オレンジお姉さん
とうとうこの方がごしゅつじんです。
王都の一角で薄いオレンジのコートをまとった少女が、ふらりとブティックに入った。店内を見て回り、良さそうな品をいくつか見繕う。
いざ支払いをしようとして大金貨を出した。
「大金貨なんか出されても釣りなんかないよ!」
大金貨一枚で十万グリン、パンが一個十グリンなので確かに払いすぎである。
「まあ釣りがいらないならもらっておくけどね! さっさとお帰り!」
ずいぶんと失礼だし、さすがに取りすぎである。少女は商品も持たずに店を出た。
「ふん、どこの田舎貴族の娘だか。商品も忘れていったし。丸儲けだよ!」
店主の太った女は腹を揺らして笑う。その時、声が響いた。
『許せない』
『許せない』
『我らのかあさまをおとしめた』
「は?! はあ?!」
ブティックの中からは腐臭が漂い始める。服が腐れ落ち、アクセサリーまで腐り、レジが腐り、硬貨が腐っていく。
「な、な、な、な?!」
手に持っていた大金貨も腐り、ついには建物まで腐り始め、女の衣服も腐り落ちた。やがて手足まで腐り始める。
『お前は世界を敵に回した』
オレンジの少女が何かをしたわけではない。ただ、敵に回した世界が反撃しただけである。
神に愛されないとはこういうことだ。そう言わんばかりの結果だった。
「……精霊たち、少しやりすぎかな?」
呟いたオレンジお姉さんは町の大通りを振り返りもせずに歩いていく。ちょっと買い物を楽しみたかっただけなのだが、やはり神は簡単に世界と関わってはダメらしい。寂しいことだ。
そのままオレンジお姉さんは中央の教会に入っていく。衛兵が止めようとしたが風の精霊が空気を止めたので窒息して倒れた。
オレンジお姉さんはそれをチラリと見たが、命までは取っていないのを確認するとそのまま歩いていく。
階段をテンポ良くステップを踏むように上る。人生を楽しまないと損であるとでも言わんばかりに。
ここは教会の中枢、教皇の住まう教会なのだが、まあ神である。教皇ごときに気を遣う必要はない。廊下もスキップしながらふんふんと鼻唄まで歌いつつ歩いていく。止めにかかった教会の司祭や司教は次々に倒れた。精霊たちが呟く。神の気分を害するなと。悪気はないようである。
やがてオレンジお姉さんは教皇が評定を開いている部屋にきた。
「やっほー! 神でぇす!」
明るく元気良く挨拶するオレンジお姉さんはとても可愛らしい。まあコートの襟を立ててフードを被ってるので顔はほとんどわからないのだが。
「な、何者?!」
襲いかかる衛兵たちの武器と鎧は一瞬で腐り落ち、呼吸も止まった。
「げんきー? 神だよ? 昔の約束覚えてるかな~?」
ルーフィアがここにいたら何キャラだ、と尋ねたはずである。残念ながら見ていないが。
「教皇は凡人の御輿にすぎず、配下の者共は私財を蓄えることしか考えず、酒を飲み薬をやり女を犯し、人も敵対するなら殺す。ずいぶんと楽しそうであるな。まったく見ていて吐き気を催す」
「な、な、な、貴女様は、もしや……本当に」
「神だが? 約束を果たしにきた。正しく私の言葉を残したか?」
その場にいる全員が凍りついた。それはそうだろう、王に言われるままに新聖書を書き、民には嘘八百の新聖書を信じ込ませようとしてきたのだ。
その場にいる新書派の司教が声をあげようとした瞬間に喉が腐った。腐臭が部屋にこもる。
『おかあさまに口答えなど許さん、人ごときが』
「精霊たちも多少やりすぎであるな。だが感謝しよう」
『ごめんなさいおかあさま。ちょっと手加減するね』
「な、な、な、」
「なあなあと、猫か貴様ら。返答はどうした。我との約束を貴様らは違えなかったのか」
「た、違えてしまいましたあ……申し訳ありません神よお!!」
本当にこの教皇は小物である。ただの御輿だ。この教皇は新書の編纂にも関わっていない。オレンジお姉さんもこの教皇を罰するのは違うな、と思っている。なにより素直に一番に謝ったし、信仰は捨てていないのだろう。可愛いものだ。
信仰は神のためのものではなく、人のためのものだ。神に人の信仰など必要ない。世界そのものを信じる信じないという人間などいない。そこにあるから神なのだ。信仰は人の心に安寧をもたらすためのものでしかないのだ。
「新書を全て消してお前たちの脳ミソをいじって二度と逆らわなくすることならできるのだ。何故しないか。我の慈悲が解らぬものは腐れ落ちるが良い。さて、返答を聞こうか」
この場にいる司祭以上の全員が自分たちが置かれている状況を理解した。世界に借りたものの返済を要求されているのだと。
私腹を肥やしていた司教は土下座し、失禁し、震え、私財全てを民に返すと誓った。
ある者は逆ギレしてオレンジお姉さんに襲いかかろうとしてたちまち腐った。
「臭い」
『空気を遮断するね』
「息ができないが?」
『呼吸必要だっけ?』
「そういえばいらなかった」
なぜ精霊とコントをしているのか。原典派の司教たちは笑いをこらえるのに必死になっていた。普通に笑える状況ではないはずだ。神の力か?
さすがに神を笑う原典派はいない、のだが、オレンジお姉さんは寂しそうである。
「笑ってもいいのよ? 人生楽しんで?」
「ぶはっ!!」
ついに一人が笑った。教皇は緊張で笑えていないが数人の司教は大爆笑だ。もともと敵対していた新書派が何人か死んだとて神の前で気にする必要もなかった。異常事態だが。神の力が働いているのだ。
まあ傍目に見ている教皇はおぞましい景色にしか見えないのだが。
そもそもオレンジお姉さんはなにもしていないのだ。精霊たちが気を利かせているだけである。
「まったく、神とは生きづらいものだ。そもそもがお前たちに約束を突きつける意味も本来はないのだ。魔法を与え、スキルを与え、裏切られる。まったく、我も惨めなことだ。反論せよ、教皇」
「なにも、言うことはできませぬ。信仰を取り戻すと約束することしか」
「それで良い」
それだけやり取りすると、オレンジお姉さんは消えた。
「なんかオレンジお姉さんの気配がすごくするんだけど」
「オレンジの姉様がどこかに降臨しているのだな」
「クラリスさん、すごくつまらないギャグの波動も感じる」
「オレンジの姉様がギャグをしても笑えないだろう、怖すぎて」
『失礼な。笑ってもいいのよ!』
「「オレンジお姉さん(姉様)話しかけてきたー!!」」
みんな人生を楽しんでね。また来るわ。オレンジお姉さんは去っていった。ちなみに誰にも本名のカリンと呼ばれなかったのでちょっとガッカリした。
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オレンジお姉さんの豪快なごろりんこをご堪能ください!
「ごろりーんこりんこ!」
やっぱり神は格が違った!




