第11話 決闘
「表に出ろ!」
ゲイルが、吐き捨てるように言った。
私はゲイルの後をついて外に出た。
広場に行った。
制服を着た男が進み出てきた。
「男同士の名誉をかけて決闘をするなら、私がジャッジを務めよう」
「お前は誰だ」
「私は治安部隊の副隊長だ。知っての通り、決闘では武器の使用は認められない。お互い男らしく素手で闘う。勝敗は本人が敗北を認めるか、戦闘不能状態と私がジャッジするかだ」
人だかりがしてきた。
ゲイルは吊るしていた剣をはずすと部下の隊員に渡した。
私も剣をキャンディに預けた。
私は、身体強化、防御力アップ、敏捷などの間接魔法を自分にかけた。
「では、これから決闘を始める」
ジャッジ役の副隊長が、挙げていた手を下ろした。
スタートだ。
ゲイルの拳が飛んでくる。
だが、魔法で動体視力と反応の速度を上げた私には、ゆっくりとした動きに見えた。
攻撃をかわしながら私は考えた。
(今ここでゲイルを撲殺すると目立ってしまう。それにゲイルを尋問して真実を自白させたい。獄中の推論で真実に行き着いたはずだけど、本人の口から陰謀の内容とかかわった人物について確かめたいわ)
私は、自分の敏捷性を落とし、今度はゲイルの速度を落とす間接魔法をかけた。
見ている聴衆は最初は私が機敏にゲイルの攻撃をかわしていたが、だんだん疲れて動作が鈍くなってきたが、それ以上にゲイルが息が切れて攻撃が雑になったように見えたはずだ。
ゲイルは、こんなはずじゃないという顔をしていた。
自分の体が思うように動かないことに焦りを覚えているのだろう。
やりすぎると間接魔法をかけていることがバレるので、それぐらいにして、私は攻撃に転じた。
ゲイルの顎を掌底で打った。
そして、腹に膝蹴りを入れた。
ゲイルは苦しそうに前かがみになった。
その頭をかかえて、さらに膝蹴りを顔面に何度も入れた。
ゲイルは鼻から血を出して崩れるように倒れた。
掌底と膝蹴りで脳震盪を起こしているはずだった。
ゲイルは立ち上がれない。
私はジャッジ役の副隊長を見た。
迷っている様子だった。
なので、私はゲイルの元に行き、倒れて意識を失っているゲイルの腹を蹴り上げるまねをした。
「それまでだ」
その攻撃がゲイルの命にかかわると判断したのか、ゲイルの戦闘不能を告げて、私の勝利を宣言した。
野次馬から歓声が上がった。
私はキャンディから剣を受け取ると店に戻った。
「すごいわ」
キャンディは私の腕をかかえるようにして大きな胸を押し付けてきた。
ハルとバイオレットは顔を輝かせて私を見ていた。
「アラン、やるじゃない!」
「動いたので喉が乾いた。飲み直そう」
私はエールを追加で注文した。
「ところで、あの治安部隊の隊長はどういう奴なんだ」
ゲイルが、なぜここで治安部隊の隊長をしているのか情報を収集をしておきたかった。
「最近、王都から派遣されてきたんだよ」
「何でも王都では護衛剣士をしていたって自慢していた」
「でもどうしてそんなエリートが、こんな辺境で治安部隊の隊長をしている?」
「噂では女癖が悪くて、王都で騎士の妻を寝取った上に、公金を横領した疑惑もあって、辺境警備に飛ばされたみたいよ」
「そうなんだ」
「でも、アラン、注意した方がいいよ。あいつは蛇のようにしつこいから。きっと逆恨みして、これからも何かと嫌がらせをしてくるよ」
「分かった」
飲み会はそこでお開きにして、宿に戻った。
宿に戻り、寝ようとするとドアが叩かれた。
私はゲイルが報復に来たかもしれないと思い、剣を手にしてドアの前に行った。
「誰だ?」
「私よ」
キャンディの声だった。
ドアを開けた。
キャンデイが薄いネグリジェ姿でそこにいた。
「早く入れて、この格好を人に見られたらはずかしいわ」
「キャンディ、こんな遅くにどうした」
「お礼が言いたくて……」
「それならもう十分に聞いたよ」
キャンデイが急に抱きついてきた。
「アラン、ここで一緒に寝てもいい」
「それは……」
キャンディは勝手に私のベッドの中に入ってしまった。
「キャンディ、遅いから部屋に戻りなさい」
キャンディは首を振った。
私はため息をついた。
キャンディを部屋に戻すのは難しそうだった。
諦めて、ベッドに横たわった。
