庭教師をしいていただけあり、教え方が上手かったし、理論的だった。間接魔法を基礎から理詰めで教えてくれた。だから、自分の頭で考えて応用する力もついていた。


(これでどう)


 魔法をかけた。


 池に映った自分を見た。


 男性の顔立ちになっていた。


 深夜に町を出ると不審に思われるので日の出まで待った。


 太陽が昇ると町の出口へと向かった。


「止まれ」


 私は止まった。


「どこへ行く」


「薬草採取です」


 治安部隊の兵は私をジロジロ見た。


「お前、女のような顔をしているな」


「何を言うんですか。男です」


「脱げ」


「えっ?」


「服を脱げ。女の脱獄囚が、男装して逃走している。女でないかどうかを確認する」


 私は服を脱いだ。


 治安部隊の隊員にジロジロと裸を見られた。


「なんだ男か」


「服を着たら、行ってよし」


 擬態の間接魔法は完璧だった。


 私は体も完全に男になっていた。


 私は服を着て、町の外に出た。


 外は自由な世界だ。


 私は男性の冒険者として旅することに決めた。


 そして、アバーデン刑務所から遠く離れた街に向けて歩き始めた。



つたない作品を読んでくださりありがとうございます。


ここまでで第1幕が終わります。


次からは、お待たせしました、いよいよ復讐篇(ざまあ篇)となります。


罠にはめて刑務所に送り込み、命までも狙った相手たちに、一人、一人と間接魔法を駆使しておかえしをしてゆきます。


ご期待ください。


なお、申し訳ありませんが、先月、今月とほぼ毎日投稿してきましたが、少し夏休みをいただきます。


リフレッシュしてさらに面白い第二幕、ざまあ篇を執筆いたします。


投稿間隔が毎日から少し間が開きますがご容赦ください。


なお、作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら


 下記の評価・ブックマークをいただけますと幸いです。


 作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。


 ありがとうございました。


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