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第13話 ゲイルの最期


「さあ、話してもらうわよ。どうして裁判で嘘をついたの。あなたは、私に『右前方に不審者だ』と言ったわよね」


「それは、アントンにそう言うようにあらかじめ命令されていたからだ」


 そう言ってからゲイルは青くなった。


「なぜだ。どうして話してしまった。アン、お前、俺に何をした」


「自白してしまう魔法よ」


「馬鹿な」


「もっと訊くわよ」


「やめろ」


「アントンは何故私をはめたの」


「王女の命令だからだ」


「いくら王女の命令でも、部下を無実の罪で投獄することになるのよ。それにオークに王女を襲わせたのよ。そんなこと断るべきじゃない」


「アントンは、貴様のことが嫌いだった」


「どうして?」


「お前の親父を嫌っていた。それに女が護衛剣士になることもひどく嫌がっていた」


 アバーデン刑務所でゲネスが推理した通りだった。


「王女は何で私のことを嫌っていたの?」


「嫉妬だ」


「バラン判事は嘘を見破れなかったの?」


「やつもグルだ。王女に賄賂をもらい、出世を約束されて言いなりになっていた」


「最後に訊くけど、ロバートは……」


 そこで私は言葉に詰まった。ロバートのことは一番訊いてみたいことだったが、真実を知ることが怖い気持ちもあった。


「ロバートは、この件には無関係なんでしょ」


 絞り出すようにして、私はゲイルに訊いた。


 自白魔法がかかっているゲイルは訊かれるとペラペラと話し始めた。


「ロバートが問題だった。奴が俺やアントンの証言の不自然さを騒ぎ立てるとやっかいだった。だが、ヤツの方から落ちてきた」


「落ちてきた?」


「奴はお前との婚約破棄の機会を狙っていたんだよ」


「どういうこと?」


「お前、俺が口説いたのを覚えているか」


「もちろんよ」


「あれはロバートの差金だ」


「えっ!?」


「ロバートはお前との婚約の後に伯爵令嬢に見初められた。伯爵家の護衛の仕事中、魔物が出てきて、ロバートが退治した。うぶな令嬢はそれで一目惚れしてしまったらしい」


「でも……」


「そうだ。お前と婚約しているから伯爵令嬢との結婚は不可能だ。そこで奴はお前との婚約破棄を考えた。ただ一方敵な婚約破棄はできないから、お前が他の男と通じたことにして、破棄しようとした。それで、俺にお前を誘惑してなんとか関係をもってほしいと頼んできたわけだ」


 私はめまいがしそうになった。ロバートは幼馴染で信じていた。まさか、そのロバートが裏でそんなことを画策していたとは思いもしなかった。これがゲイルの単なる独白なら、ゲイルが私を困惑させ、自分を正当化するために嘘をついていると思うことができた。しかし、ゲイルは魔法で自白している。エルフが嘘つきの人間から、身を守るために発明した魔法だ。この魔法による自白に嘘はない。


「どうした。ショックか」


 ゲイルが黄色い歯を見せて笑った。


「だが、私はお前の誘いを拒絶した。ロバートはそれを知ってどうだった」


「ロバートはひどく落胆したよ。そこで、俺は王女とアントンが密かに進めていたお前をはめる計画を話した。それを聞いた時のヤツの顔は忘れられないよ。本当に嬉しそうな晴れやかな顔をしていた」


