転移されてしまう俺たち。
「天は二物を与えず」という言葉を知っているだろうか。
「人が一人でいくつもの才能や能力を兼ね備えるのは難しい」という意味らしい。
全くもってその通りだ。才能をいくつも持つなど早々ない。
まさに俺がそうだった。
まあ焦るな。楽な姿勢になって聞いてくれ。時間はいくらでもあるからな。話をするとしよう。
俺がこの世界に来たところからー
「メシ食おうぜメシ!」
「ああ、もう昼だしな」
話しかけてきたのは大垣 良平。茶髪だが地毛。別け隔てなく接する好青年で、俺の数少ない友の一人。
「えっと、僕も一緒に食べたいな」
そう言ってきたのは黒志賀 香史。黒髪のショートヘアで、女っぽさはあるが男だと俺は思っている。こいつも俺たちの友だ。
「いいぜ!みんなで食ったほうがうまいしな!」
「ありがとう……」
さて、そろそろもう一人も来る頃合いか?
「私も混ぜてもらっていいだろうか?」
お、きたきた。こいつは蒼空 空亜。名前通りの空みたいな青い髪に染めているクールビューティー。うちのクラスの委員長をしている。
「もちろんだ、良平もいいだろ?」
「お、おう!空亜さんも一緒に食おうぜ!」
俺たち四人はこの高校で初めてあったが、この2年で色んなところに行った。心でもつながっていると思っている。
「またあいつ良平と食ってるし」
「何なの?教室の隅でじっとしてるだけのやつになんで話しかけたりするの?」
「香史君と仲いいのもムカつく」
「空亜さんとなんであいつが仲いいんだよ……」
「またか。懲りないなあ、あいつらも」
「仕方ないわね、馬鹿に何度言っても分からないものは分からないから」
「達魔君はいい人なのに、なんでみんな気づいてくれないのかな……」
あ、紹介が遅れた。俺は藤芝 達魔。いつもは隅の方で小説読んでる、言ってしまえば陰キャである。
「別に、自分のことを分かってくれるやつがいれば、後はどうでもいいさ。それより腹が減ったから早く学食行くぞ」
「そーするとしますかね」
「うん。僕もお腹すいちゃった!」
「今日の日替わりは生姜焼き定食みたいだな」
なんの変哲もないただの日常。ただ、そこまでだった。その後から、変わってしまったんだ。
「え、ちょっ……なにこれ!?」
ふと振り返ると、教室の中心から光る文字の書かれたサークルが広がっていた。魔法陣ともいう。
「何、何?!」
「これなんかやばいやつ?」
「……意味がわからんのだが」
三人共状況を掴めていない。いや、それは俺も同じだったか。
瞬く間に教室全体に広がった魔法陣は、俺たちを光で包んだ。
ー後々聞いたところによれば、うちのクラスの全員がいなくなってたらしい。
「はー眩しかった、何なの今の……」
「ねえ!ここ教室じゃないよね?!」
「つうかなんだここ!?」
「なんか天国見てぇじゃねえか?」
見知らぬ所に飛ばされたにもかかわらず、ガヤガヤと騒ぐクラスメイトたち。
そんな中、俺は考え込んでいた。
(これ、この後神かなんかが出てきて、「あなた達を転移させたのは私です」とか「あなた達の力が必要です」だとかいうんじゃないのか?)
