最初の仲間
スキルパンと水の真価が明らかに!
ボクの旅は驚くほどに快適だった。なによりパンと水スキルのランクがデンジャラスな放水であっさり上がったことが大きい。ボクは今、カツサンドを食べている。デザートにはりんごケーキを食べるつもりだ。飲み物は紅茶にした。
そう、パンと水のスキルがCまで上がったらパンは好きなお惣菜パンからケーキまで出せるし水はジュースやお酒まで出せるようになった。ただでさえチートなスキルなのにすごすぎる。
途中で魔物に襲われたが高温高圧で濁った水を叩きつけたら狼やゴブリンでも倒せた。濃いお酒で酔わせたりもできた。消毒にも使えそう。
とにかく大量の水を召喚すれば押し流したりもできた。幸いなことにスキルは自分を傷つけない。自分を中心に熱湯を大量に噴射すれば簡単に身を守れた。さすがに熊とかは無理かと思ったが唐辛子入りの熱湯を顔に放水し続けることで撃退できた。……このスキル万能過ぎない?
最初の一週間ほどはスキルを鍛えつつ歩いた。村や町はいくつかあるが買い物以外では立ち寄らない。そもそも宿を取るお金がない。
寝床は水を地面に固定してその上で寝た。温かい水で、少し寒い春先だけどゆっくり眠れた。ちなみに自分で出したお湯は消せるので丸洗いしてその辺りに撒いてから消せば立ったままお風呂とかできた。
このスキル万能過ぎるでしょ?
しばらく旅をして、お金を稼ぐために大きめな町で惣菜パンを売ることも考えて、実際に商業ギルドと契約して売りに出した。
最初は、焼きそばパン、カツサンドや魚フライサンド、玉子サンド、ハンバーガー、ホットドッグなどを売り出したがまずまずの売れ行きだった。人は未知の食べ物には警戒心を持つものだ。なので、ソースの香りが高いもので、まずは香りで釣り上げた。同じ町で数日商売すればクチコミでお客が増え、行列が行列を呼んだ。
もし他の商売人ににらまれてもすぐに他の町に移れば良い。荷物なんてほとんど必要ないしどこでも店は開ける。それに原資がほぼいらないので丸儲け。余ったら魔力に還元すれば残飯すら出ない。商業ギルドと契約して場所代や税金などは取られるが、他の飲食店の商人とは比べ物にならない儲けが出た。人気が出てくれば客が守ってくれるようにもなる。
そんな風にお金をかなり稼いだボクはひとりで生活することを考え始めた。衣服なども新品を買いそろえられるお金ができたのだ。服などもスキルが与えられてからは安くなったそうだ。一着100グリン。惣菜パンは5~10グリンで売っている。高価なボリュームのある惣菜パンを10個も売れば買えてしまうのにその量ならひとりで買う人もいる。ボクがどれくらいお金持ちになったかは想像できると思う。さすがに家を買うのは大変だけど。
開拓村ならば家はタダで譲り受けられることもある。食料を無限に出せるボクは開拓村なら受け入れられるだろう。大歓迎されるかもしれない。
ルーフィアのパン屋は大盛況で商業ギルドでは正式に店を出さないか薦められたが、ボクはしばらく大きな町では暮らしたくなかったので「そのうちにとは考えています」とお茶を濁した。ちなみに受付嬢の人にみんなで食べてください、と言ってジャムパンやあんパン、ケーキ各種を毎回渡していたらお客がドッと増えた。ギルド受付嬢は最強の宣伝役だったのである。
あまりに長くいると離れられなくなりそうなのでギルド受付嬢の皆さんには惜しまれたけれど旅を再開することにした。ちなみにジャムパンは町のパン屋さんが再現していたし、サンドイッチも物は劣るとはいえ出回るようになっていたので大きな問題にはならない……と、思う。
そして再び旅に出て、野宿をしてふわふわパンを牛乳で食べていると、スライムがこちらをじっと見つめていた。いや、スライムには目はないけど。
洞窟に出るような酸性でどろどろの凶悪なスライムじゃなく、ボールを半分に潰したようなゼリー状の半透明な球体だ。可愛い。
ボクはなんとなく興味が湧いてきて、堅パンを出してスライムの前に置いてみた。
スライムはずりずりとパンのところに移動してゆっくりと取り込んでいく。そしていくらか食べた辺りでプルプルと震えはじめた。体に悪かったのか?
