手厚い供養
この世界の人はみんな傲慢です。
ザグレートを倒したことで精霊兵たちはあっという間に引いていった。まるでザグレートの強化具合を測ったみたいな戦いだった。
『まだまだ研究が足りませなんだな! ザグレート殿、申し訳ありませぬ! おさらば!』
「動きは掴めてますぞ! 今度は我々が攻めますでな!」
ムバウばあちゃんはブレアの足取りを逃がさない。ボクたちが攻めたらたぶん倒せるんだ。でも巧妙にソックセンやダンジョンや帝国を盾にして逃げ回ってる。悔しい。追いきれないんだ。
ボクたちも店を三日休んでるからなあ。店を辞めることももはやできない。さすがにボクの生産が止まると幾万もの人が飢える計算だ。ボクにできるはずがない。
仕方ないので敵兵と、ザグレートの死体は回収する。弔わないとね。死体運びは心臓に来る重労働だ。鎧とかも剥がさないとだめだし、ドッグタグみたいなのがあれば剥がさないと。処理は冒険者ギルドに任せる。
火葬は普通は燃料代がバカにならないんだけど、土葬より衛生的なんだ。何百年か前に切り替わったそうだ。病気が広がるからね、土葬。ゾンビも出るし。セレナが燃やしてくれるからボクらは火葬を選んだ。
ザグレートの鎧はさすがに燃えないので剥がした。馴染みの顔のザグレートが鼻や口から血を流してるのを見て、ボクは涙を抑えられなかった。ボクはなんて傲慢なんだ。自分でやったことだろ。
モアリースト司教にお願いして、聖人を供養するレベルの法要を行ってもらった。
ごめん、ザグレート、ごめんねえ。
「う、う、うわああああああああああんん……」
なんでだ、なんでボクらは争う。なんで知り合った人たちを自分から殺しに行かないとダメなんだ!!
分かってる! 倒さないと大切な人たちが、町の人たちが、騎士たちが死ぬからだ!!
嫌だ! ならボクが一人で戦おう!! 戦争を望む奴らはお望み通り全員ぶち殺して食いぶちをゼロにしてやるよ!!
これ以上ボクを苦しめるんならいい度胸だ。この世界を灰塵に帰しても、友達が殺し会うような世界は、消してやる。
……いや、さすがに世界は消せないけどね。世界は悪くないんだって。戦争してる人間が悪いんだから。ボクは頭悪いなあ。どうしたら争いが消えるのか分からないよ。毎日パンを出して飢えは減っているのに。
まだ世界が安定するほどじゃないんだなあ。ブラック企業だけど頑張ろうか。
今は、この炎の中で、灰になっていく人々のために祈ろう。ボクは,なんて、弱いんだ。もっと傲慢に生きないとダメなのかもしれないね。
………………(ある女騎士の視点)
戦いが始まった。敵は魔術的に強化された精霊人とか精霊兵と呼ばれる兵隊たちだ。学者で魔術師のセレナ様が言うには精霊は無理矢理使役すると力を失うらしい。自然現象そのものなのだそうだ。
だが魔力や属性自体は残るので侮れないと聞いた。私たちは相当な訓練とルーフィア女王様のパンで強化されてるので負けないとも。
まずは自分達で敵前線を打ち破り露払いをしなくては、私たちが騎士をしている意味がないだろう。
私たちはゴブリンの方たちとも連携して敵を蹴散らしていった。ゴブリンやゴリラが味方にいることに少しクスリと笑ってしまう。他の領地や国では魔物でしかないと考えられているが、現実にテイムされた魔物と共に戦う話はよくある。
しかしこの魔物たちの半数以上はテイムされていないらしいのだ。つまり純粋に人と魔物が協力している。驚くべきだろう。私たちは通じ合えるということなのだ。魔物と人間が。
中にはゴリラに脚を持たれて大剣を突きだし、武器のように振り回されている騎士がいる。訓練でも見たことがあるな。必殺技と言っても過言ではないだろう。豪快だ。先輩の騎士だが凄いといわざるを得ない。なぜそんなに魔物を信頼できるのだろう。
