絶望の朝
溶岩で泳ぐ魚はおかしいと話題に出したのですが、ゴリラ美容の方がおかしくないでしょうか。
暗い暗い夜も、夜明けは来る。来なくても良かったけど、安息をもたらす夜の女神様に申し訳ない。まあこの世界の女神様は星たちの女神様なので夜に感謝するのは必然だ。ボクは神学にも詳しいんだ!
……朝は来るね。死ねるのが幸せなんだってわかる。そんなこと言ったらみんなが一斉に怒りそう。大丈夫、ボクは生きる。
アレス、嫌いだった。大嫌いだったよ!
いじめっこ。嫌いだったのに。あの時貝殻をくれた君は、とっても素敵だった! なのに!
ボクの答えがこれだ。君を死なせて。こんなのが人生なのか。こんなのが運命なのか。こんなことを神様はきめていないのに!
人生だ。仕方ない。
そう納得できたらいいのに。
どうして、どうしてよ。ボクだけ、誰かの命の上に生きていく。
ああ分かってる、勝手な考えだって。傲慢な考えだって。
ボクだって誰かだって生きてる上でいっぱい命を刈り取ってる。セレナはそれに感謝するべきと、手を合わせて祈る異国の風習を教えてくれた。いただきます、ごちそうさま、と。
私たちは命をいただき、命でその生を手伝う。
なら、ならば。
そのチェーンを切るボクのスキル、パンと水は邪道なの?
もう命を奪わなくてすむスキル。
だけど、ボクがいなくなったら消える、スキル。
神様、ボクは貴女を尊敬しているし愛してもいるけど。
このスキルに感謝もしているけど。
なぜですか。なぜなのですか?
なぜ人生はこれほど無慈悲で、ボクはこんなにも悲しいんでしょうか。
ボクだけじゃない、分かってる。でも。
……それでも豊かな暮らしのために、ボクじゃない誰かのために。
ボクは、愛を捨てなくてはならないのだろうか。
「そんなはずない。スキル:炎術:心炎。ごめん、チートした。ルー。ルーフィア。この世界の誰も貴女を嫌いになっていたりしない。大好きなの! でも貴女が辛いのを誰もが理解しているの。貴女が好きな人たちが亡くなっていったのを、私たちだって見ているの。だから、だから私たちは貴女を支えたい、貴女と生きていたい! 貴女を、貴女を幸せにしたいのよ!!」
だから、どうか、どうか、生きて。この世界は美しいんだと歌ってほしい。
そんな、人生で一番長い台詞をいって、セレナは。
ボクのベッド、というか狼のウォルイを押さえるような姿勢で、眠った。まあアイリスとリンゴもいるけどね。あったかい。
今日のボクは絶望の朝を迎えた。でも、ここに、ボクの友達がいて。
かなしいって、悲しいっていったら、彼女は必ずボクを支えてくれる。
……もちろん嫌だ。ボクは誰かを支えにして生きる自分が大嫌いなんだ。本気で許せない。ボクは傲慢だ。
でも、今は、違うね。貴女を貴女たちを幸せにしなきゃ。
こんな戦争が毎日のように起こる世界を、ボクが、解消しなきゃ。
ボクのスキルはパンと水。世界を、飢えのない世界にするよ。
有り難うセレナ。
明るい、明るい朝が来たんだ。
魔王様はなぜかとっても協力的。ボクらが前に進めるように、力を貸してくれるらしい。
なら、日常を始めよう。とても柔らかな朝日みたいに。
まずはミドリちゃんのゴリラ美容ね。なぜゴリラが美しい。しかもこのゴリラの美しさってゴリラや人間どころかゴブリン、スライムのライムにまで伝わっているらしい。すげえなゴリラ美容。
それはそれよね。えーと、ロバの非常食を連れて、なぜか非常食が恐れるセレナと愛おしいアイリスとリンゴを連れて、なぜかそのお母さんのクラリスさんもついてきて。スッゴい可愛い人なのにお母さんなんだよなあ。旦那さんは人間でもう亡くなったそうだけど、魔族の愛が深いのは知ってるけどまた恋愛してもいいんじゃない? リンゴを生んだはずなのに十六才くらいに見えるし。ボクはアイリスとセレナとリンゴとラブラブですよ?
ちなみに狼グループはベッドになるために闘争しているくらいなのでみんながふかふかで寝ている。なんなの、狼ベッド流行るの? ゴブリンも布団とかベッドをおごってるのに狼ベッド争奪戦してるし!?
やべえ、狼ベッドが人族の当たり前みたいになる未来を幻視した! 怖いから置いとこう!
さあ、さあ、ボクのお城から出るよ。ルーフィアパン店ずいぶん休んでしまった。お客さん来るかな?
狼ベッドで二度寝したいけどね!
スタンピードがあったばかりだけど、みんながごはんを求めてるなら、ボクは飢えを根絶する。ボクが一番許せないことだからね!
「もう大丈夫なのか?」
そう聞いてきたのはロンさんだ。大丈夫さ。
さあ、店を開こう。そうだ、きっちりした店舗を作ろう。商業ギルドも協力してくれるはずだよ。毎日のようにパンをおごってるからね!
ボクは大丈夫。またパンを売ってやろう!
キツいとか思わないな。楽しいよ。みんなの声が響く。このパンをくれ、あのパンをくれ、と。
ボクのパンって腐らないし傷まないそうで、団体客とかはいない。一人で数十個買ってく。つまり。
「ハンバーガー三十個!」
「ジャムパンとクリームパンそれぞれ十五個!」
「シーフードサンド! 悪いんだけど七十個!」
「エビチリドッグ! 十個!」
「なにそれうまそう、イートインでエビチリ三個! あと苺スムージー三個!」
へへ、楽しいね。毎日が戻ってきた感じがする。
朝には絶望してたのにもう元気なボクは、そうだった、そうだったね。
ボクは薄情なんだ。それを思い出した。
アレス、ごめんね、熱かったよね。君を倒すにはあれしかなくて。数千度まで上げられるのがパンの窯しかなくて。
ボクは弱いから、好きな人を殺さなくては生きていけなかったんだ。無力すぎる。
もっと、もっとだ。ボクは強くなる。大嫌いな人が助けてくれと言えば手を差し出せるくらいには。
とりあえずハンバーガー五十個積み上げよう。メルフィーナ子爵来たから。
やべえ、メルフィーナ子爵もしかしたらボクらに戦後賠償とか求めてきたりするの?
なんか壊したっけ? いや、逆に考えると報奨で貴族になれとか言われたり?
この国の貴族になるメリット塵ほどないか。断ろう。
「……? ハンバーガー、チーズが多い奴とトマトを挟んだ奴それぞれ二十個頼む。あとなんだったか、焼きベーコンを挟んだ奴も二十個。なぜ私が買い出しに来たのか」
ほんとだよ!! なんで子爵が買い出し要員なんだよ!!
「ははは、その顔が見たくてな! ……すまなかった。お主に痛みを、押しつけてしまって……」
「構わん! 私は、一向に構わん!」
魔王を倒した伝説の武道家のように、ボクはそう言った。
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