「今、ロバートはどうしている」


「伯爵令嬢と結婚したよ。父親の伯爵が死ねば、跡継ぎの婿殿として領主様だ」


 ゲイルが下品に笑った。


「ゲイル、お前は、私に何の恨みがあって加担した」


「恨み? そんなものねぇよ。ただお前みたいな自分は男よりも強くて、他のどの女よりも美しいなんて面をしている奴が破滅してゆくのを見るのが楽しいだけだ」


「そうか……」


「俺をどうするつもりだ。殺すのか」


 逆にゲイルが私に訊いた。


「いや。殺さない。その代わり二度と私の前に現れるな」


 そう言って私はゲイルを解放した。


「本当に殺さないのか」


 ゲイルは不思議そうに私を見た。


「失せろ」


 ゲイルは逃げていった。


 私はキャンディの様子を見た。当身をもらい気を失っているだけのようだった。キャンディを起こした。


「うーん」


「大丈夫か」


「アラン、ゲイル隊長が来て私を襲い、それで……」


「うん。分かってる。奴は私が追い払った」


「皆は?」


「ヤツの撒いた毒で倒れている。早く解毒魔法をかけてほしい」


「わかった」


 キャンディの魔法でハルとバイオレットは毒の効果が消滅し、さらに回復魔法で全快した。


「邪魔が入ったけど、これでクエストは達成ね」


「早く町に戻って、この薬草を町長宅に届けましょう」



  ◆ ◇ ◆ ◇



「ありがとうございます」


 町長が涙を流しながらベッドから起き上がった娘を抱きしめて言った。


「よかった」


「お礼をしなければなりません。皆さん、町長室の方へおいでください」


 私達パーティ全員で町長の自宅の隣にある町役場の町長室に移動した。


「これは約束していたお礼です」


 町長は金庫を開けると金貨が詰まった皮袋をいくつも取り出して、机の上に置いた。


「ありがとうございます」


 パーティを代表してハルが町長にお礼を述べた。


 すると、町長室のドアが乱暴に開け放たれた。


 町長の横にいた護衛が「誰だ!」と剣の柄に手を置き叫んだ。


「隊長!」


 入ってきたのは、髪がぼさぼさで血走った目をしたゲイルだった。


「お前、私達に毒をまいたろう!」


 ハルが詰め寄った。


「私も見たわ」

 

 バイオレットが怒った顔をして言った。


「うるさい。どけ。俺はそいつに用がある」


 ゲイルは私を指さした。


「こいつは指名手配されている脱獄犯だ」


「なんですと」


 町長が私を見た。


「気は確かか」


「そいつは、アンだ」


「アンだと? その指名手配犯は女だろう。アラン殿は男だ」


「だからアンが男に化けているんだよ」


 そう言うとゲイルは私のシャツに手をかけ、シャツを引き裂いた。


「どうだ」


 だが破れたシャツの下から現れた胸は平らな男性のそれだった。


「ゲイルよ、アランのどこが男なんだ」


「そ、そんな馬鹿な」


 ゲイルは私が顔だけ特殊なメイクをして変装していると思いこんでいたようだった。


「ぜ、全部脱がせば分かる」


「もうやめろ、ゲイル」


 町長が厳しい声で言った。


「町長、その男は私達がメタルピエロとメタルソルジャーを倒してメタル百合を手にすると、隠れていたところから出てきて、私達に毒を吹き、毒殺して、メタル百合を横取りしようとしました。それをアランが阻止したので逆恨みをしているんです」


 ハルが町長に言った。


「ゲイル、本当なのか」


「そのアランというのはアンだ。間違いない」


 町長は首を振った。


「ゲイル、治安部隊の隊長ともあろうものが、冒険者を毒殺して手柄を横取りしようするなど、とんでもないことだ」


 だが、ゲイルは町長の言葉など聞いておらず私を睨んでいた。


 私は静かに町長の横に立つと、ゲイルにだけ分かるように顔の偽装の魔法を解いた。


「ゲイル、もう終わりよ」


 アンの顔でにやりと笑って見せた。


「この野郎!」


 ゲイルが剣を抜いた。私はすかさず、ハルと町長の護衛にバフをかけて、攻撃力と敏捷性を大幅に強化した。そしてゲイルには動作が遅くなる間接魔法をかけた。


 ゲイルは私に向けて剣を振ろうした。


 私の横には町長がいる。


 町長の護衛剣士が真っ先に動いた。


 ハルも剣を抜き、二人は左右から斬りかかった。


 ゲイルはもともと剣技には優れていたが、私の魔法で敏捷性を失い大幅に動きは悪くなっていた。そこに、私のかけたバフで強化されたハルと護衛が迫った。


 護衛剣士の剣で、ゲイルの右手が剣を握ったまま飛んだ。


 ゲイルの体がハルの袈裟斬りで、斜めに2分された。


 私は吹き上がる血しぶきをよけた。


 ゲイルはただの肉塊になった。


「元々、不祥事を起こして左遷されて来て、こちらでも評判はよくなかったが、ここまで愚かなやつだとは思わなかった。諸君、よくやった」


 町長はゲイルの肉片を見下ろしながら言った。








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