この領地では人と魔物が一体となっている。人はもちろんエルフやドワーフや小人や妖精や魔族も、みんな一つだ。一丸となって戦っている。普段の暮らしも賑やかで楽しい。
前にあったお祭りも楽しかったな。すれ違ったゴリラに美容スキルを使われたのは笑った。鏡で見るとすごく髪とか肌がつやつやになっててさらに笑った。
そして気づいた。私はこの領地のために生きる。この領地のために戦える、そういう気持ちになっていた。
先輩騎士たちの後を追うだけではだめだ。連携して精霊兵を仕留める。
先輩が攻撃を受け止めたのを見計らって横から脇腹に突きを入れた。精霊兵が崩れたと見て先輩がすぐに首をハネる。先輩は私に親指を立てて笑いかけてくれた。これでいいんだな。その後も連携していささか強い精霊兵を、一方的に切り崩していった。
戦いは完全に優勢。そんな中で敵のボスとおぼしき黒鎧の男が現れる。そこからが圧巻だった。
エリメータ様と呼ばれる勇者様が敵の雑魚精霊兵を千ほど、一瞬で切り刻んでいく。複数人でやっと倒していた私たちがバカみたいな強さだ。そして、
ルーフィア様が飛び出した。なんだあれ。あれが人間か?
黒鎧の男は軽くないだろうに視認できないほどの遠くまで殴り飛ばした。化け物か、いや、女王様だ。私たちの。すごい。
相手も立ち上がる。さすがにタフだ。しかし女王様の謎の放水でどうやら中身が死んだらしい。肺を焼かれて窒息したようだ。あれでも人間だったのだな。私たちではとても敵いそうになかったが。
しかし、凄まじい戦いだったな。敵の大将を撃破したからか、敵兵士たちは引いていったが、うーん、不思議だな。私たちはあまり疲れていなかった。命のやり取りをしていたのにな。
これがルーフィア様のパンの力なのか。こんなもの最強じゃないか。
共に戦った騎士たちと、この後は宴会をするらしい。その前に敵兵の供養だ。
その最中、ルーフィア様が泣いていた。慟哭と言った方が正しいか。まるで空気を悲しみで満たさんばかりの涙に、多くの騎士たちも、私も泣いていた。
戦いは悲しいものだ。早く全ての戦争が、終わったらいいのに。
ひとしきりみんなで泣いて供養を終えた。セレナ様が死体を全て燃やし、火葬をした。その時セレナ様も泣いていらした。また私も涙を溢れさせている。
今は夏でも寒く、作物がほとんど育たないで飢饉が毎年のように起こっている。誰もが飢えている。そんな季節に、ルーフィア様は食料を生み出すスキルを得て、人々を満たし、癒している。
神様、どうしてこのスキルをみんなに与えないのでしょう。たまたまルーフィア様に話が聞けた。
「そんな人ばかりになったら誰もが畑を耕したり魚を獲ったり肉を獲ったりしなくなるじゃん。それって生活してると言えるのかな? ボクはこのスキルはボクだけが持ってるの、当たり前だと思う。人の営みは壊しちゃダメなんだ」
深い。人によっては仕事を苦痛と思うけれど、実際ルーフィア様ですらそう思ってるらしいけど、でも、仕事の無い世界とは同時に生き甲斐もない世界だと、そう、思った。
私たちは騎士だから、命を奪うことも仕事だ。それはとても悲しいけれど、誰かを守る仕事でもある。
誰かを守れたことを誇りに思いつつ、倒した敵の魂のために祈ろう。そうして世界は回っていく。とても、傲慢だ。
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謎の女騎士さんにごろりんこしてもらいます!
「このムーブメントやらないとダメな気がする」