そう思ったが一瞬でパンを飲み込んだので美味しかったのかもしれない。このパンを食べると少し経験値が入るし体力が回復するしちょっとした擦り傷は塞がってしまうのだが、さらには相手の好感度をあげる働きがあるらしい。道理で素人なのに商売が大成功したはずだ。
ちなみにこういったスキルの微妙な効果もスキルを習得した時にインストールされているんだけど、あんまり頭が良くないボクは隅々までは理解していない。こうやって実践してはじめて分かるんだ。
女神様の言葉として聖書原典に書いていた通り、スキルは研鑽しなければ伸びないんだ。
今度は柔らかパンと堅パンを二つ並べてみる。スライムはまずは柔らかパンを半分食べて堅パンに移動。そちらは全部食べた。そのあとで残った柔らかパンを食べる。どうも堅パンの方が好みらしい。クルミパンとか色々と試してみたがダントツで堅パンが好きなようだ。惣菜パンもしっかり食べたけど。スライムの食欲は無限なのだろうか?
なんとなく愛着が湧いて、危ないかもと思ったがスライムを持ち上げてみた。ふるふると嬉しそうに震えるスライム。
《テイムに成功しました》
え? テイムしちゃった?! 召喚師や魔物使いのジョブやスキルを持ってないのに良いのかな?
これがこのスキル、パンと水の真のチートだとボクが気づくのは、もう少しあとのことだった。
とにかくテイムしたってことは名付けが必要だったはずだ。ボクはスキルについてはけっこう詳しいんだ。テイムした魔物に名前をつけたらパワーアップするらしいし。スライムといえば進化範囲がもっとも多い魔物としても有名だ。そのスライムを仲間にできたなら、ひとりで暮らすというのも不可能じゃない気がしてきた。
いつかアイリスやセレナとも暮らしたいけど、しばらくはスライムと気楽に暮らすのもありかもしれない。
「名前かあ。安直だけどライムにしよう。美味しそうだし」
ボクってちょっと食い意地張ってるのかなぁ。ん、ライムと意識の深いところが繋がった感覚。ステータスも見れるみたいだ。
名前 ライム 種族 ウォータースライム 性別 女 年齢 0
レベル 5
HP 26/26
MP 20/20
職業傾向 魔術師
現職 初級水使い
神授スキル なし
一般スキル 水鉄砲 治癒水 種族スキル(ゼリースライム)
称号 ルーフィアの使い魔 大食い
うん、なかなか強いよ。十分な戦力だ。ってスライムにも性別あるんだね?
種族スキルはその種族が持っているスキルで、スライムだと暴食、軟体、単細胞生物、進化速度大、などがある。進化速度が速いからスライムは見かけたら潰せ、とか言われるんだけどね。基本は弱いし。ライムのレベルが上がってるのはパンのお陰で普通のスライムはこんなに強くない。まあ人間のレベル5よりはかなり弱いけど。個体差もある。
残飯を出すくらいなら全部ライムに食べてもらおう。レベルとか上がるかもしれないし。
そうだ、水もあげてみよう。コップを五つほど用意して濁った水、きれいな水、葡萄ジュース、ワイン、エールを出して並べてみる。ライムはボクの意識を読み取ったらしくしばらくはコップに触手を出して触れて、中身を確認した結果エールに飛びついた。
スライムがエール好きなのをはじめて知った。そういえばナメクジやヒルは炭酸にひかれると聞いたことがある。炭酸プールを用意したらたくさん集まってきたりして?
……大ヒルとか大ナメクジが集まったら気持ち悪いからやめとこう。
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