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第2話 謎解き



 老人は出てきた壁の中に戻ろうとした。


「待って」


「何じゃ」


「話をしたいの」


「壁を壊したことについては、謝るが、補償はできない。じゃあ」


「そんなことじゃない。だから待って」


「何の用だ」


「もう何週間、いえ、何ヶ月も誰とも口をきいていなくて頭がおかしくなりそうなの。だから、お願い、行かないで」


「ワシと話をしたいのか」


 私はうなずいた。


「そう言われても、ワシは口下手だし、お前さんのような若くてべっぴんさんが相手だと、ますます話しづらいわ」


「まあ、若くてべっぴんさんだなんて、口が上手いじゃないの」


「おせいじでも、社交辞令でもない。事実じゃよ」


 私は久しぶりに人と会話ができて、すこし気分が晴れてきた。


「あなたの名前は何ていうの?」


「ワシか? ワシはゲネスじゃ。そう言うお前さんは何という」


「私はアンです」


「そうか、アン、よろしくな。ところで、どうしてお前さんのような若い娘が、こんな牢獄に入れられた」


「それは……」


 私はこれまであったことを老人に話した。


 任官して王女の特別警護隊員になったこと。


 同僚のロバートと婚約をしたこと。


 急に予定が変更になり、少ない警護で王女がデゼラン村へワインの新酒の視察に行ったこと。


 その村でオークに王女が襲われたこと。


 オークが王女を襲った時に私が王女の脇を離れてしまい、しかも急に動けなくなったこと。


 その責任を問われて裁判になり、終身刑になり、婚約も破棄されたことなどだ。


 老人はじっとその話を聞いていてくれた。


「それで話は終わりか」


「はい」


 老人は「はあ―」とため息をついた。


「お前さん、はめられたな」


「えっ!?」


「王女の仕組んだ罠にはまって、人生が終わってしまったな」


「ど、どういうこと? 罠? 王女が仕組んだ?」


「まあ、まあ、落ち着きなさい」


「これが落ち着いていられる!」


「今さら騒いでも仕方なかろう」


「あなた何者? それにどうして私が王女の仕組んだ罠にはまったなんて断言できるの!」


「それはなあ、ワシは元王女の家庭教師で、お前と同じように王女に嫌われて、ここに投獄されたからだよ」


 老人は淡々と言った。


 その老人のすべてを諦めたような静かなものの言い方が、逆に真実であるように思えてしまい心に突き刺さった。


「う、うそ、そんな……」


 私の頬に涙が伝わった。


「私が何をしたというの。王女様を守るために、精一杯頑張ってきたのに、それが、王女様が私のことをはめたなんて……」


 涙が止まらない。


「どうして、どうしてなの」


「まあ、お前さんを見れば、だいたい理由は想像がつくがな」


「なぜ、あなたに分かるのよ。いいかげんなことを言わないで」


「じゃあ、訊くが、お前さんは王女の護衛剣士だったというのだよな」


「そうよ」


「ならいつもすぐ側にいたのか」


「当たり前でしょ」


「異国の王子や国賓が来たときもか」


「もちろんそうよ」


「王子はお前と王女と、どちらの方の姿を長く見た」


 私は「アッ」と思った。


 隣国の王子が陛下の誕生日の祝宴に来た時のことだ、王子は王女に挨拶に来て、私の方ばかりを見た。


 そして王女に私のことを訊いた。


 王女が「護衛よ」とそっけなく答えると、王子は「こんな美しい護衛を付けることができるなんて素晴らしい国ですね」と褒めた。


 その後、王女はひどく不機嫌になり、私に当たり散らし、近くに寄るなと私をなじった。


「思い当たるふしがあるようだな」


 老人が笑った。


「婚約者は同じ王女の護衛の剣士だそうだな」


「ええ」


「ハンサムか」


「はい」


「お前たち、王女の前でいちゃいちゃしなかったか」


「それは……」


 ロバートは王女の前でも時々無邪気に私に愛情表現をしていた。


「あの王女は嫉妬深い。つねに自分が一番で、しかもタチの悪いことに他人のモノまで欲しがるタイプだ」


「それじゃあ……」


「王女は自分より美しくて外国の王子にモテて、さらにハンサムな婚約者がいるお前が目障りだったんだよ」


「ああ、そんな……」


 私はうなだれた。


「今まで本当に気が付かなかったのか?」


 私はうなずいた。


 私は馬鹿だった。


 だが、ふと、仮にそうだとしても、どうして終身刑にまでなったのかが疑問に思えた。


「でも、それなら私を王女の護衛からはずせばいいだけのことでしょ。どうしてここまでしたの」


「それは王女一人の犯行じゃないからだよ」


「えっ!?」


「何を驚いている。当たり前だろう。さっきの話だと共犯者がたくさんいる。みんなの総意でお前は潰されたのだ」


「どうして」


「その同行した隊長というのは誰だ」


「アントンです」


「何! アントンだと! まさか……。お前の父の名前は?」


「カールです」


「剣術師範のカールなのか。お前の顔にカールの面影があったのでもしやと思ったが、やはりそうか」


「はい」


「これで完全に謎は解けた」


「どういうことですか」


「まず、アントンとお前の父はライバルだった。剣術においても、恋愛においてもだ。アントンは若い頃、剣術の試合でお前の父に破れ、お前の母とアントンも結婚したがっていたが、それもお前の父に負けた」