そしてその予感は当たるのだった。四十五度くらい上で。
「小奴らがお主が連れてきた異世界の者たちか?」
「あまり強そうには見えんが」
神様っぽい爺さんと、ムキムキの男が出てきた。
「大丈夫です。きっとこの世界を守ってくれるはずです」
そしてその後ろから、とても美しい女神が現れた。おそらくここに飛ばしてきたやつだろう。
「あの、これって一体どういうことなんですか?」
クラス副委員長の穀田 大我が神のような爺さんに聞く。
「儂らはお前たちの住む世界とは別の世界で崇められている、神と呼ばれる存在だ。儂は知恵の神カストロフ」
「俺様が戦いの神アレキサンダーだ!」
「私は豊穣の神フィルナと申します。早速ですが、あなた達に頼みがあります。
私達の世界を、救ってください」
女神ーフィルナーの一言で、また騒がしくなる。
「あのー、私ら戦うこととかほぼないんですが。剣も持ったことないし無理です」
ハッキリと断ったのは、うちのクラスでは空亜についで人気のある夕方 茜である。こっちも名前通りの赤髪に染めている。
「心配はいらぬ。お前たちのような異世界のものには、特別な力……そちらで言う【特殊スキル】があるはずだ」
「まあそれがどんなものなのかは、見てみなきゃ分かんねえがな!」
「早速、皆さんのステータスを見てみましょう」
そういった女神の手には、水晶が握られていた。
「この水晶が、皆さんのステータスを見せてくれます。慣れれば自力で見れるようにもなりますよ」
正直、自分がどんなステータスが気になる。だが、みんな自分が弱かった場合を考えると、一番最初には行きたくないようだった。
「私が行くしかないな」
委員長としての使命感が動かしたのだろう、空亜が最初に名乗りを上げた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ。ゆっくり慣れていけばいいのですから。」
「ありがとうございます」
そうして、空亜は水晶に手を置く。
「ほう!特殊スキルは【天空の女王】に【気候魔術】!2つも持っておるとは……!」
「それだけじゃあねえ!能力値が防御力以外は15を超えている!大当たりの中の大当たりだ!」
神二人のベタ褒めを聞いても、その表情は変わらない。だが俺たちにはなんとなく伝わった。
「安心してるね」
「表情変わらないからわかりにくいけど、やっぱ緊張してたんだな」
「まあでもこれでさ、みんなも行きやすくなったんじゃね?」
上から香史、俺、良平。2年間の付き合いだから分かった。
「つ、次は俺が行きます!」
そこからは、かなりスムーズに進んでいった。みんな何かしらの特殊スキルと、かなり高い能力値があった。副委員長の穀田はスキルと能力値が噛み合わなくて泣いていたが。
だが穀田を含め、空亜、香史、良平、後は夕方も特殊スキルは2つ持っていた。そして最後、俺の番が回ってきた。
「いい感じにサポートができるようなスキルがいいが……」
「まあ、それは運次第みたいなものになりますね。それでは、どうぞ」
水晶に触れる俺の、ステータスが出たー
「な、何じゃこれは?特殊スキルなし?」
「魔力値は1000……神レベルの能力値だが、ほかはオール10か……これで魔術力高かったらなあ……」
なんとまあ、特殊スキルなしだった。
魔力って他の人に貸すことできないのかな?
「ふざけるな!!」
とんでもなく大声で叫んだのは爺さんの方だった。
「フィルネぇ!!貴様、貴重な召喚に三人も使えぬ奴らを呼び出すとは、何をしておるのかぁ!!」
そう、ステータスが芳しくなかったのは俺だけではない。
【魔の者吸収】という特殊スキルだった虚凪 龍乃。
【騎馬王】という特殊スキルの天草 菜月。
そして特殊スキルなしで魔力のみ神と同等の俺。
三人も外れがいるのは想定外……というかあってはならなかったのだろう、ジジイ的には。
「特殊スキルなしなどあってたまるか。女神もろともこの地から消え失せぇえい!!」
その瞬間、俺とフィルネの足元に、魔法陣が現れ、俺たちはその場から消えたー
「な!何をしてるんだ爺さん!?」
「使えぬゴミを捨てだけじゃわい!」
「魔力が神レベルで高かったぞあいつは!まだどうにかなるレベルだろ!
おまけにあいつまで……フィルネまで追放はやりすぎやしねえか?!」
「口答えをするな!あいつのように飛ばしてやろうか?!」
「ぐっ……」
「ちょっと待って下さい!なんであいつが使えないなんて決めつけるんですか?!」
「そうですよ!あの人は、達魔君は魔力が高いんですよね!?それにあの人はいい人なんです!」
「私達がここに来たのも、女神が召喚したからだ。その人を追放とは、少しやりすぎなような気がしますが?」
「うるさいぞ!ただの異世界人のくせに!!特殊スキルのないやつはただのゴミに過ぎん!」
「何だと?!」
「そこの二人もだッ!!真面目にやらぬなら、あのゴミの二の舞いだぞ?!」
「……っ!」「………」
「話は終わりだ!外界で修練を積め、儂からは以上じゃ!!」
そう言って、残ったものたちを外界に送るカストロフを見るアレキサンダーは、
(何だ?なんでこのジジイはハズレが3人でこんなに怒る?しかもフィルネまで追放しやがるとは……)
と、疑念を募らせていた。