だが、私は外見は男だが、中身は女だ。
キャンディは何かを期待して来たようだが、それを無視して背中を向けて横になった。
今日はいろいろなことがあり疲れていたからすぐに眠りに落ちた。
「ねぇ、キャンディと何かあったの」
ハルが心配そうに私に訊いた。
「何も」
朝からキャンディは不機嫌で私をわざと無視していたので、ハルが心配して訊いたのだ。
キャンディは朝まで私の部屋にいたが、もちろん、私とは何もなかった。
そのことに彼女は気分を害しているようだった。
なんとなくきまずい雰囲気だったが、たんたんとクエストをこなした。
夜になった。
「飯に行く?」
ハルが訊いた。
「いや、今日は一人で食べる」
何かもの言いたげなキャンディを残して私は路地裏に一人で入っていった。
誰も後をつけてきていないのを確認すると、自分の顔に魔法をかけた。
アランから老人の顔になった。
幸い服は一般的な冒険者がよく着ている個性のない服なので顔が変われば、アランと同一人物とは誰も思わない。
私は、酒場のある一角へと向かった。
2軒目の酒場に奴はいた。
一人で、腫れた顔でちびちびと酒を飲んでいた。
「これは、これはゲイル様ではありませんか」
ゲイルは不機嫌そうに顔を上げた。
「お前は誰だ」
「ご存知ないのは当然です。実は私は王都から来た者です」
「王都だと?」
「さようでございます」
「どうしてこんな田舎町に来た」
「私はメタルを扱う商人でして、こちらに買い付けに来ているのです」
「俺のことをどうして知っている」
「護衛部隊剣士たちの御前試合です。ゲイル様はあの時、大活躍されましたね」
「ああ、あれか」
その御前試合で優勝したのは私の元婚約者だった。
ゲイルは決勝で彼に破れ2位だった。
「剣士として名高いゲイル様にこうしてお会いできたのも何かのご縁です。もしよろしければご馳走させて下さい」
おごってもらえると聞いてゲイルは顔を輝かせた。
タダ飯タダ酒が大好きなセコイところは少しも変わっていない。
「お好きなものをご注文下さい」
「おい、この店で一番高い酒をもってこい!」
ゲイルがウェイトレスに叫んだ。
そして、私達は乾杯をした。
「時に、ゲイル様、そのお顔の傷はどうされたのですか」
「何でもない。ころんだだけだ」
「そうですか」
「それより、何か面白い話はないのか」
「面白いと申されますと?」
「儲け話とかだよ」
「そう言えば、こんな噂を耳にしました」
「もったいぶらないで早く話せ」
「町長の娘の病を治す薬草を、とある冒険者たちが、近日中に採りに行くらしいです。なんでもその薬草には大層な報奨金がかけられているそうです」
「その薬草の話なら知っている。俺も採りに行った。だが、やっかいな番人がいる。これまで何組もの冒険者がチャレンジしたがみんな失敗した」
ゲイルが興味を失ったような顔をした。
「でも噂では今回の冒険者は違うそうです。なんでもメタルピエロの精神撹乱魔法を無効化できるポーションを持っているそうです」
「なに、ポーションだと」
「ええ、何でも精神撹乱魔法を使う魔物を退治した時に、その魔物の肝から作ったものだそうです」
「そんなものがあるなんて聞いたことがないぞ」
「まあ、噂です」
「で、そのパーティの名は? メンバーは誰だ」
「私はこの町の人間ではないので詳しくは知りませんが、女3人と女のような顔立ちの男との4人組らしいです」
「やつらだ……。くそう。やつらめ」
「なんと言われました?」
「いや、何でもない。それより、そいつらはいつ薬草を採りに行く?」
「さあ、私もそこまでは知りませんが、近いうちらしいですよ」
ゲイルは何か考え事をするように黙ってしまった。
「では、私はそろそろおいとまします。高名な剣士のゲイル様とご一緒できて幸いでした」
私は酒場を出た。
路地裏で顔をアランの顔に戻した。
(やった。成功だわ。ゲイルは食いついたわ。多分、私達のパーティを狙ってくるはずだわ。薬草かそれともポーションを横取りするためにね。その時がチャンスだわ)
私は宿に戻った。
今晩は、キャンディは来なかった。
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