 確かにアントンは父と同世代だったが、両親のことには何も触れなかったので知らなかった。


「それだけじゃない。あいつは極端な男尊女卑の思想の持ち主じゃ。かってのライバルの娘が女だてらに、男の聖域である王族警護の仕事を荒らすのが嫌だったのだろう」


 私は言葉にならなかった。


「もっともアントンがそこまで嫌うということは、お前の剣術の腕もすごかったのだろう。昔、お前の父に負けたのを思い出させるくらいの腕前ということなんだろう」


 確かに最近では若い頃の父を超えたと道場の高弟に言われていた。


「それから、現場で右前に不審者とか言っていた同僚の護衛剣士と事前に何かなかったか」


「何かとは?」


「言い寄ってきたのを振ったとか」


「ああ、ありました。だってロバートと婚約しましたから」


 婚約者がいるというのにゲイルはしつこかった。


 何度も自分と付き合えと迫ってきたが、断ってきた。


「そいつの名は」


「ゲイルです」


「なんと、あの人間のクズか」


「知っているんですか」


「もちろんだ。ワシは王女の家庭教師だったのだぞ。王女の警護担当者はもちろん知っている。ああ、あの嫉妬深くて小物で蛇のようにしつこいゲイルか」


「……」


「アンよ、お前は、王女とアントンとゲイルに恨まれていて、三人が共謀してお前をはめたんだよ。その結果、ここに収監されたというわけだ」


 私は肩を落とした。


「そうそう、忘れておった。裁判官は誰だったのじゃ」


「バランです」


「ああ、バランか。あいつならこういう役に適任だな」


「そうすると……」


「もちろんグルだ。バランほど賄賂に弱い裁判官はいないからな。あいつが王族の犬だということも有名な話だ」


 私に黒い疑問が沸き起こった。


(これが仕組まれていて、みんなグルだとすると……。まさかロバートまで)


「どうした。急に黙りこくって」


「そのう……、婚約者のロバートはどうでしょう」


「ああ、ロバートか、話を聞いていて思い出した。あいつは最年少で王族の護衛剣士に抜擢されたんだよな」


 その通りだった。


「あいつは、女好きだよ」


「えっ」


「強くてハンサムだろ、奴はもてた。それをいいことに、メイドをよく口説いていた」


 そんなことは全く知らなかった。


「婚約後、何か不自然なことはなかったかい?」


 そう言えば、休みの日、家に行っていなくて、連絡がつかないことが多々あった。


 だが、武術の特訓をしているのだろうと信じていた。


「周囲の勧めで幼馴染で名門の剣術師範の家柄のお前と婚約したが、やっぱり結婚を前にして、遊び足りないと思ったのではないか」


「そんな……」


 だが、こころ当たりはある。


 王宮の使用人たちにロバートとの婚約を話したら、あまり祝福されなかった。


 それどころか、メイド長は私になにかを言いかけて止めた。


 あのふるまいは不自然だった。


 みんなロバートの本性を知っていたのだ。


「どのみち、私は救われなかったのですね」


「そうじゃよ」


 そう言うとゲネスは壁の穴に潜ろうとした。


「待って下さい」


「なんじゃ、まだ話し足りないのか」


「いいえ」


「では、なんじゃ」


「その、お礼をしたくて……」


「お礼だと」


「はい」


 私は自分の食事のトレイを差し出した。


「まだ、手をつけていません。よろしければ召し上がってください」


「しかし、これは……」


「食欲がないのです。食べることができないので、次の食事の時間に回収されてしまいます」


「そうか。では遠慮なくいただくとするか」


 ゲネスはトレイを引き寄せると、食事を始めた。


「でも、どうしてあの時、私の足は動かなかったのでしょうか。足さえ動けば、あの距離なら、すぐに王女の背後の守りに戻り、オークを斬ることができたはずだったのに」


「ああ、それか。それはもちろん魔法をかけられたからじゃよ」


 ゲネスはパンをほおばりながら、こともなげに言った。


「魔法ですって!」


「そうじゃよ」


 ゲネスはスープを椀からすすった。


「魔法で足を動けなくするなんて聞いたことがありません」


「この国は間接魔法が遅れているからなあ」


「間接魔法?」


「そうじゃよ」


「魔法は攻撃魔法と回復魔法しかないのでは」


「アンよ。それはあまりにも不勉強じゃぞ。だからつまらない罠にはまるのじゃ」


「その間接魔法の話を是非聞かせてください」


 ゲネスは困った顔をした。


「あの、ご飯なら、またご馳走します」


「うーん」


「お願いします」


「困ったなあ」


 私は床に頭をつけてお願いした。


 ゲネスは諦めた顔をして語り始めた。





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